ブルーイとジャイルス・ピーターソンの新プロジェクトによる進化系ジャズ・ファンク

 インコグニートのブルーイことジャン・ポール・モーニックがコンパイルした『Brothers On The Slide』というコンピがある。タイトルにも引用されたサイマンデのほかに、アヴェレイジ・ホワイト・バンド、ゴンザレス、ココモ、ブライアン・オーガーやジョー・コッカーなどの楽曲を集め、70年代のUKファンクを中心に紹介したものだ。それらはインコグニートはもちろん、ブリット・ファンクとアシッド・ジャズの登場に大きな影響を与えたが、そのブルーイとジャイルス・ピーターソンのプロジェクトであるストラータ(STR4TA)は、こうしたルーツに新たに焦点を当てている。

 ブルーイやジャイルスが活動を始めた80年代初頭のブリット・ファンクは、パンクやレゲエ、ダブと隣り合わせのプリミティヴで粗々しいDIYサウンドだった。やがて、ジャズ・フュージョンやクラブ・ジャズを経て洗練されていったが、ブルーイとジャイルスはいま一度、プリミティヴなグルーヴに立ち返って、ストラータの制作を始めたという。

STR4TA 『Aspects』 Brownswood/BEAT(2021)

 ストラータは素性を明かさず、ホワイト盤にスタンプを押しただけの12インチでデビューした。セントラル・ラインやアトモスフィア、フリーズなど80年代のブリット・ファンクのバンドからの影響が伺えるサウンドがこの二人を中心に作られたことは、デビュー・アルバムで初めて公表された。レトロな方向だけを向いたのではなく、現行のUKジャズにも影響を与えたブロークン・ビーツ以降のプロダクションも通過したサウンドになっている。だが、洗練し過ぎず、初動の勢いを大切にして作り上げた意図は強く感じられる。

 前述のコンピのジャケットはまるでヒップホップ黎明期のブロックパーティーを想起させるが(ストラータのジャケットは海賊ラジオだ)、ブルーイたちのルーツを映し出しているのだろう。インコグニートとは別のアウトプットを今も提示できるところに、UKのシーンの懐深さを感じる。