Page 2 / 3 1ページ目から読む

自由度が高い分ムズい

――実際にKaedeさんが歌っているのは4曲ですが、フル・アルバムに比べて物足りなさなどはなかったですか?

Kaede「それはないですけど、今回の〈なんだこれ感〉というか(笑)、そういうものは自分にもあります。1曲1曲がバラバラで、繋がってるのかどうかも分からなかったし」

――ご自身が歌っていない曲もKaedeさん名義ですが、そこについては?

Kaede「私もどちらかと言えば今作は〈佐藤優介名義〉なんじゃないかなと今でも思ってるんですけど、名義をどうするかっていう話を雪田さんがしてた時に、優介さんが〈Kaede名義にする〉っておっしゃって(笑)」

佐藤「どっちも責任を負いたくないみたいな(笑)。責任の押し付け合いですね」

――ただ、佐藤さんは映画のサントラに出て来るようなインスト曲なんて得意分野なんじゃないかなという印象がありますけど。

佐藤「CMや劇伴じゃなくひとつの作品としてインスト曲を作るっていうのは実はあんまりやったことがなくて。だから歌モノよりインストを作るほうが全然ムズかったです」

――インストの方が自由度は高いですか?

佐藤「自由度が高い分悩むこともあるし……やっぱりインストが半分あるアルバム自体珍しいと思うし。だからすごく悩みました。どんな感じがいいんだろうって」

――悩んで、どう答えを出しました?

佐藤「……出せたんですかね(笑)。でも、最初に雪田さんから〈こういうシーンにつける音楽です〉っていう指示はあったので。あとは歌モノへの橋渡しというか、そこでうまくストーリーが生まれるような感じの音楽にしたいと思いました」

――何分何秒の曲を作れっていう指示のある映画の劇伴ともまた違いますよね。

佐藤「だから全部想像ですね。映画全体を想像して、シーンも想像して」

雪田「一応、起承転結というか、〈ここは悲しいシーンです〉みたいな文章のメモは最初にお渡ししました。それである程度のイメージはお伝えして、あとは優介さんにお任せしています。優介さんは映画をたくさん観ているので、失敗することはないだろうなと」

佐藤「(笑)。いや、今までで一番難しかったですよ」

――インスト曲を作る上では、制限があった方が作りやすいですか?

佐藤「いや、制限はない方が好きです。今回は自由だったから楽しかったし、ありがたかったですね」

――先ほど、全曲バラバラという話もありましたけど、全体のトーンを保つため心がけたことはありますか?

佐藤「心がけてないですね」

Kaede「(笑)」

佐藤「映画だって場面毎に色が変わってたっていいわけですから。そっちの方がストーリー性も出るんじゃないかと思いました」

 

冒頭に2分間の中国語が入った曲

――セリフが入っている曲もありますけど、セリフを書いたのは?

雪田「はい。一応なんとなくのストーリーが自分の中でありつつ、けどはっきりとした形はできてなくてふわっとしてるんですよ。例えば一番長いセリフがあるところは本を読んでるシーンをイメージしたんですけど、あそこよりも一言のセリフの方がストーリーを表現したりしていて、でも全部が点でポツポツとある感じで。あとは優介さんが形作ってくれています」

佐藤「一番長いセリフのものはKaedeさんの朗読を録音したあと、それを聞きながら合間にピアノを入れていきました」

――Kaedeさんは朗読とかナレーションの経験ってあまりないかと思うんですけど、どうでした?

Kaede「あまりないですね。〈感情をなるべく入れず、抑揚もあまりつけないで読んで欲しい〉って言われてたんですけど、どうしてもしゃべってると色が付いてきちゃって表情が出ちゃうので、それは難しかったですね。でもテイク数はそんなに多くはなかったです」

――最後の曲の“Youth”には中国語のしゃべりも出てきます。あれも何なんだろう?って思ったんですけど。

佐藤「何なんだろう?って思いますよね(笑)」

――リード曲なのに途中まで中国語のセリフがあって、どういうことなんだ?っていう(笑)。

佐藤「誰か説明してくれよ!っていう(笑)」

一同「(笑)」

雪田「あの曲のイメージとしては、まず映画の最後のシーンで中国語の回想シーンがあって、そのシーンが終わってエンドロールが流れるということですね。それを切らずに曲にした感じです」

――なるほど。あの中国語は何て言ってるんですか?

雪田「昔を懐かしんで〈あの時はよかったね〉みたいなことをしゃべっています。僕が書いて、訳は台湾人の方にお願いしました」

佐藤「最初、中国語を冒頭に入れたいという話は聞いていたんですけど、曲の頭に一言二言、長くても10秒20秒くらいだろうなと思っていて」

Kaede「(笑)」

佐藤「届いたら2分あって〈ヤバい!〉と思って、すごく悩みましたね。歌に入る瞬間の転調やタイミングもいろいろ試したりして。どう畳んだらいいのかを考えながら」

――いい感じのエンドロールでした。

佐藤「エンドロールって、映画から現実への橋渡しみたいな役割もあると思っていて。だからあの曲だけちょっと80年代から抜け出すようなイメージで作りました」

――アルバムを通しての起承転結というのは?

佐藤「ないこともないんですけど、そこを第一には持ってきてないですね」

雪田「結末というか、答えも用意してないですし」

――雰囲気とか質感とかを重要視してる。

佐藤「好きな映画がそんな感じだからかもしれないですね。観終わって〈よかったな~〉でもいいんですけど、〈なんだったんだろ、この時間〉みたいなものも大事というか」

――セリフには抑揚をつけなかったとのことでしたが、歌のディレクションはどうでした?

Kaede「歌はそんなになかったですね。特に説明もなく、自由に歌いました」

佐藤「歌うまいですからね。そんなに録ってないです」

――そこはやっぱり気心の知れた仲だから、というのもあるのでしょうか?

佐藤「うまいですから」

Kaede「ありがとうございます(笑)」

――なんで初対面みたいな感じなんですか(笑)。

一同「(笑)」