フェイ・ウェブスターはいまもっとも優れたソングライターだ、なんて言いたくなるような特別な何かが彼女にはある。カントリー・ミュージシャンの家庭で育ち、ナッシュヴィルの大学で作曲を学びながら、プレイボーイ・カルティら多くのラッパーたちが所属するオーフルで唯一のシンガー・ソングライターとして活動した。ちなみにリル・ヨッティとは高校の同級生。フォトグラファーとしてオフセットやD.R.A.M.のポートレートを手掛け、ライヴではヨーヨーの神業を披露する。

 こんなふうに経歴を辿っていくだけでもユニークさは伝わってくるが、彼女の特別な部分、そのマジック・タッチはやはり音楽にこそ宿っている。

FAYE WEBSTER 『I Know I’m Funny Haha』 Secretly Canadian/BIG NOTHING(2021)

 前作『Atlanta Millionaires Club』はフォーキーで肩の力の抜けた2010年代を代表する傑作で、シークレットリー・カナディアンからの新作『I Know I’m Funny Haha』も基本的にはそんな前作の流れを引き継いでいる。1曲目の“Better Distractions”ではサザン・ロック的にレイドバックしたサウンドのなか、彼女の代名詞的なペダルスティールが早速登場し、一気にアルバムの心地良い空間に浸っていくこととなる。

 〈あなたは私を良い意味で泣きたくさせる〉というラインが泣かせる“In A Good Way”、珍しく喉に力の入った歌い方が新鮮な“Kind Of”、コートニー・バーネットを思わせる“Cheers”、日本人アーティストmei eharaとのデュエットがひたすらに美しい“Overslept”と、曲も演奏も歌もアレンジもすべてがあるべき姿で存在し、その温かで少し物悲しい雰囲気に陶然としてしまう。

 このアルバムでは音楽でしか表現することのできない、ある種のムードと微細な感情の動きがほとんど完璧に表現されている。そして、この作品を聴きながら少し涼しくなった夕方に近所をぶらつくのはとても気持ち良さそうだ。

 加えて今回もう一つ、これまた素晴らしいゴー!チームの新作を紹介したい。イアン・パートンによるこのプロジェクトはアヴァランチーズが切り拓いた地平をさらにポップに、さらに雑多に推し進めてきた。5枚目のアルバムとなる今回の『Get Up Sequences Part One』も、底抜けにカラフルで楽しい作品だ。

THE GO! TEAM 『Get Up Sequences Part One』 Memphis Industries/BIG NOTHING(2021)

 資料ではモンキーズからモリコーネまでが引き合いに出されているが、それも納得の内容で、ブラックスプロイテーション映画やカンフー映画のサントラといった70年代レア・グルーヴへの愛情をベースに、それらを初期ヒップホップ的な感覚で次々とスイッチさせながら、即効性の高いポップソングへと仕上げる確かな腕前がこのアルバムの醍醐味である。

 マッシュアップ文化が最盛期を迎えた時代の何でもありな多幸感がこのアルバムではいまなお健在である。と言っても、別にその時代のリヴァイヴァル的な作品というわけでもなく、CHAIの新作の横に並んでいても何ら違和感のない、音楽的な多様性を追求し続けたミュージシャンによる最新型のハイブリッド・ポップ・アルバムでもある。

 これから気温もどんどんと高くなっていく季節、昼間にはゴー!チームで程良くテンションを上げて、日が沈むタイミングでフェイ・ウェブスターを聴けば、それだけで最高の休日となるのでは。

 


【著者紹介】岸啓介
音楽系出版社で勤務したのちに、レーベル勤務などを経て、現在はライター/編集者としても活動中。座右の銘は〈I would prefer not to〉。