天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。今週の話題といえば、そう、BLACKPINK初の生配信ライブ〈The Show〉ですよね!」
田中亮太「いや、僕は老舗ヒップホップ・レーベルのビッグ・ダダ(Big Dada)が〈黒人・有色人種・マイノリティーによって運営される、黒人・有色人種・マイノリティーのアーティストのためのレーベル〉として再始動する、という話題を紹介しようと思っていたのですが……」
天野「もちろん、ビッグ・ダダの件は重要なニュースだと思います。昨年のブラック・ラヴズ・マター運動もきっかけだったのでしょうね。でも、BLACKPINKだって大事ですよ。1月31日(日)に配信される〈The Show〉では、なんとロゼのソロ楽曲もサプライズで披露されるそうですから。〈予告しているならサプライズじゃないじゃん!〉って思いましたけど(笑)。Billboard Japanにはインタビュー記事の翻訳も掲載されていますし、とにかく盛り上がっています!」
田中「そうですか……。クボケン(久保憲司)さんも〈BLACKPINKのドキュメンタリーはまさにビートルズのよう〉なんて書いていましたし、彼女たちの快進撃はまだまだ続きそうですね。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」
1. Porter Robinson “Look At The Sky”
Song Of The Week
田中「〈SOTW〉はポーター・ロビンソンの“Look At The Sky”! EDMシーンを出自とするプロデューサー/DJが4月23日(金)、7年ぶりにリリースするセカンド・アルバム『Nurture』からのリード・シングルです。前作『Worlds』をリリースした2014年、彼はまだ22歳で、〈エレクトロの貴公子〉なんて呼ばれ方をされていましたね」
天野「そうでしたっけ(苦笑)。ロビンソンはこの“Look At The Sky”以前にも、“Get Your Wish”“Something Comforting”“Mirror”という3曲をシングルで発表していました。彼はもともとメロディアスでポップなエレクトロ・ハウスの作家として人気でしたが、『Nurture』からのシングルは以前にも増して爽快感と高揚感が増していますね。“Look At The Sky”も、美しいメロディーとファンファーレのようなフレーズが印象的です」
田中「実は、ロビンソンは『Worlds』以降に深刻なスランプに陥っていたそうです。それもあってか、2017年からはトランスやレイヴ的な側面を打ちだした別名義のヴァーチャル・セルフ(Virtual Self)としての活動を行っていました。ニュー・アルバムからのシングル群のポジティヴなムードには、辛い時期を乗り越えた彼の晴れやかな気持ちが表れているのでしょうね」
天野「“Look At The Sky”は〈希望についての曲〉なんだそうです。でも、僕はそういった背景を知る前から、聴いていて涙が出るくらい感動したんですよね……。〈空をみてごらん、僕はまだここにいる/来年もきっと生きている/なにかいいものを作れるはず〉というリリックには、彼のリアルな思いを感じました。悩みや苦しみを希望や幸福へと昇華した『Nurture』は、多くの人にとっていまを生きるうえでのサウンドトラックになるのではないでしょうか」
2. Tune-Yards “hold yourself.”
天野「続いて、チューン・ヤーズの新曲“hold yourself.”。カリブやアフリカといったさまざまな地域の音楽を取り入れたエキゾティックなポップ・サウンドで日本でも人気の2人組ですね。2018年には〈フジロック〉にも出演しています」
田中「〈フジ〉でのライブ、めちゃくちゃパーティー感に溢れていて最高でした! チューン・ヤーズはもともとメリル・ガーバス(Merrill Garbus)のソロ・ユニットだったんですけど、デュオに変わった前作『I Can Feel You Creep Into My Private Life』(2018年)でぐっとダンサブルになりましたよね。彼女たちは、3月26日(金)にニュー・アルバム『sketchy.』をリリースします。この“hold yourself.”は、昨年発表した“nowhere man”に続くリード・シングル。〈大ざっぱ〉っていうアルバム・タイトルがいいですね」
天野「亮太さんって、いろいろな点で雑でルーズですからね……(笑)。とはいえ、この曲自体は適当に作られたという感じがまったくなくて、ブレイクビーツ風のドラムとベースとリズム楽器が織りなすビートや、管楽器や弦楽器が徐々に重なっていく巧みなアレンジは、むしろ細部まで考え抜いて作ったもの、という印象です。だけど、以前のチューン・ヤーズにあったローファイな手触りも残っていて、その肩肘を張らない感じがアルバムのタイトルに合っていていい。管楽器が奏で、ガーバスが歌うメロディーも力強くて最高。強引にアゲるのではなくて、じんわりと高揚感を湧き上がらせていくさまがすばらしいです」
田中「ミニー・リパートンの“Les Fleur”を聴いたときの感動に近い、と言ったら言い過ぎでしょうか。ガーバスは〈この曲は、親の世代から裏切られたという私たちが持つ気持ちについてのもの。そして同時に、私たち自身が未来を裏切っているのを目の当たりにしていることについてでもある〉と説明しています。気候変動問題や社会構造がはらんでいる差別の問題など、上の世代が長い間放置してきたつけが、自分たちに回ってきていることへの怒り、そして僕たち自身も抜本的な解決をしようとしていないことへの憤りが、楽曲の背景にあるのかな……と思いました。サウンドはジョイフルだけど、テーマはすごくディープ。そうした重層的な面を含めて、とても優れたポップソングだと思いますね。これが〈SOTW〉でもよかったかも!」
3. Squid feat. Martha Skye Murphy “Narrator”
天野「3位です。スクイッドの“Narrator”。これはものすごく強烈な一曲ですね! 〈SOTW〉でもいいくらいです」
田中「今週は本当に充実していますね。スクイッドのことは、昨年3月にワープからのデビュー・シングル“Sludge”をリリースしたとき、当連載で紹介しました。英ブライトン出身の5人組で、南ロンドン・シーンで注目を浴びているバンド。いまもっともUKインディー・ロック・シーンで期待されている一組、と言えそうですよね」
天野「この“Narrator”は5月7日(金)にワープからリリースされる待望のファースト・アルバム『Bright Green Field』からの最初のシングルです。これ、最高じゃないですか? まず、ギターのいびつなアンサンブルがおもしろいですし、びろびろと鳴っているアナログ・シンセサイザーのエキセントリックなプレイにもアガります。約8分半のあいだ、ビルドアップしていくように、歌と演奏がどんどん激しさを増して混沌としていく展開もアツいですね」
田中「めちゃくちゃかっこいいです。〈南ロンドン界隈のポスト・パンクっぽいバンドはもう飽きたかも……〉なんて以前ポロっと天野くんにつぶやいちゃいましたが、撤回します(笑)。ちなみに、ヴォーカルで客演しているマーサ・スカイ・マーフィ(Martha Skye Murphy)は、同じ南ロンドンのエクスペリメンタル系シンガー・ソングライターです。ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズの傑作『Push The Sky Away』(2013年)に参加していたことでも知られています。“Narrator”では、つぶやき語るような歌から始まって、最後には振り絞るように叫ぶヴォーカリゼーションを聴かせています」
天野「あと、この曲はミュージック・ビデオが最高なので必見です。映像作家のフェリックス・ジーン(Felix Geen)が作ったもので、iPhone 12 Proの3Dスキャンなどを使ったと思われる奇妙なヴァーチャル映像が新鮮です。アルバムのプレス・リリースを読むと、バンドのドラマーでヴォーカリストのオリー・ジャッジ(Ollie Judge)が評論家のマーク・フィッシャーなどに言及しながら〈架空の都市の風景を作り上げた〉〈ディストピアそのものであるイギリスの都市の風景〉〈自分たちは長年、未来を偏重するディストピアそのものの環境で生きてきた〉なんて綴っていて、それにも興奮しました。彼のヴィジョンは、なかなかおもしろいですね」
4. serpentwithfeet “Fellowship”
天野「4位はサーペントウィズフィートの“Fellowship”。インディーやエクスペリメンタル・ミュージックのリスナーにはけっこう知られている存在だと思いますが、Mikikiには彼についての記事がほとんどないですね」
田中「サーペントウィズフィートはジョナサン・ジョーサイア・ワイズ(Jonathan Josiah Wise)のステージ・ネームで、彼は米ブルックリンのアーティストです。トライ・アングルとシークレットリー・カナディアン(Secretly Canadian)という、名門と言っていいインディペンデント・レーベルから作品を発表しています。そういえば、トライ・アングルは2020年4月に閉鎖してしまいましたね……」
天野「残念です。なので、今回の新曲はシークレットリー・カナディアンからのリリースです。サーペントウィズフィートがEP『blisters』(2016年)でトライ・アングルからデビューしたときは、衝撃を受けました。力強いゴスペルやインティメットなR&Bが、ハクサン・クロークによるエクスペリメンタルな電子音楽やドローンと融合していて、かなり得体のしれない感じでしたね。もともとワイズはゴスペル・クワイアをやっていて、オペラのヴォーカル・レッスンも受けていたそうです。なので、世代の近いモーゼズ・サムニーとアノーニのようなアーティストの中間にいる音楽家、というか」
田中「デビュー・アルバム『soil』(2018年)は評判でしたよね。この“Fellowship”は、昨年の『Apparition EP』に続く新曲です。作曲とプロデュースでサンファ(Sampha)とリル・シルヴァ(Lil Silva)というUKの最前線に立つ2人が参加していて、これまでになくポップな一曲になっています」
天野「アクの強い歌が個性のひとつだったサーペントですが、この曲の歌はとても穏やかで抑制的ですよね。サンファもリル・シルヴァもアフリカ系で、3人のエスニシティーを前面的に打ち出したのか、アフリカン・パーカッション系の音が際立っています。ユーフォリックなムードで、彼自身も〈落ち着いて抑制されたものを作りたかった〉とプレス・リリースにありますが、リズムはとても力強い」
田中「これもまた、〈SOTW〉でもよかったというくらいにいい曲ですね。“Fellowship”を収録した待望の新作『DEACON』は、3月26日(金)にリリース。多くのR&Bアーティストや彼自身が親しんだブラック・チャーチからインスパイアされた作品で、アルバム・タイトルはキリスト教会の〈執事〉を意味する言葉なんだそうです。スピリチュアルかつパワフルな作品になっていそうで、楽しみですね」
5. CJ ““BOP””
天野「今週最後の曲です。CJの““BOP””。CJは、いまかなり話題になっている新人ですね」
田中「CJことクリストファー・ダニエル・ソリアーノ・Jr.(Christopher Daniel Soriano, Jr.)はNYスタテン・アイランドのラッパーで、プエルトリコ系の血を引いています。97年生まれで、現在24歳。2018年にシックスナインをフィーチャーした“Pop”をリリースし、2020年のシングル“Whoopty”でブレイク。TikTokで話題になったこともあり、“Whoopty”は今月Billboard Hot 100で19位まで上昇。また、UKのシングル・チャートでは3位を獲得しました」
天野「UKでもヒットしたのはすごいですよね。彼のスタイルは思いっきりブルックリン・ドリルなので、ドリルに親しんでいる英国のリスナーにもウケたのでしょう。CJがリリースした楽曲はまだ数曲で、Spotifyにはこの““BOP””と“Whoopty”しかないんです(笑)。それでこれだけ大ヒットしているというのも、なかなかおもしろい。“Whoopty”がヒットしたことで、彼はワーナーとジェイムズ・クルーズ(James Cruz)の〈Cruz Control〉とメジャー契約を交わしました」
田中「ボリウッド・ソング“Sanam Re”をサンプリングしたハードな“Whoopty”に続いて、今回の““BOP””もダークでヘヴィーに攻めるドリルですね。2分弱しかない短尺であるというのもイマドキな感じで、矢継ぎ早に言葉をスピットしかたと思えば、あっというまに終わってしまう曲です」
天野「どことなくダベイビーに声が似ていますし、ハードなドリル版のダベイビーというか……(笑)。前曲のタイトルである〈whoopty〉というキメのアドリブもキマっていて、もはや彼のシグネチャーなフレーズになっています。それと、スペイン語でキスを意味する〈besos〉とチーズを意味する〈queso〉で韻を踏んでいるあたりに、プエルトリコ系だという彼のリアルな言葉づかいが表れていますね。曲名の〈bop〉というのはラップのリリックによく出てくる言葉で、〈超いい曲〉とか、そういう意味です。また〈whoopty〉とは、ブラッズ系ギャングのあいだで使わている、あいさつのような言葉なんだそうです。ちなみに、PitchforkはCJのことを〈恥知らずの搾取野郎〉〈ワナビー・ドリル・スター〉〈ラップは22Gzのカラオケ〉〈猿真似〉と酷評していますね(苦笑)。リアルなラッパーではなく、スタイルも借り物だと……。それにしても今週は、重いテーマを反映したFKA・ツイッグス“Don’t Judge Me”をはじめ、シュ・シュ“A Bottle Of Rum”、コダック・ブラック“Last Day In”、セレーナ・ゴメス&ラウ・アレハンドロ“Baila Conmigo”など、話題曲やいい曲がたくさんありましたね。どれもプレイリストに選曲しているので、ぜひそちらをチェックしてください」


