華々しいデビューから名立たるEDMフェスを渡り歩き、〈エレクトロの貴公子〉として賞賛を欲しいままにしてきたポーター・ロビンソンが初めてのアルバムで本性を現した! 『Worlds』に広がる地平はどこへ続くものなのか……。
新たな領域へのステップを明瞭に刻んだポップソング集
ゲーム「ダンスダンスレボリューション」に始まり、アニメやファッション、原宿と、日本のカルチャーに対する好奇心が高じてか、スポーティーでフィジカルなイメージのEDMと一緒に括るには違和感のあるナードな佇まいで特異性を高めてきたポーター・ロビンソン。ついに完成したファースト・アルバム『Worlds』は、そんな彼の日本フェチぶりを投影すると共に、これまでのダンス・ミュージック路線から新しい領域へ踏み出した作品にもなった。ブロークン・ソーシャル・シーンのエイミー・ミランの儚い歌でオープニングを飾る“Divinity”からその変化は明瞭で、ドリーミーなサウンドスケープにアルバムの焦点を絞り、彼の出世作“Language”や“Easy”で発揮してきた機能性は意識的に抑えたようだ。ボカロ使いの“Sad Machine”や“Goodbye To A World”、アンビエンスが漂う“Sea Of Love”、アニメ「あの夏で待ってる」のセリフをサンプリングした“Flicker”まで、どの曲も情緒が溢れたポップソングへと昇華されている。タワレコ限定リリースとなる日本盤には、アーティーによりパーティー・ヴァイブを注入された“Lionhearted”と、RACがキュートなインディー・ポップへとアレンジした2曲のリミックスを収録。 *青木正之
静と動を旋回するトータル・アルバム
Pa's Lam Systemのアンセム“I'm Coming”やきゃりーぱみゅぱみゅ“夢のはじまりんりん”(のYANDEREリミックス!)なども盛り込んだ2時間のDJミックスをBBCのRadio 1で披露して、DJとしてのレンジの拡張ぶりを見せつけたポーター・ロビンソン。その様子をチェックした人ならいくばくかの変容は予想できたに違いないし、先行シングル群でも変貌ぶりを示していたとはいえ、まさかここまで振り切れてくるとは! 刹那的な勢いを封じ込めたダンス・トラックで人気を集めたクリエイターであっても、いざアルバムを作る段階になると作品性の高さを意識してそれまで強調してこなかった側面を前に出してくることが多かったりするが、ポーター初のフル・アルバム『Worlds』もまさにそのパターンと言えそうだ。
壮麗なシンセとメランコリックな奥行きを備えた新世界のスケールは壮大で、ゲスト・シンガーやボーカロイド、サンプリングの声ネタたちもドラマティックな舞台の住人としてメロディアスに振る舞う。昨年の日本限定EPにまとめられたビッグ・チューンのノリを期待したら驚いて当然だろうけど、豪放なシンセ・ワークは煌めきの奔流をトランシーにブチ込むラスティ的な多幸性に溢れ返っているし、二周ぐらいしてブリーピーなニューウェイヴ化した“Polygon Dust”などのポップ・ナンバーも総じてドリーミーで、この何とも言えぬホーリーな聴き心地にはまた違う意味での快感があるのだ。主役が天衣無縫に絵筆を走らせた結果としての音風景がアルバム・トータルの秩序を壮麗に彩り、聴き終える頃にはすっかりハマってしまっているタイプの傑作。静と動の間をゆっくり旋回する全体の構成からは、例えばCAPSULEが『CAPS LOCK』で表現したことを思い出したりもした。 *出嶌孝次