
Kroiの活動そのものにもちょっと〈夜明け〉感があった
――ではそんな『LENS』の1曲1曲の話を伺えればと思います。1曲目から順に訊いていくのと、レコーディングした順に訊いていくのだったら、どちらがいいですか?
千葉「ああ、レコーディングした順っていうのもおもろいですね!」
関「今作だと“夜明け”を一番最初に録って、そこから〈前回試せなかったことを試してみよう〉という感じでトライ・アンド・エラーをしながらレコーディングが進んでいって、その過程で徐々に音楽的に洗練されていった、みたいなところがあるので、レコーディングした順に話していくとそういう流れが見えやすくなるかもしれないです」
――ではレコーディングした順に行ってみましょうか。4曲目の“夜明け”が最初だったんですね。
関「そうですね。2020年の8月に“夜明け”を録って。実はそれと同じ時期に“HORN”(『STRUCTURE DECK』収録)も録っていて、当初は“夜明け”の方をシングルとしてリリースする予定だったんですけど、“HORN”を先に出す方がいいんじゃないかということになり、それで“夜明け”はアルバムの方に回しました。この曲はそもそもデモが結構前からある曲なんですよ。それで、いつかちゃんとした形で出したいと思っていたのが、今回ついに叶ったっていう」
――この曲、相当変な曲ですよね(笑)。
一同「(笑)」
内田「みんなあんまり言ってくれないんですよ、きちんと〈変な曲ですよね〉って。そう言ってほしくてこんな曲をやってるのになあ(笑)」
――(笑)。最初からコード感が割と希薄で、あとサウンド面でキラキラしていて、徹夜明けの変なテンションを表現してるのかなあって。
千葉「まさしくそうです! Aメロとかは基本ワン・コードですね。そもそもIRORI Recordsでやりましょうっていう話になって、大きなスタジオで試しに1曲録りましょうってなってこの曲をレコーディングしたんですけど、この前レーベルの人に話を訊いたら〈ちょっとビックリした〉って言われました」
関「最初にこれやるか、って感じで(笑)」
千葉「“Network”とか“Fire Brain”を聴いてレーベルに誘ってくれただろうに、蓋を開けてみて“夜明け”だったら〈あれ?〉みたいな感じになるよね」
関「これまでのリリース曲と比べて明らかに違う雰囲気だから(笑)。でも俺ら的にはむしろ、こういうふざけた感じこそがKroiだったんですよ」
――でも、収録曲の中では一番ぶっとんでいるけど、ソロ回しもあるし、全体としてはオシャレでかっこいい部分もあるし、いろんな要素が1曲の中に入ってて振り幅が広いから、最初にこれをやるっていうのは結構いいと思いますよ。
千葉「たしかに、ある種の自己紹介みたいにはなっているかもしれないですね」
内田「本当は結構めちゃくちゃでありたいんですよ。でもKroiはなんだかんだでちゃんとしているから、〈もっと壊せる〉と感じていたんです。それでレコーディングのタイミングがちょうど『STRUCTURE DECK』の前のEPの『hub』(2020年)を出した直後だったというのもあったので、ここら辺で一発〈どちゃふざけ〉しておきたいなと。まあでも〈どちゃふざけ〉って言えるほど、まだ振り切れていないんじゃない?とも思いますけど。デモではもっと化け物みたいなのがいるんで」
千葉「これ、ラスサビでメンバーにスタッフさんも交えてみんなで歌ったんですよ」
――その辺はやっぱり、夜明けのテンションを表しているんですかね?
内田「これ、出来たのがちょうど夜明けで太陽が昇る頃だったんですよ。当時、Kroiの活動そのものにもちょっと〈夜明け〉感がありましたし。そういう背景があり、さらにみんなで歌入れしたというのもあって、結構大事な曲だなっていう意識が自分の中でありました」

自分の中の違和感が、これを聴いた人の中にも同じように残ってくれたら
――“夜明け”の次は何を録ったんでしょう?
関「(『STRUCTURE DECK』収録の)“HORN”と“page”、“risk”を挟んで、“帰路”、“a force”、“feeling”を録りました。“帰路”は益田が大好きな曲で」
益田「1年半くらい前にデモが上がってきたんですけど、マネージャーがすごい喜んじゃって。でも〈この曲は最高の仕上がりにしたいから、もっといい環境が整ったときに録りたい〉ってずっと録るのをお預けされてたんですよ。それが今回、満を持してOKが出たので〈よっしゃ!〉っていう感じで」
――“shift command”がパーティー感がある曲だったので、その後にこの渋めの曲が来るとなんとなく〈パーティー感の終わり〉みたいな雰囲気を感じます。
内田「これは、朝帰りの曲なんですよ。それこそ、俺らが月の半分くらいライブをしていた時の帰り道がモチーフになっています。俺、家が遠くて、打ち上げとかで遅くなるとすぐ終電を逃しちゃうんですよ。それで結局残ってそのままオールして……となると、まあクソ疲れるわけです。ある時そんな感じでオール明けで地元に着いて、パッと空を見上げたら、めちゃめちゃ朝焼けが綺麗だったんです。その時、これは〈今の太陽の感じ〉と〈今の疲れ方〉が合わさらないと味わえない景色だな、っていうのを感じて。それで家に帰って、そのまま寝ないで書いたのがこの曲です。なので、パーティー感の後にこの曲が続くっていうのは、素晴らしい解釈ですね。ありがとうございます!」
――おお(笑)。
内田「歌詞に〈トワイライト遊泳〉って出てくるんですけど、あれは自分が地元の駅に降りてその朝焼けを見たときに抱いた、ふわふわふわーっとトリップしているような感覚を表す造語なんです」
――なるほど。その流れで次はラストの“feeling”。この曲はこれでフル・レングスなんですか?
関「デモと尺はまったく一緒ですね」
内田「元は曲の欠片だったんですよ。俺は本命のデモを出す時、そのサイドに影武者みたいな曲を置いて挟んで出すっていうのを毎回やってるんですけど、その時は影武者の出が悪くて、一度自分の中でボツにしたこの曲を出したら、意外と反応が良くて。あとこの曲は、歌詞がすっごい怖いんですよ。怪談※とかではないんですけど、なんか奇怪で。その時何を考えてたか覚えてなくて」
※メンバー内で現在、怪談がブームらしい
千葉「たしかに支離滅裂な感じはある(笑)。これって歌詞のモチーフは何かあるの?」
内田「たぶん、あったんだけどもう覚えてなくて。一応自分の中の解釈はあるんですけど、他にもいろいろ解釈できるし、聴く人一人ひとりにその解釈は覆してもらえたらいいなって思っています。自分の中にも正解はないので」
――歌詞のどこに句読点を入れるかによっても解釈が変わってきそうですよね。この曲があることで、アルバム全体に何とも言えない余韻みたいなものが残るような気がします。
内田「自分の中の違和感が、これを聴いた人の中にも同じように残ってくれたら〈よし、もう1回聴いてみよう!〉って思ってもらえるかもしれないし。だとしたらおもろいですよね」