柔らかな陽射しが降り注ぐ、GWも程近いある日の昼下がり。ここはT大学キャンパスの外れに佇むロック史研究会、通称〈ロッ研〉の部室であります。

【今月のレポート盤】

JEFFREY FOSKETT 『The Best Of Jeffrey Foskett』 ヴィヴィド(2016)

逸見朝彦「新会長には雑色さんが就任すると思っていたんだけど、まさかこの僕になるなんて! みんなの期待に沿えるよう、一生懸命がんばります! てへへ」

戸部小伝太「雑色殿が固辞した結果、単なる消去法で決まったに過ぎませんよ。特に何も期待しておりませんので、肩肘張らずにどうぞ」

キャス・アンジン「そういえば、彼女が以前に〈面倒臭いことはすべて逸見に押し付けてやる!〉って話していたわ」

逸見「またまた~、みんな素直じゃないな。あはは」

戸部「バカがつくほど前向きですな」

逸見「ところで、なかなか悪くないドリーム・ポップが流れているね。ビーチ・ボーイズを思わせるこのハーモニーは、絶対にカリフォルニア産でしょ!」

アンジン「それはそうよ、だってビーチ・ボーイズのメンバーだもの」

戸部「やれやれ、ロッ研の会長ともあろう方が、ジェフリー・フォスケットをドリーム・ポップなんぞと勘違いするとは……嘆かわしいですな」

逸見「(猛烈な勢いでスマホを検索しつつ……)81年に準メンバーとしてビーチ・ボーイズへ加入、大ヒット曲“Kokomo”のレコーディングにも参加し、96年より自身のソロ活動をスタート。99年以降のブライアン・ウィルソンのツアーではバンマス的な役割も担い、現在はビーチ・ボーイズの正式メンバーとして活躍中。も、もちろん知ってるよ」

戸部「はいはい」

アンジン「これはソロ・キャリアをまとめた『The Best Of Jeffrey Foskett』というコンピレーションよ。3月下旬にビーチ・ボーイズがジャパン・ツアーを行ったばかりだし、タイムリーなリリースよね」

戸部「全公演に行かれた梅屋敷殿の話によると、ジェフリーはヴォーカルにギターに八面六臂の活躍ぶりだったそうですな。もっとも、つい先日に開催されたブライアンの日本公演は不参加だったようで……ちと残念」

逸見「あれ!? いま流れている曲は山下達郎の“踊ろよ、フィッシュ”にそっくりだね」

戸部「そっくりどころか、カヴァーですからね。その達郎殿もかつて取り上げたトレイド・ウィンズの名曲“New York’s A Lonely Town”や、マーマレードの“Reflection Of My Life”など、本作では往年のポップスのリメイクもたくさん聴けて楽しいですが、やはり〈90年代のビーチ・ボーイズ〉とも表現すべきオリジナル曲がたまりませんな」

アンジン「そうかしら!? いまでこそ〈ビーチ・ボーイズの~〉とばかり紹介されているけど、ソロ・デビュー当時はパワー・ポップやオルタナ系のグループと並列に語られていた印象があるわ」

戸部「いやまあ、彼のキャリアがプランクスというパワー・ポップ・バンドから始まっているのは確かですが……」

逸見「というか、キャスって実は三十路!?」

アンジン「いいえ、2歳からロックを聴いていたのよ。で、私は彼の作品からジェリーフィッシュやアップルズ・イン・ステレオのような同時代の音楽との親和性も、しっかり感じているわ」

戸部「うむむ。90年代のUSオルタナ・シーンにおいてビーチ・ボーイズというのは、ひとつの巨大なアイコンでしたからな」

アンジン「それを言い出したら最近のインディー界隈でのリスペクトぶりも同じじゃない!? だからアサヒコの意見もあながち的外れではないわね」

逸見「そ、そうだよね! お礼に僕がコーヒーを煎れてあげるよ!」

アンジン「ブラックでお願いね。でもお礼って言うけれど、別にあなたの肩を持ったわけじゃないわよ。ロッ研の会長なのにジェフリーを知らないなんて論外だもの」

逸見「ちょ、ちょっと君たち、僕に冷たすぎない!?」

戸部「いえいえ、ビーチ・ボーイズと同じくらい尊敬しておりますぞ、会長殿」

 後輩たちからイジられっぱなしで、まったく威厳のない新会長が誕生したようですね。先が思いやられますが、はてさて……。【つづく】