左からqurosawa、斎藤モトキ、伶菜、飯島快雪、ワタナベタカシ

 

「最近の若者は〈渋谷系〉って言われても知らなくて、(お笑い芸人の)EXITとかを想像するみたいなんですよ」。インタビュー中に言われた言葉が印象的だ。平成は遠くになりにけり。

2014年6月に結成されたPOLLYANNAが、自分たちの音楽を表現するキーワードとして最初に掲げていたのは〈最新型渋谷系ポップ〉。一時代を築き上げ、すでに衰退した〈渋谷系サウンド〉の最新型を提示することで、新しさと懐かしさという一見相反する要素を聴く者に同時に投げかけていた。その様はTWEEDEESの沖井礼二に「快活で優雅で無慈悲。僕が彼等に嫉妬するのは、その若さについてだけではありせん」と言わしめたほどだった。

しかしその後の5年で、バンド・メンバーも変わり、時代も変わり、前述のように渋谷系を知らない若者も増えた。そこでPOLLYANNAが新たに提唱した音楽は〈ストライプ・ロック〉というものだった。そんな〈ストライプ・ロック〉の1作目で、POLLYANNAにとっては初のフル・アルバム『pantomime』について、伶菜(ヴォーカル)、斎藤モトキ(ベース)、飯島快雪(キーボード)、qurosawa(ギター)、ワタナベタカシ(ドラムス)に話を訊いた。

POLLYANNA pantomime Living,Dining & Kitchen Records(2020)

わかりやすいアイコンとしての〈渋谷系〉

――現体制になって初めてのインタビューだと思うので、改めてPOLLYANNAとはどんなバンドなのか、というところから伺っていければと思います。

斎藤モトキ「元をたどると、僕と飯島快雪とqurosawaは以前一緒にバンドをやっていて、そのバンドが終わるっていう時に、飯島は解散させたくなかったんだよね」

飯島快雪「解散に対して最後まで抵抗してましたね。で、解散するという日に朝までカラオケして始発に乗りながら……」

斎藤「飯島に〈もうお前とはやりたくない。次組むバンドで最後だぞ〉って言われて。〈次はやりたいことをやろう〉っていう話から〈渋谷系ってどうなのよ〉っていう話になったんです。当時、もっとポップなバンドをやりたかったんですけど、それがなかなかできなかったので、ポップな音楽をやる手段として渋谷系というキーワードがあったんです。で、曲を作ってみたら、ぽくなったんですよね」

――ただPOLLYANNAのおもしろいところは、メンバー全員が渋谷系に直接影響を受けたわけではないというところですよね。

qurosawa「だから、ルーツにない渋谷系を戦略的にやってみたっていうイメージだったんですよね」

斎藤「もちろん全員好きなジャンルではあったんですけど。当時は80'sの再燃があって、次は90年代がまた流行ると思って、その時に〈渋谷系だったら他のバンドと差ができるんじゃないか〉みたいな打算もあって」

飯島「当時はみんな、〈ネオ渋谷系〉じゃないほうの渋谷系はそんなに知らなかったんですよ。沖井(礼二)さんやCymbals、北川(勝利)さんの曲も聴くけど、それが渋谷系かどうかもわからないし。でも、2014年当時はそういう人たちに影響を受けた音楽をちょうどいい感じでやってるバンドもいなかったし」

斎藤「わかりやすいアイコンとしての〈渋谷系〉ね」

飯島「いまそれら全部を渋谷系にひっくるめるのは雑ですけど、そこに良質なポップがあるというのは嗅ぎとっていたんです。あとクラウドベリー・ジャム(Cloudberry Jam)をめちゃくちゃ聴いていたので、北欧ポップも参照にしていました。まあ元々の渋谷系の人たちも北欧ポップを参照しているので、それも雑な分類なんですけどね」

――でも、ただの焼き直しだったら昔の渋谷系を聴いていればいいだけで。当時はどういうところにオリジナリティーを入れようと思ったんですか?

斎藤「ひとつは〈なるべくメロディーを難解にしたくない〉と思っていて。さらにその難解じゃないメロディーに対して、どう〈いかん和声(=気持ちいい和声)〉をつけるかということも大事にしてますね」

qurosawa「(斎藤)モトキさんは渋谷系に直接ルーツがないのにそういう曲を作れるから、それだけでけっこうオリジナリティーがあるんですよ。あと、それぞれのバンド・メンバーのエゴも強いし(笑)」

――qurosawa単独インタビューの時にも言ってましたね。割と好き勝手弾かせてもらえてるって。

斎藤「破綻しない範囲であれば好き勝手やらせてます(笑)」

qurosawa「ありがたいです」

 

沖井ファンの伶菜と、イチローなワタナベタカシ

――後から加入したおふたりは、この3人のやり取りにどう入っていったんですか?

伶菜「私は(ワタナベ)タカシさんより先に、クロちゃん(qurosawa)にネットで見付けてもらって入ったんですけど、やっぱり年が離れているなって思うことが多くって。飯島さんや(斎藤)モトキさんとは7つも歳が離れてるし、音楽も音楽大学に入ってから始めて、それもソロでやってたし。だから最初はうまくやっていけるか心配でした。音大はうまく歌えば褒められるから、うまく歌うことばかり考えて、個性をどう出していいのかわからなかったし、前任のヴォーカリストに対してもジェラシーがあるから差をつけたかったし。でも5人のなかで私だけが唯一、渋谷系にルーツがあるんです。PIZZICATO FIVEとか好きだったし」

斎藤「俺も好きだよ!」

――(笑)。伶菜さんがいちばん沖井さんのファンだったんですよね。

伶菜「とにかく沖井さんが大好きで、Cymbalsになりたいってずっと思っていて。だから沖井さんがこのバンドと関わりがあるっていう話を聞いた時に、運命的なものを感じてやる気になったっていう。当時はバンドのヴォーカルとしてのキャリアもなかったし、場慣れもしてなかったから、ライブ慣れして、あとお客さんの反応があったことがすごく救いになりました。Twitterのフォロワーが増えるとか、レスポンスがあるとか、ライブで声をかけられるとか、そういうのがすごく嬉しくて。メンバーからも褒められるようになったしね」

qurosawa「昔はめちゃめちゃ仲悪かったもんね(笑)」

伶菜「クロとは嫌い同士で(笑)。でもお互い勘違いしやすくてすれ違ってただけで、どこかでお互い性格を理解したら大丈夫になって」

qurosawa「ここ1年くらい、それこそ沖井さんの〈沖井塾〉に参加させてもらえるようになって、バンドの活動以外で伶菜に会って、そういう時に腹を割ってバンドについての話をしたんです。そしたら思ってたよりバンドに愛があることを知って」

※沖井礼二(TWEEDEES)が若手ミュージシャンたちと触れ合い、 知恵を分け合うというライブ・イベント〈押忍!沖井塾〉のこと。過去に伶菜とqurosawaが参加した

斎藤「何だよ、俺らがいない時に汚ねえな(笑)」

qurosawa「(笑)。まあ僕が女性の気持ちをわからなかったんですけどね」

――もうわかるようになりましたね(笑)。

qurosawa「その話は入れないでくださいね!」

斎藤「でも彼女は彼女なりに、歌唱だけでなく、例えばレコーディングでいろんな提案をしてくれたり、献身的にバンドに対して動いてくれたりしていて。最近は裏番(長)くらいの役割ですよ」

――おおー。さっきから全然喋ってないドラマーはどうですか?

ワタナベタカシ「セカンド(・ミニ)の『Breaking News』をリリースする時に〈サポート・ドラムっていうのはあんまり良くないんじゃない?〉っていう話になって。アー写は5人で写りたいとか、そういう流れで加入したんですけど」

斎藤「彼はサポート時代からけっこう提案をしてくれるタイプで」

ワタナベ「どうせPOLLYANNAに他のドラマーはいないし、ドラマー目線で言えることは言っておこうと思って、けっこう提案してましたね」

斎藤彼も歌うたいなので、シンガー目線で叩けるっていうのは大きいです。だから打率がめちゃめちゃ高いんですよ。イチローだよね」

qurosawa「ドラムスもそうだし、何よりコーラス・ワークが良くって。ワタナベが入ってバンドの曲がめちゃめちゃポップスになりました」

伶菜「タカシさんのドラムスはマジで歌いやすいよ」

ワタナベ「……イエ~イ!」

 

沖井礼二氏との出会い

――今作『pantomime』のお話を聞く前に、2019年2月にサード・ミニ・アルバムの発売を延期してフル・アルバムを制作することを発表しましたよね。代わりにセカンド・ミニに新曲3曲を追加した『quantum ep. + Breaking News』をリリースして。この時の経緯から聞かせていただけますか?

※本作にも収録されている“量子もつれとわたし”“カモミールの育て方”“Special service”の3曲

飯島「ファースト(・ミニ『CIRCLE』、2016年作)は全国流通したのに、セカンド(・ミニ『Breaking News』、2017年作)は自主制作になってしまったので、このままいくとサード(・ミニ)も自主制作になっちゃうな、それだけは避けたいなというのがあって。全国流通できるような手はずを整えていたんです」

斎藤「ちょうどその時に沖井さんが〈フル・アルバムにしちゃいなよ〉って言ってくれて、じゃあそうしよう!ってなったんです。ただ、2019年2月のTWEEDEESのツアーでご一緒できると決まっていて、そこで何かリリースしないとな、と思っていたので、セカンド(・ミニ)に3曲プラスした変則的なアルバムを出したんです。『三国無双』でいうところの『猛将伝』みたいなもんですよ」

――なるほど。その例えはわからないですけど(笑)。

飯島「『パワプロ』で言えば『決定版』? 『FF X-2』みたいな」

――先ほどから何度も登場している沖井礼二さんは、POLLYANNAにとっても本作にとっても重要な方だと思うのですが、出会いから教えていただけますか?

斎藤「2015年にTWEEDEESとROUND TABLE(北川勝利)の2マン・ライブがありまして、そこで沖井さんを紹介していただいて、それからしばらくして対バンする機会をいただきまして。その時に何としてでも沖井さんと繋がりたくって、沖井さんにしつこくしつこくアプローチしたんですね(笑)」

qurosawa「沖井さんのこと大好きだもんね」

斎藤「大好き~。最高! 俺にとってのベース・ヒーローですし」

ワタナベ「でも、POLLYANNAに入る前に両者を繋げたのは自分なんですけどね。(POLLYANNA加入前のワタナベがイヴェント〈Guitar Pop Restaurant〉でPOLLYANNAと沖井氏を繋げた話は長いため割愛)」

――沖井さんがPOLLYANNAに関わるようになったのはなぜなんですか?

qurosawa「元々セカンド(・ミニ)を沖井さんにプロデュースしていただく、という話があったんです。それは叶わなかったんですが、今回こそということで」

斎藤「今作ではヴォーカル・ディレクションということでレコーディングに立ち会っていただきました」

伶菜「いろんなことを教えていただいて本当に助かりました」

――レコーディングに1日お邪魔しましたけど、沖井さんの関わり方はヴォーカル・ディレクションの範疇を超えてましたよね。

伶菜「レコーディングでは私とタカシさんが特にお世話になりました」

飯島「それ以外の楽器は卓録でもいいけど、ドラムスとヴォーカルだけはちゃんとしたスタジオで録ったほうがいいということで、スタジオを紹介していただいて。今回リリースするレーベルのLD&Kさんも紹介していただいて」

――じゃあ売れないとダメですね!

伶菜「はい、いろんな方々に恩があるので!」

――レコーディングはけっこう長期間でしたけど、アルバムの全体像とかコンセプトはいつごろ見えてきたんですか?

斎藤「毎回ベスト・アルバム、全曲シングル曲のつもりで作っているので、特にコンセプトがあるわけではないんですが、『pantomime』というアルバム名だけはあらかじめ決まっていて。セカンド(・ミニ)の時に、世間に訴えかけたいものがすごくあったのに、それがあまり叶わなかったというのもあって、今回は〈身振り手振りで伝えるから、伝わってほしい〉みたいな意味を込めて『pantomime』というタイトルに決めてたんです」

飯島「〈伝えたい気持ち〉自体が『pantomime』なんですよね。ちょっと滑稽ながらも必死に伝えようとしている感じが、バンドのメタファーになっています」