Kaedeの新作『Youth - Original Soundtrack』は、架空の映画「Youth」のサウンドトラックというコンセプチュアルな実験作品。全10曲中、Kaedeの歌唱は4曲のみだが、セリフあり、インスト曲ありで独特の世界観・雰囲気を醸し出している。

このコンセプトの発案はNegiccoディレクターの雪田容史だが、全曲の作詞・作曲・編曲を行い(鈴木慶一が作詞した“生きる爆弾”を除く)、作品全体をプロデュースしたのは、Kaedeのライブにおいてサポート・ミュージシャンとしても気心の知れた佐藤優介。Kaede、佐藤(そしてたまに雪田)に、この謎めいたコンセプト・アルバムの制作秘話を訊く。

Kaede(Negicco) 『Youth - Original Soundtrack』 T-Palette(2021)

 

架空の映画のサントラを作りたい

――まずKaedeさんにお訊きしたいのは、今Negiccoとしてはメンバーが3人ともご結婚されたり、Nao☆さんのお身体のことがあったりする中で、どういうタームにいらっしゃると捉えていますか?

Kaede「私は今年30歳になるんですけど、女性として、その辺りの年齢で身体の変調とかが出て来るというのはよく聞く話なので、Nao☆ちゃんのこともそうだし、Negiccoとしての活動ができないというのはすごく寂しいことですけど、どうしようもないことでもあると思っています。

でも3人での活動があってのソロ活動なので、今は我慢の時だとも思っていて。だから積極的に自主練の時間を設けて、ソロの練習もしつつ、Negiccoの練習も忘れずするようにしていますね。じゃないとダンスも歌詞もどんどん抜けて行っちゃうので……それでも3人でやらないと忘れちゃう立ち位置とかはあるんですけど、活動が再開できた時に苦しまないようにしたいし、もし2人が忘れちゃってても支えてあげられるようにしたいし」

――たしかにそうですね。Kaedeさんは2019年からソロ活動を始めて、Negicco本体の活動とソロの活動と、どういう距離感で捉えていますか?

Kaede「3人での活動が順調にできていた時は、3人だとしゃべりでも歌でもどうしても2人を頼っちゃって、支えてもらってるなと思うことが多くて、1人で修業したいなと思っていて。それで最初は〈1人でもやってみたい〉と思ったんです。それに、1人でやることで歌がより良くなったり、そういう経験をNegiccoでの活動にも還せたらいいことだなとも思ったりしていて。だから、今こういう状況になってもNegiccoは軸だと思っています。Negiccoあってのソロ活動です」

――そうですよね。

Kaede「私の場合、これまでNegiccoのことを知っていた人がソロも応援してくれているっていうケースが多いと思うんですけど、前作(『秋の惑星、ハートはナイトブルー。』)をリリースした際に、(プロデューサーがメンバーにいる)Lampさんやウワノソラさんのことを好きな方なのか、新たに海外の方も結構聴いてくださったようで、そういうところから聴いてくださる方が増えていくのはありがたいことですし、面白いなとも思いますね」

――Kaedeさんの作品はいつも音楽通のファンがうなるような作家の方を起用していますもんね。そんな中で今作『Youth - Original Soundtrack』がリリースされますが、今作の立ち位置的にはセカンド・アルバムということになるのでしょうか?

雪田容史「今回はコンセプト・アルバムということで、何作目というカウントはしていないんです」

――なるほど。今作は大きな特徴が2つあって、1つは、以前からアコースティック・ライブ等でのサポート・メンバーだった佐藤優介さんをプロデューサーに迎えているということ。もう1つが架空の映画「Youth」のサウンドトラックということです。これはどちらが先に決まったのですか?

雪田「先にサントラというのが決まっていました」

佐藤優介「最初にお話をいただいた時から〈架空の映画のサントラを作りたい〉というお話でしたね。方向性も、〈割と80年代っぽい感じで〉というのは決まっていました」

――なぜ架空の映画のサントラだったのですか?

佐藤「それは俺も知りたい(笑)」

雪田「普通のオリジナル・アルバムを作っても面白くないなって思ったんですよね。やっぱりLampさん、ウワノソラさんに作っていただいた前作が良すぎたというのもあって、真面目にあれを超えるものを作るのは難しいなと思ったのもあります。ちょっと変化球の企画モノにすれば行けるなっていうことで、サントラを思い付きました」

――その話を聞いたKaedeさんはどう思いました?

Kaede「〈どうなるんだろう??〉ですね。〈サウンドトラック? でも映画はないんだよな?〉みたいな、不思議な気持ちでした。でも面白そうでもありましたね」

――で、お願いするなら佐藤さんしかいないだろう、と。

雪田「内容が内容だし、この意思をちゃんと再現できる人は優介さんしか思い浮かばなかったんですよね」

――たしかに80年代の質感というと佐藤さんの得意とするところなのかなとは思います。佐藤さんはそういうお話を受けてどう思いましたか?

佐藤「実は80年代って架空のサントラをテーマにした作品も多くて、それこそムーンライダーズの『(CAMERA EGAL STYLO /)カメラ=万年筆』もそうですけど」

――はい、佐藤さんのバンド名(カメラ=万年筆)の由来でもある。

佐藤「全曲のタイトルが映画から付けられていたり。でもそういうアルバムって、やっぱり基本的には歌モノがメインのものが多かったと思うんです。今作は半分がインストで、セリフだけのトラックもあったりして……そういう作品自体あんまり聴いたことがなかったから、面白そうだなと思いました」

――その、インスト曲もあって、セリフだけの曲もあって、もちろんKaedeさんが歌う曲もあって、そういうアイデアというのは?

佐藤「オファーが来た時から決まってましたね」

雪田「全部歌モノだと普通にアルバムになっちゃうからですね(笑)」

一同「(笑)」

 

佐藤優介
 

〈なんだこれ?〉と思わせたい

――「Youth」という架空の映画は、どういう内容なんですか?

佐藤「雪田さんから最初にもらったメモだと、たしか相米慎二監督とか。あと自分の中にあったのは大林宣彦監督とか、アイドル映画なんだけどちょっとぶっ飛んでる感じで。……だから〈普通にいい映画観たな〉っていうよりは、〈これなんだったんだろう?〉ぐらいのものになったらいいなと思って」

Kaede「(笑)」

――じゃあ雪田さんと佐藤さんのイメージはピッタリ共有できてたんですね。

雪田「そうですね。なんとなくの意思を伝えて、優介さんがその世界を拡大してくれた感じです」

佐藤「だからまとまりはないですよ。全部同じ音でもないし」

――お2人は、映画のサントラってお好きですか?

佐藤「好きな映画は大抵音楽も好きですよ。最近サントラを買ったのだと(ベルナルド・)ベルトルッチ監督の『1900年』とか。今回歌詞を書いて頂いた鈴木慶一さんの劇伴仕事とかもみんな好きです」

Kaede「私は映画音楽を買ったことはないです(笑)。ミニオンの映画のサウンドトラックをもらったことがあるくらいで」

――あまりなじみのないものに挑戦するというのはどうでしたか?

Kaede「何も想像できなくて、サウンドトラックってどういうことだろう?って全然分からなくて」

――では出来上がって〈こういう感じだったのか〉って分かる感じですか?

Kaede「そうですそうです。ひとつモデルとなるような作品は雪田さんからもらってはいたんですけど」

――その作品というのは?

Kaede「『ジョゼと虎と魚たち』です。サウンドトラックを聴いて、映画も観たんですけど」

――くるりが手掛けたサントラですね。なんとなく当初目指していたところが見えてきました。それと先ほど〈80年代〉というキーワードが出ましたが、たしかに今作を聴いていてもそういう雰囲気は感じますね。

佐藤「時代の空気感とか、さっきの相米慎二監督とか大林宣彦監督の……アイドル映画で主役はちゃんとかわいく撮るけど、めちゃくちゃやるじゃないですか。めちゃくちゃやってるのに主役は立ってる。そういうバランスがやっぱり面白いなと思って」

――映画の主人公はKaedeさんを想定しているんですか?

(3人同時に)Kaede「じゃないです」佐藤「分かりません!」雪田「違います」

一同「(笑)」

――女性ではあるんですね?

佐藤「(即答で)いや分かりません!」

雪田「Kaedeは歌を歌ってセリフを朗読しているだけの人で、だから映画には出てこないです」

――じゃあどんな映画なのかは聴く人がイマジネーションを膨らませるということで。

佐藤「(即答で)膨らませてください!」

一同「(笑)」