2021年よりバンド体制になったcolormal(カラーマル)のヴォーカル/ギター担当イエナガと、自身のソロ・ユニットmeiyoの他に、侍文化SAM4416POLLYANNA、HGYM、プールと銃口といったバンド・ユニットにも在籍し、数々のアーティストのサポートや楽曲提供も行うワタナベタカシの二人による連載〈今月のイエナベ!〉。今回は番外編として2人+編集の酒井が、それぞれ大ファンでもあり、一週間前に惜しくも解散してしまったバンド、赤い公園の好きな曲を3曲ずつ、〈イエでナベでも食べながら報告しあう〉ように紹介いたします。それではお二人、張り切ってどうぞ~!

★colormalイエナガとmeiyoワタナベタカシの〈今月のイエナベ!〉記事一覧

 


赤い公園 “ランドリー”

※フル尺はこちら

イエナガ(colormal)「あまりアカデミックなことをレビューで書きたくないのですが、あえて。楽曲冒頭からFmaj7(9)、それも各楽器とコーラスがぶつかるギリギリの塊として投げつけられるこの異物感。前作『透明なのか黒なのか』で赤い公園を知った私はすっかりこの曲で虜になってしまったのでした。何をどうしたら思いつくのかと感じるほどパタついたドラム、2番に入るやいなやワーミーを踏み出すベース。ラスト・アルバムになってしまった『THE PARK』に至るまで要所で登場する、幼少期の感覚や景色を言語化した津野米咲の歌詞がふっと入り込んでくる。最後までJ-Popの中心を目指すバンドなのに、メンバー全員がスタートラインから四方に散ってしまったようなアレンジを堪能出来ます」

ワタナベ(meiyo)「もしかしてイエナガ、酒井さん、自分って、ファン歴でいうとほぼ同じくらい?(自分はとあるライブハウス関係者の方の勧めで見た“塊”のライブ映像で衝撃を受けて、白盤(『ランドリーで漂白を』)が出るぐらいの頃に奥浜レイラさんとやってたニコ生が面白すぎて虜に……という流れ)

当時シガテラというバンドで歌わずにドラム叩いてた自分だけど、このパタついたドラムには多大なる影響を受けておりまして。サビ後、絶対4つで踏むべきところでバスドラ踏まない小細工してる箇所あるじゃない? アレを自身のバンドでも真似してたことを思い出した(笑)」

酒井「ファン歴自体はほとんど一緒ですね。この曲は本当にすごい。ふんわりしてるのに轟音で、あらゆる音楽とも似てなくて、どういう人がどういうことを経験してどういうものを食べて生きてきたらこんな曲ができるのか、いまだにもっとよく知りたいと思うもん。で、知りたくて調べまくって、それでもいまだに謎のままという。ラスト・ライブでは1曲目にやってくれて、うわああああああでした」

 

赤い公園 “贅沢”

ワタナベ「というわけでワタナベチョイス1曲目は、この曲です。赤い公園のサウンドの根底にあるものがかなり裸に近い状態で記録されてる気がして、一番好きな曲を訊かれたときには必ずこの曲を挙げているぐらい好きです。

これまでの〈楽しい〉とか〈ちょっぴり嫌〉とか空想とか色々なことは、今感じているちっぽけな不幸を補って余りあるほどの贅沢なんだ、ってことを過去現在未来全ての自分に対して言い聞かせてる……みたいな曲なのかな~と個人的には思ってます。『公園デビュー』はかなり生々しい音で、演奏もちょっと怪しいのでは?ってくらいヨレてる部分があったりして、それがたまらなく愛おしいんですよねえ。」

イエナガ「当時のバンドへのインタビューで、ヴォーカルに過度の補正をしないと答えている記事があったと記憶しています。『公園デビュー』はその手触り感のある音像だったり、リコーダーを始めとした生楽器のダビングに津野(米咲)さんのセンスが冴え渡っているのを感じられる名盤ですね。当時、タワーレコード梅田茶屋町店で行われた『公園デビュー』の発売記念インストア・ライブに行ったのですが、ありえないほど音量がデカかったな(笑)」

酒井「タワーレコード渋谷店のインストア・ライブでは、(藤本)ひかりさんがレジ台に乗ってたよ(笑)。それにしてもタカシくん、この曲を選ぶとは通だね。いろいろなことを思い出せるということ自体が〈贅沢〉だ、という歌詞は、新しい思い出を作れなくなった今だからこそ沁みるところがあります。いや、これからも思い出は作っていけばいいんだけどさ!」

 

赤い公園 “牢屋”

イエナガ「『猛烈リトミック』以降、ダビングやストリングスを交えた楽曲も増えていく中で、津野米咲のギター・センスがこれでもかと感じられる一曲。

基本的に彼女はほとんどのコードを3本の指で抑えるバッキングを多用するのですが、コードのストロークと茶目っ気溢れる単音フレーズを繰り返すサビすら指3本。テンション・ノートや響き全体を決める音階をあえてベースやヴォーカルに譲るスキマ感。ギタリストがみんな薄らと持ち合わせている〈手グセ〉的なリックが登場しないところが魅力です。同じようなギターを楽しみたい方には“ハンバーグ!”あたりもオススメです。しかし“プラチナ”といい“あなたのあのこ、いけないわたし”といい、ダメな男に振り回される様子をドラマチックな歌詞にするのが上手。私もラーメンが伸びてしまうくらいだらしない恋がしたいですね!」

ワタナベ「蔦谷好位置さん、亀田誠治さん、蓮沼執太さん、嶋津央さん、と豪華プロデューサーが参加した『猛烈リトミック』だけど、“牢屋”は確か津野さんプロデュースの曲だったね。ブックレットを読んでも、津野プロデュース曲はエンジニアさんが載ってるだけで超シンプル!

当時のインタビューで〈自分が使っているコードの名前が分からない〉と語っていたので、当時の津野さんの曲作り(デモ作り?)は頭で鳴っている音を書き出す作業だったんだろうなと想像してます。“牢屋”と言えばずっと気になってる箇所があって! 最初に出てくる〈あなたのこった〉って〈あなたのことだから〉って意味であってます? 教えて酒井さん!」

酒井「やっぱイエナガ氏もタカシくんも選曲が通だなあ。そして二人ともギターを弾くし作曲もするからやっぱり詳しいですね。普通の人はギターでコードを押さえて曲を作るけど、キーボードで和音を押さえて曲を作って、それをギターの3本指に変換してプレイするからこういう不思議なギターになるんだろうな、と思います。にしても今6~7年ぶりくらいに〈あなたのこった〉って歌詞があることを確認して改めて〈これ何だ?〉って思いました。〈あなたのことだ〉かな。(昨日チアキにインタビューしてきたから聞けばよかったな、たぶん〈知らないよ〉って言うと思うけど(笑))」

 

赤い公園 “デイドリーム”

イエナガ「久石譲“人生のメリーゴーランド”、Mr.Children“NOT FOUND”など、世の中には3拍子の名曲が沢山ある訳ですが、個人的にそんな名作たちに加えたい一曲。PABLO氏の編曲と、先日のラスト・ライブにも参加していた堀向彦輝のストリングス・アレンジがマッチしていますね。サビでメイン・ヴォーカルの音階がステイしつつ、コーラスが上昇していく感覚はクラッシック的でもあり。同アルバムのマスタリングをドキュメンタリーとして納めた『情熱公園』アメリカ編でラストに流れる演出も感動的なので、これから赤い公園のディスコグラフィーを辿る方は是非。赤い公園のライブはこの時期、特に凄まじかったな」

ワタナベ「この曲ホントにすごいよね。構成はシンプルで3分半もないぐらいなのに、情報量が凄くて聴くのに必要な体力は8分ぶんぐらい(笑)。PABLOさん堀向さん津野さんが交わったもので言うと“最後の花”も凄まじかったし、あとはBOMIさんの“月曜のメランコリー”も素晴らしいですね。自分もいつか絶対売れて、お仕事ご一緒させてもらいたいなと勝手に思ってるお二人です。話は戻って“デイドリーム”を初めて聴いた時、〈ちーちゃんが覚醒した!〉って思ったのを覚えてます。歌声が神々しすぎてほぼ神」

酒井「PABLOさん曲はどれも、原曲を結構ぶっ壊してるんじゃないかなと思うんだけど、ぶっ壊してもなおキレイで美しいのがすごいと思っていて。今聴いても感動する。すごすぎる。筆舌につくしがたい」

 

赤い公園 “カメレオン”

ワタナベ「ラジオで初めて聴いた時、確か曲フリで〈繰り返すフレーズが印象的な~〉的なこと言ってて、聴いてみたら思ってた100倍ぐらい繰り返しててド肝抜かれました。

正直曲の良さは一発では分からなくてアルバムの中でも特別好きな曲というわけではなかったんですが、佐藤千明さん脱退前最後のライブ〈熱唱祭り〉で1曲目に披露されたこの曲では何故かずっと涙が止まらなくて。それ以来、この曲を聴くたびにあの光景が鮮明に思い出されて、今でも変わらず特別な曲です」

イエナガ「〈熱唱祭り〉、観に行ったなあ……。とにかくリフレイン一発の楽曲なのですが、ひたすら繰り返されるメインリフに〈今日が終わらないでくれ〉と思ってしまう魔法があったように思います。チアキさんのヴォーカルってそれこそカメレオンのような適応力があると思っていて、津野さんが赤い公園の前期で色んな方面のポップスを提示出来ていたことをメタ的に高らかに歌い上げるアンセムだと勝手に思ってます」

酒井「これに関しては2人と全く同じ。同じリフ&コードの繰り返しで最初は良さが分からなかったんだけど、〈熱唱祭り〉のお祭り感で〈うわあああ〉ってなってその良さが理解できたという。それに複雑なコード進行じゃなくてもいい曲はできるんだ!っていうなんか意地みたいなものも感じる。ってか3人とも〈熱唱祭り〉行ってたんだね(笑)」

 

赤い公園 “消えない”

酒井「新体制になって最初の1曲。実はこの仕事に就く前からずっと赤い公園のファンで、ファン時代の名前で赤い公園に関するブログを書き綴っていたんですけど、津野米咲さんと赤い公園の功績をどうにか残そうと思って、いつかそのブログを本にできたらいいなと思っています。で、本のタイトルはやっぱりこの『消えない』がいいかなーって。曲についてはレビューに書いて、それが津野さん本人から〈感謝〉と引用ツイートしてもらえたので、それで十分!」

イエナガ「ドタバタしたドラム、あり得ないほどロー・ミッドの詰まったベース、残響すら歪んだ轟音のギターにらしさが詰まった一曲ですよね。ヴォーカルの交代やレーベルの移籍、音沙汰の無さから来る不安が、この曲で全てかき消されました。酒井さんが熱狂的赤い公園ファンだった頃、僕もTwitterをフォローしていました」

ワタナベ「この曲が公開された時はマジで痺れましたね~。まだ石野理子さんのことを全然知らなくて、ライブ本数も少なくて、リリースもなかなか決まらないし、これからどうなってしまうんだ、と思っていた不安が全て綺麗さっぱり吹き飛んだ。ちなみに酒井さんと出会ったきっかけはもちろん赤い公園で、公式よりも早く正確な情報源かつ日本一の赤い公園マニアが居ると噂になっていたことから、恐る恐るフォローしたのが最初だった気がします。酒井さんの本、絶対実現して欲しいなあ」

 

赤い公園 “KILT OF MANTRA”

ワタナベ「1人で3曲に絞れるわけもなく……でも新体制で一番好きなのはこの曲です。ハイランドの氏族間の争いにおいて〈武器〉として扱われた楽器〈バグパイプ〉のエピソードがモチーフになっているらしいです(ってセルフ・ライナーノーツで津野さんが言ってた)。ちなみにキルトはバグパイプ吹きの正装のスカートのようなアレのことで、マントラには主張やスローガンといった意味もあるらしい。作られた時期は佐藤千明脱退後すぐだったはずなので、この曲も後に完成する“消えない”のような、バンドの決意の曲だったのだと思います。“贅沢”もそうだけど、こういう教育番組のようなピアノ弾かれるとキュンとしちゃいますね。」

イエナガ「先日のラスト・ライブでアンコールにこの曲がやってきた時、悔しいけどこの曲が完成してしまったなと感じました。津野さんはとにかくSNS上でも言葉を選んで発言されている印象があったんですが、この曲の童話的歌詞も本心なんだろうと思わされる説得力が大きな魅力だったと思います」

酒井「3人になってやった曲で、その頃からずっとどういう意味の歌詞なんだろう?って気になってたけど、イエナガ氏の言う通り、あの3人のボロボロの時にできた曲がラスト・ライブで本当にできあがってしまったなって思ったし、同時に赤い公園も完成してしまった気がしてしまいました。でも本当に素晴らしいアンコール3曲だったな」

 

赤い公園 “オレンジ”

酒井「ここまで示し合わせたわけではないのに、3人とも全員全曲時期が被ってないのがすごいなと思うし、シングル曲が1曲も出てないのもすごいなと思います。赤い公園の楽曲の幅の広さよ。この曲について、津野リリックマニアとしては、〈オレンジ〉って何のことなのかなってずっと考えていて。〈滲んだ〉〈歪んだ〉〈沈んだ〉〈オレンジ〉って言ったら普通なら〈夕陽〉な気がするけど、だったらわざわざオレンジと表現しなくてもいい気がして。まあ、わざわざ言わなくていいような言葉をあえて使ったり、分からなくしたりするのが津野リリックの良さでもあるんですけど……個人的には果実のオレンジ、ジュースを搾り取られちゃったオレンジっていう線もあるんじゃないかな、なんて考えています。答え合わせのない考察は永遠に楽しめる趣味です」

ワタナベ「何か新しい発見があるかも、と思って今一度『オレンジ / pray』の収録曲を全部聴きました。オレンジはサビのメロディーを活かすためにピアノとギターが上手いこと絡み合ってたり、そんなピアノも音色が地味に2~3種類ぐらい使い分けられてたり、こんなにも凝ってたんだ。

あと“オレンジ”関係ないけど“衛星(instrumental)”のド頭のギター、歌ありとは違って音が加工されてなくて、よ~く聴くとおそらく津野さんのヘッドホンから漏れた〈やるせ……〉が小さく鳴ってますね(どうでもいい)」

イエナガ「津野さんは手持ちのギターについて語る時に〈眠たい音〉と発言されていることが多く、確かにバンド・シーンの中で独特のまろやかさと激しさを持った音を多用していて。このシングルの中でも特に“オレンジ”は少しヨレたギターの音色が採用されていて、どうしようも頼りない気持ちになる〈滲んだオレンジ〉が音色からも思い浮かびます」

 

赤い公園 “ふやける”

※インディーズ時代の楽曲のためオフィシャルな動画や試聴はありません

酒井「最後の曲はやっぱりこれかなあ。きっとラスト・ライブの最後で演奏するのでは?と予想していた人も多かったと思うけど、ふやけて終わってしまうよりもむしろ“凛々爛々”で前向きに終わってくれてよかったと思います。……でも、この曲はある時までずっとライブの最後にやっていた、大事な、特別な、大好きな曲です」

ワタナベ「当時、本人たちもファンたちもみんな、この曲が特別だって信じてました。きっと、初めて共有できた特別な宝物だったから、見せびらかしたくなくて、どこかに大切にしまったんじゃないかなあ」

イエナガ「冒頭のギターにかかっているディレイは津野さんが最後までエフェクターボードに組み込んでいたTokaiと言う国産メーカーの古いエフェクターで。その滲むような音を初めてライブハウスで聴いた時に、感覚的に泣きそうになった記憶が未だにこびりついています。これからもアウトロの轟音の中に天才のポップスを探していたいと思います」

 

 

3人が選んだ9曲、いかがだったでしょうか? 赤い公園というバンドは解散してしまいましたが、その楽曲の素晴らしさはずっとずっと語り継がれていってほしいなと思います。