フルアルバム6作目から窺える自信と、満ち足りた幸福感

 ミウシャの取材でイパネマを訪ねた際、出迎えてくれたのが24歳のベベウだった。奇行で知られる天才肌の父と名家育ちの自由な母、その狭間で自分の立ち位置を探し続けてきた娘も、ライヴ盤を含め、もうフルアルバム6作目。真水のごとく澄みきった歌世界からは、確固たる自信とともに幸福感すら伝わってくる。

BEBEL GILBERTO 『Tudo』 Portrait/ソニー(2014)

 マリオ・カルダートとの仕事は久しぶりだった?

 「04年のセカンドで2曲リミックスを手がけたし、09年作『オール・イン・ワン』にも携わった。彼は素晴らしいプロデューサー。でも今の私には多様性が必要。だから、他の人ともやれる開かれた状態よ」

 ニューヨーク、ロサンゼルス、リオ、オレゴン、ベレンと、1曲中に録音地が混在するのは、なぜ?

 「カシンとリミーニャが関わった2曲以外は、私のホームスタジオで録音したの。Pro Toolsを使って作り、We Transferで音楽家たちとやり取りした後、すべてをロサンゼルスでミックスしたというわけ」

 “サムホエア・エルス”の歌詞は、どこかあなたの人生そのもの。世界中どこへでも行ける……。

 「そのとおりね。どんな人でも、こんなふうにシチュエーション次第で、自分を見いだせると思うわ」

 セウ・ジョルジが初参加したサンバ“ノヴァス・イデイアス”は、とてもシック。これが初共演?

 「長年の友人で一緒に曲を作ってきたけれど、録音は今回が初めて。まだたくさん共作曲がある。アドリアーナ・カルカニョットとも旧知の仲で、これが彼女と作った曲を記録に留めた初録音よ」

 自作以外の作品が、ジョビン、ボンファからニール・ヤングまで。あなたにとって、ごく自然な選曲?

 「もちろんよ。私って幅広い感受性の持ち主だし、すべての作者に対して敬意を抱いているからね」

 異色の“トゥ・テ・ブルー”だけど、90年代への何か特別な思いがあってカヴァーしたのかしら?

 「実はこの曲だけ、親友のDJ Greg Cazが紹介してくれたの。聴いてたちまち魅了され、大事な仲間、ヂヂ・グッチマンのキーボードと入念に仕上げたわ」

 最新作『トゥード』には、現在のベベウの、まさに〈すべて〉が凝縮されていて、本人も大満足の出来だとか。プライベートの充実ぶりさえ窺えたので、最後に日常生活の一端を披露してもらうことにした。

 「幸せな生活に夢中よ。家事に親しみ、見晴らしのいい我が家で、新しい庭の手入れを楽しんでいるわ」

 母ミウシャも、イパネマ裏通りのマンション最上階ベランダに、見事な庭園を作っていたっけ。梢に吊るした砂糖水を吸いにハチドリが飛来していた。NYでは、どんな小鳥がベベウに語りかけるのだろうか。