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アシッド・ジャズのムーヴメントを牽引した伝説のバンドがおよそ30年ぶりに復活! 新鮮さと円熟味を融合したグルーヴは喜びと楽しさと幸せに満ち溢れている!

みんな旅の途中

 88年にアシッド・ジャズ・レコーズ最初の契約アクトとしてデビュー・シングル“Frederic Lies Still”をリリースし、90年にジャイルズ・ピーターソンがトーキン・ラウドを立ち上げた際もやはり最初に契約するなど、アシッド・ジャズ・ムーヴメントの重要な節目には必ず名が挙がるシーン最重要バンド=ガリアーノが四半世紀の空白を経て帰還。改めて活動を再開するにあたり、中心人物であるロブ・ギャラガーの胸に去来する思いとはいったい何だったのか。

ロブ「僕らはタイム・トラベルをしようと思ったんだ。人間の記憶や感覚、そして音楽から得られるフィーリングは、その曲を初めて聴いたときに引き戻してくれる。かつて僕たちはガリアーノという時代を楽しみ、その後も新しい時間と戯れてきた。それが何らかの形で影響し合うと、さらにおもしろい音楽が生まれる。さまざまな時間の断片を使って音楽を作り、そこから何を感じるかが興味深いと思ったんだ」

 直接的なきっかけは他にもあったようだ。同席したヴォーカリストのヴァレリー・エティエンヌの口からは意外な人物の名前が飛び出した。

ヴァレリー「友人のマシュー・ハーバートから彼の誕生日会で演奏してほしいと言われたのがきっかけだったのよ。そのギグのために、またみんなで集まって演奏したんだけど、それが本当に心地良くて。慣れ親しんだ感覚が甦ってきたのと、時間が経って前とは違う形で新鮮に取り組めたのが気持ち良かったのよね。ガリアーノとしての活動を終えたときのフィーリングを消化するのに十分な時間が経って、その後に再スタートしたのは、すごくいいことだったと思う」

ロブ「あと、僕らがガリアーノ以降にどうやって仕事をしてきたかも関係あると思う。僕はエレクトロニックな仕事が多かったから、同じ部屋で人と一緒に演奏するのをしばらくやっていなかったんだよ。ベーシストのアーニー(・マッコーン)が30年前に僕らがレコーディングしていたスタジオを持っていて、みんなで集まってそのギグのためのリハーサルを始めたら、だんだんおもしろくなってきたんだ」

ヴァレリー「それで勢いがついて、その年の終わり頃からレコーディングを始めたの」

 内輪のみで静かに終えるはずだった小さな企てが、とある人物の耳に入るのは自然の成り行きであった。その人物とはガリアーノが最初に世に出る大きな後押しをし、現在はブラウンズウッドを主宰する旧知のジャイルズ・ピーターソンだ。

ロブ「最初はただの遊びでやるつもりだったんだ。数回ギグをやって、その交通費稼ぎのためにブートレグをギグの後にでも売ろうか、みたいな感じでね(笑)。でも、ジャイルズがそれを聴いて〈すごく良いからちゃんとやるべきだ〉と言ってきて、それがきっかけで、本格的にアルバムを作り始めることになったんだ。彼は僕の親友だから、彼のレーベルと契約したのは自然なことだった。もっと大きなレーベルと契約できたかもしれないけれど、そうしていたらプレッシャーも大きかったと思う。自分たちが自然体でいられるレーベルだし、ブラウンズウッドが理にかなっていたんだよ」

GALLIANO 『Halfway Somewhere』 Brownswood(2024)

 制作に至る経緯が自然なら、制作に向かうメンバーのマインドも実に自然なもので、肩肘を張らないマイペースな姿勢は『Halfway Somewhere』というアルバム・タイトルに象徴的だ。

ロブ「僕らはみんな、何かしらの旅の途中だからね。いま自分がその旅のどの段階にいるのかはわからない。〈Halfway Somewhere〉という言葉は、その旅の過程を表現しているんだ。何事もどこか中途半端であり、僕ら自身も完成されてはいない。たぶん生涯ずっと何らかの〈途中〉が自分の周りには存在しているんじゃないかな。だから何かを得ることというのはもしかしたら過程ほど重要ではないかもしれない。アルバム・タイトルには、そういう意味が込められているんだ」