Kroi『LENS』全員が全員スペシャリストであり曲者、バンドというものの良さを凝縮したようなメジャー・デビュー作

2021.06.23

雰囲気のある歌声と演奏の佇まいに耳が引っ掛かり、問答無用にグルーヴィーでかっこいい楽曲が続いて圧倒される、気鋭のバンドによる堂々のメジャー・デビュー作。サブスクの恩恵でヒップホップやジャズを語ることがトレンド化し、多くの(ロック・)バンドや評論家が我先にとブラック・ミュージックというワードを蘇生させるようになった現代の日本らしい存在ともいえるし、例えばKing Gnuの次を探す血眼のお眼鏡に適いそうな面もあるが、少なくとも凡庸なジャンル横断気分のあれこれとは似て非なるセンスと魅力を彼らがあり余るほど有しているのは確か。自分たちの肌に合うファンクからフュージョンまでやりたいことを好きに鳴らしている骨太な清々しさがあって、何よりそこが聴き心地の良さに直結している。傑作!

 


シンガー・ソングライターでも打ち込みのアーティストでも何でも好きだが、やっぱりバンドが好きだ。特にバンドは、人力によるダイナミクスとグルーヴが他の音楽の形態とは違うと思う。人にしか出せない良さがある。

ネオ・ミクスチャー・バンド(という呼ばれ方より筆者がインタビューで提案した〈ネオ・キメラ・バンド〉という呼び方の方がいいと本人たちは言っていたが)Kroiは、数ある新人バンドの中でもそのダイナミクスの付け方やグルーヴ感の強さが抜きん出ていると思う。特にグルーヴ感。グルーヴとはキレイな円ではなく楕円だ、という話を聞いたことがあるが、その楕円が美しい。演奏をよく聴けばイン・テンポからズレていることもあるのだが、そこがまた人力ゆえの良さとノリを倍増させている。思わず腰や首を動かしたくなったり、手拍子や指パッチンをしたくなったりするようなファンキーさがあるのだ。

Kroiのメジャー・デビュー作『LENS』は構成も素晴らしい。キラー・チューンの“Balmy Life”から始まり、ジャムっぽい“sanso”、ヴォーカルが畳みかける“selva”と次第に勢いを上げていき、“夜明け”でテンションが爆発したかと思えば、“Pirarucu”では疲れ果てて眠る前のぼんやり感に突入。作中一度目の就寝タイム。

“ichijiku”でパッと目を覚まして起き上がるや否や、古き良き黒人コーラス・グループのごとき“a force”やドロっとしたバラード“侵攻”、全編英詞でダンサブルな“NewDay”ではチルめ&ゆるめのダンス・タイムに突入し、作品に緩急と彩りをつける。極め付きはパーティー・チューンの“shift command”からの、踊り疲れた明け方、哀愁漂う男の背中を朝日が照らすような“帰路”。そして不思議な余韻を残す“feeling”で本日二度目のおやすみなさい。

高速ラップからファルセットまでを巧みに使い分け、楽曲中を縦横無尽に駆け巡るヴォーカル・内田怜央。主食や副菜はもちろんのこと、時には出汁や隠し味としての役割までこなす魔法の食材、ギター・長谷部悠生。しっかり者のリーダーなのに演奏はファンキーで暴れん坊主、ベース・関将典。バンド1の変人なのに堅実なリズム感でバンドの屋台骨を支えるドラムス・益田英知。キラー・フレーズからメロウな白玉、パーカッシヴな連打まで、常に効果的な音で楽曲に彩りを与えるキーボード・千葉大樹。全員が全員スペシャリストであり曲者でもあるこの5人が、縮こまった日本全土をそのダイナミクスとグルーヴで、リズムに、そして調子にノらせてくる。

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