Better Distractions
写真からヨーヨーまでマルチな才能を発揮してきたフェイ・ウェブスターが新作をリリース。柔らかく穏やかに浮遊するインディー・フォークの美しさに今回も酔わされて……
シークレットリー・カナディアンに移籍しての『Atlanta Millionaires Club』(2019年)がインディー系のメディアで軒並み高評価を獲得し、ユニークなジャケやMVの雰囲気もあってか日本でも好感触だった気がするフェイ・ウェブスター。アトランタを拠点とするシンガー・ソングライターで、イシリアルらラッパー勢との交流などが殊更にトピックとして挙げられるあたりはプレス・リリース上の材料に過ぎないとしても、その根本的な魅力である気怠くもノーブルな歌声と心地良い午睡を招くようなインディー・フォークの佇まいは通算4作目となる今回の『I Know I'm Funny Haha』でも変わらない。どころか、彼女がティーンの頃から重ねてきたキャリアにおいてもこれは図抜けた一枚となるだろう。
幕開けの“Better Distractions”からペダル・スティールの音色が醸す浮遊感で空間が満たされ、柔らかでリラックスしたムードが全編を支配する。オバマ元大統領もプレイリストに含めたというこの曲は昨年9月のシングルだ。本作から最初に世に出たのは昨年4月の“In A Good Way”だが、その前後の状況の変化は、単曲を積み重ねてアルバムにまとめるという従来のアプローチではなく、より集中した期間での計画的な制作プロセスを彼女に求めることとなった。前作に続いてプロデュースを手掛けたのはアセンズを拠点とするエンジニアのドリュー・ヴァンデンバーグ(ディアハンター、ステラ・ドネリー他)。彼やマシュー・ストーセル(ペダル・スティール)ら演奏陣とスタジオ入りしてマッシヴに録音された成果か、ビートの立った“Cheers”もmei eharaを迎えた“Overslept”も含むアルバム全編の柔らかい空気には絶妙な統一感がある。アレンジ的な振り幅なら過去作のほうがあった気もするし、先だって客演したコインの“Sagittarius Superstar”などを例に挙げずとも多彩な楽曲に合うポテンシャルの持ち主なのは間違いないが、そうあることが重要だとはまったく思わない。もともとそういう作風だったのはあるにせよ、受け手の心情と適切な距離を保ちながらゆっくり染み透ってくるような良品だと思う。