ポーター・ロビンソン(Porter Robinson)『Nurture』丸みを増した音選びと緻密なデザイン感覚で織り重ねた優しく染み入る新作

2021.04.28

Something Comforting
苦境を乗り越えて出口を見つけ出したポーター・ロビンソンが、みずからの体験を下地に織り重ねたオーガニックでポジティヴな美しさ――実に7年ぶりとなったピュアでナチュラルなニュー・アルバム『Nurture』の半分は優しさでできている!

 2016年にA-1 Picturesによる全編アニメーションのMVも話題になった盟友マデオンとの“Shelter”をリリースし、そのコンビで来日公演も実現した17年には別名義ヴァーチャル・セルフとしての活動をスタート、翌18年には同名義での来日公演を行い……と、何かしらのトピックを横目に眺めることもあったし、特に不在を感じることはなかったのだが初作『Worlds』(14年)から実に7年ぶり、ポーター・ロビンソンのセカンド・アルバム『Nurture』がついに登場した。本人によると前作リリース後は数年に渡って鬱状態にあって曲作りの進まない状況にあったそうで、それゆえのブランクでもあるのだろうし、コラボや別名義での活動もそうした葛藤の中で活路を模索した結果だったのかもしれない。しかしながら届いた作品の中身は、昨年の“Get Your Wish”や“Something Comforting”より続いてきた先行カットの流れからもわかるように、穏やかな心持ちで表現された繊細ながらもポジティヴな楽曲が揃っていて、楽曲集というよりはアルバムとしての確かな統一感も感じられる緻密な内容に仕上がってきた。

 幕開けを飾る牧歌的で美しいインストの小品“Lifelike”に続くのは、昨年5月に彼が開催したオンラインフェス〈Secret Sky Music Festival〉のラストで初披露したアンセミックなエレポップ“Look At The Sky”。コヴェットのイヴェット・ヤングがギターで参加した幻想的な音空間とメロディーの大らかさも印象的ながら、先述の“Get Your Wish”“Something Comforting”も含めていずれもポーター自身のヴォーカルをフィーチャーしているのがアルバム全体のトピックとなるだろう。ピッチを上げて女声のように響かせたり自身の肉声と絡めたりしているが、これがオーガニックな生命力を湛えた作品全体の雰囲気に大きく作用している。また、当時でもマイルドに思えた『Worlds』の延長線上にある音色使いもさらにソフトになり、丸みのある生音の響きやアンビエンスも安らぎを演出する。アニメ映画「おおかみこどもの雨と雪」で音楽を手掛けた高木正勝を“Wind Tempos”にフィーチャーしているのもこの世界には実に似つかわしい。

 “Musicians”の背景でうっすらリン・コリンズの定番ブレイクが響いていたり、“do-re-mi-fa-so-la-ti-do”の遠くに某アニメキャラと思しき声がこだましていたり。ある種の潔癖さすら感じさせる音像のピュアでモダンな美しさは、生活空間の何も邪魔しない機能美とデザインで、それでいて息苦しさのない軽やかな雰囲気だ。近年いよいよエレクトロニック・ミュージックの主流が美麗なメロディーや感情に訴えかける音作りに転換するなかにあって、すでに『Worlds』の前後でガラッと色を変えていたポーターの志向は、リリックを重視する層にも響くシンガー・ソングライター性のようなものをナチュラルに備えている。内省的なスタンスから囁かれる前向きで優しいメッセージはスマートな人々の知性に深く染み込むだろうし、そうでなくても疲弊した人の精神に心地良い何かを与えてくれるはずだ。

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