© Jason Niedle

現実には叶わなかった偉人たちとの共演も描き、ジャニスの音楽とブルーズの伝統を称える

 昨年の命日(10月4日)で、27歳の若さでの死から50年もの歳月が経ったのに、今もなおジャニス・ジョプリンの映画が作られ、日本でも公開されるという事実には驚かされるではないか。もちろんジャニスはそれに十二分に値する不世出のロック歌手だった。60年代後半に急速に発展したロックの世界が生んだ最初の女性のスーパースターで、自分の内面の全てを搾り出すような劇的な歌唱は今もなお僕らを圧倒し続ける。

 2016年日本公開のドキュメンタリー映画「ジャニス:リトル・ガール・ブルー」に続き、今度はブロードウェイでも上演されたショウを収録した映画「ジャニス・ジョプリン」が日本の映画館で上映される。この原題「A Night With Janis Joplin」というショウの存在はジャニスのファンならご存知の方も少なくないと思う。2011年初演で、各地の公演で評判を高め、ブロードウェイでも2013年9月から2014年2月まで上演された作品だからだ。主演のメアリー・ブリジット・デイヴィスのジャニスを蘇らせたかのような見事な歌唱とパフォーマンスはトニー賞ミュージカル部門の最優秀女優賞の候補にもなった。ブロードウェイ公演の終了後も、そのまま彼女を主演に北米ツアーを3度も行う人気ぶりだ。

 そんな評判のショウだが、日本在住のファンには観劇の機会に恵まれた人は少ないだろう。僕もこの映画のおかげで初めて観ることができた。そして……驚いた。予想とはちょっと異なる、ひねった面白さのある作品だからだ。基本的にはジャニスに扮するデイヴィスの見事な歌唱とモノローグを中心においた2時間のコンサート・スタイルのショウではある。しかし、多くの人が予想するだろうジャニスの短くも劇的な生涯を年代順に追いかける伝記ではないのだ。脚本のランディ・ジョンソンは、これをジャニスのワン・ウーマン・ショウに終わらさず、複数の演者も登場させる演劇的な要素も加えて、さらにショウを盛り上げようと考えた。

 その解決策が、ジャニスの音楽的ルーツを遡り、彼女が多くを学んだ偉大なる先輩女性歌手たちを時空を超えて連れてくることだった。このショウのキャストにはデイヴィスの他、プリンスの秘蔵っ子として注目されたこともあるアシュリー・テイマー・デイヴィスを含む優れた歌手が4人加わっており、彼女たちはジャニスのコーラスを務めるだけでなく、ザ・シャンテルズ、ベッシー・スミス、エタ・ジェイムス、ニーナ・シモン、オデッタらに扮して、それぞれ素晴らしい歌声を聞かせるのだ。さらに、現実にはなかったジャニスとアレサ・フランクリンの共演というファンタジーを現実にして、第1部を大いに盛り上げて締め括る。