©Alex Kurunis

大物同士のプロジェクトには最高の続きがあった……ブリット・ファンク再興をテーマに合体したブルーイとジャイルズ・ピーターソンは時代を超えるグルーヴを未来へ繋ぐ!

 インコグニートを率いるブルーイことジャン・ポール・モーニックと、ブラウンズウッドを主宰するジャイルズ・ピーターソンのプロジェクト、ストラータがまさかのセカンド・アルバム『STR4TASFEAR』を完成させた。素晴らしい初作『Aspects』(2021年)はブルーイ自身の履歴も含む80年代ブリット・ファンク・シーンに再敬礼した試みで、往年のムーヴメント自体にもそれ以上の興味が注がれることで単なるリアルタイマーたちのメモリアル的な意味合いを超える一枚となったが、両名の多岐に渡る活動を思えばそこまでパーマネントな活動となるとは思わなかった。

 特にここ数年のブルーイはインコグニートやシトラス・サン、ソロ名義作の三本柱で周期的にリリースを重ねてきたわけで、記念碑のように見えたストラータが新たな柱のひとつになるのだとしたらカムバックは嬉しい誤算と言えるかもしれない。ただ、2020年9月に初音源“Aspects”で姿を表したこのユニットは、そもそも正体を伏せた覆面プロジェクトとして始まっており、〈あの二人が組む〉という話題よりも作品そのものの内容を強調したかった企画にも思える。そう考えると顔合わせ自体のトピック感が薄れたセカンド・アルバムからがプロジェクト自体の本番という解釈もできるのではないだろうか。

STR4TA 『STR4TASFEAR』 Brownswood/BEAT(2022)

 今回も看板の裏にいる演奏陣はブルーイ軍団の面々が中心で、フランシス・ヒルトン(ベース)、フランチェスコ・メンドリア(ドラムス)、ジョアン・カエターノ(パーカッション)、トレヴァー・マイアズ(トロンボーン)、チャーリー・アレン(ギター)といった近年のインコグニート/シトラス・サンにおけるコア・メンバーが参加。前作の時点では驚かされたピーター・ハインズ(元ライト・オブ・ザ・ワールド~インコグニート)も引き続き名を連ねている。主役2名と共同でプロダクション面を担うのもお馴染みのマット・クーパー、スキー・オークンフル、リチャード・ブルといったブルーイの参謀たちだ。その制作陣にエンジニアのモー・ハスラーが加わっているのは大きな変化だが、変化という意味で新作を大きく特徴づけるのはゲスト陣の存在だろう。

 グルーヴィーな“To Be As One”とレトロ・フューチャー的な808系サウンドの“Soothsayer”ではセオ・クローカーのトランペットを大きくフィーチャー。エマ・ジーン・サックレイの歌唱がグイグイ牽引する“Lazy Days”も絶妙で、最前線の若手との手合わせはストラータに新たな側面を持ち込んだはずだ。

 一方では、何とインコグニートと並ぶ初期トーキング・ラウドの看板アクトだったオマーが“Why Must You Fly”でシンセを演奏。トーキング・ラウド組では、元ガリアーノのヴァレリー・エティエンヌが歌うシェリル・リン風の“Find Your Bounce”では(ソングライターにはロブ・ギャラガーの名も)も聴きどころだろう。もっともヴァレリーはブルーイ関連作でよく歌っているのでそういう新鮮味はないが(なお、スキー・オークンフルも元ガリアーノ)、こうまで名前が揃ってくるとブリット・ファンクから時代が進んでアシッド・ジャズ・リヴァイヴァルがテーマかのように錯覚してしまう。そう思えば元ブラウンズウッド組のアヌーシュカが溌剌とした存在感を見せる“(Bring On The) Bad Weather”も90sアシッド・ジャズのように響いてくるからおもしろい。

 感じ方はリスナーそれぞれのヒストリーに依るものだとして、結果的にはブリット・ファンクやアシッド・ジャズ、あるいはUKソウルと括られたサウンドたちの有機的な連続性と根本的な魅力を改めて堪能できる快作に仕上がった『STR4TASFEAR』。高い自由度と豊富な音楽的語彙を凝らしてより現代的なプロジェクトとなったストラータの今後からさらに目が離せなくなってきた、かも。

左から、ストラータの2021年作『Aspects』(Brownswood)、ブルーイの2020年作『Tinted Sky』(Splash Blue)、シトラス・サンの2020年作『Expansions And Visions』(Dome)、インコグニートの2019年作『Tomorrow's New Dream』(Bluey Music)、ロベルタ・ジェンティーレの2021年作『Bring It On』(Splash Blue)

『Str4tasfear』に参加したゲストの作品を紹介。
左から、シオ・クローカーの2022年作『Love Quantum』(Masterworks)、エマ・ジョーン・サックレイの2021年作『Yellow』(Movementt)、アヌーシュカの2021年作『Yemaya』(Tru Thoughts)、オマー+QCBAの2021年作『Live At Last』(Ubuntu)