
〈曲を作ってやった〉っていうよりかは〈なんか出てきた〉くらいの感覚
――で、次が7曲目の“a force”ですか。
関「まだ千葉がバンドに加入する前のスタジオで、ある時、(長谷部)悠生が仕事で30分くらい遅れてくるというので、俺と怜央と益田の3人で先にスタジオに入ってジャムってたら、この曲の原型が出来たんです。
で、悠生が来た時に何食わぬ顔で〈じゃあこの間のアレやるよ〉っていう感じでその曲を急にやり始めたら、悠生がめちゃくちゃ焦るっていう(笑)」
長谷部「着いたら、みんな当たり前のように演奏してるから〈あれ、こんな曲あったっけ……?〉って(笑)」
関「で、その後に怜央がそれを元に清書したデモを作ってくれて、今の形が出来上がりました。1回封印したけど、また引っ張り出してきて」
――なるほど。この曲は歌がずっとファルセットですよね。
内田「だからライブでやるのが大変で、それで封印していたんです。これからライブでやるのに今から怯えてますね(笑)」
――(笑)。で、次にレコーディングした曲が5曲目の“Pirarucu”。
内田「自分たちは基本的にいつも昼夜逆転生活みたいな感じなんですけど、そんな生活から同時期に生まれた曲っていうことで、“夜明け”と“Pirarucu”は割とセットで捉えていて。“Pirarucu”に関しては、かなり自分の精神状態がナイーヴな時に生まれた曲なんで、〈曲を作ってやった〉っていうよりかは〈なんか出てきた〉くらいの感覚です。その時は病室を思い浮かべていて……」
――また怖い話!?
内田「そうそう(笑)。病室の窓の向こうで自分の好きなピラルクっていうでっかい淡水魚がワーッと空中に浮いてる画が頭の中に出てきて、それを元に書き上げていったんです。きっと俺の好きな世界観なんですよ、こういうのが」
――なんか寝る前のトロっとした感じが出ている気がします。
内田「小さい頃って寝る前に〈死んじゃったらどうなるんだろう〉とか考えるじゃないですか。そういう時のトラウマ的な不安とか儚さみたいなものを表せたらいいかなっていうのがあったのかな」
千葉「この曲はドラムを結構デッドな音で録ってるんですけど、シーケンスでめちゃくちゃデカい音でストリングスを入れたり、すごくディレイのかかった壮大な感じのエレピを入れて。そういうアレンジで怜央の言ったファンタジー感みたいなものを上手に演出できたと思います」
――次は8曲目の“侵攻”。この曲は以前からライブでもやっていましたけど、ライブに比べてテンポは遅くなりましたよね?
内田「そうですね。BPMを落として、曲構成とかアレンジも考え直して。やっぱり音源とライブは差別化したいというのもありつつ、〈曲の持つ別の表情も見せたい〉みたいなところもありました」
――なるほど。もともとダークで妖しかったけど、さらにもっとドロッとして。
内田「この曲は俺らの中では結構ミックスがおもろいと思っていて。ドラムとか鍵盤を結構大きめに入れたりとか、あと長谷部のギターが近付いてきたりとか」
千葉「ずっとピャーっと鳴ってるエレピが、ミックスした自分でも〈なんでこんなにでっかく音出したんだろう〉って思ってて(笑)。バスドラとエレピがでかいのに理由はないんですけど、でもバスドラって音がでかければでかいほどカッコよくないですか?」
一同「(笑)」
千葉「怜央のイメージでは小さいバーで演奏してるみたいなんですよね。だからイントロも、店内の雑音がザーッと鳴っていて途中で乾杯の音が入る、みたいなイメージで。そこに理由はあるの?」
内田「おもろいから(笑)。最初のデモは、電車の中でボイスメモに録ったんですけど、今回のアレンジは電車に乗ってる雰囲気じゃないな、と。それで、バーでチルい感じの時に、バック・バンドがフワッて演奏しているのが耳に入ってくる感じにしようと思ったんです。
俺、この曲のドラムがフレージングも含めてめっちゃ好きで、フィルも2回とかしかないんですけど、その2回にめっちゃ己を懸けてる感じがあって、そこがすごく気に入ってるんです。サラで鳴ってるグルーヴもビートもめっちゃいいし、そこに合わさるローズの音も完璧なので、それだけ聴いてもらえたらいいんじゃないですかね。歌とか歌詞は聴かなくていいんで(笑)」

〈ダッサ!〉が〈天才的〉に変わるまで
――次が9曲目の“NewDay”ですか。
内田「ここら辺から、アッパーめな曲を書こうみたいな話をし始めた気がします」
関「今まで話した曲に関しては2020年の12月の時点で録り終わっていたんですけど、“夜明け”以外は落ち着いたテンションのチルい感じになっちゃったんで、ここから結構作曲のエンジンがかかった感じですね」
千葉「最初にチルいのだけ録るっていうのは、後半テンションを上げられるからいい戦法かもしれないね」
――これは関さんが作詞で。関さんは過去にも“MAMA”と“Shincha”の歌詞を書いてますよね。
内田「俺はガッツリした英詞は書けないので、英詞が合う曲は関さんにお願いしたりします。演奏面では“NewDay”は〈新たなKroiだよな〉っていう感じがありますね。元々デモの時点からそこはかなり意識していて、新しいところを見つけようと思って作ったので」
関「アルバムの中で結構〈味変〉というか、キャラが立った曲にはなっていると思いますね」
――キーボード、めちゃくちゃカッコいいですよね。
千葉「あれを聴かせるための曲みたいなとこあったもんね、デモの時から」
内田「それこそ〈チル・レコーディング〉が続いたので、一旦ここで一番ブチ上がるのを作っとこうと思って」
関「あのシンセ・セクションのイメージに引っ張られて結構ベースも派手なフレージングをしようと考えてたんですけど、怜央は〈限界まで音を削りたい〉って思っていて。だからそのフレーズは一旦リセットして、いなたい感じでレコーディングして」
内田「元々は昔のR&Bとかファンクの音像を現代にレンジアップさせた音像を作りたかったんですよ。そこにみんなのエッセンスが組み合わさってこういう感じが出来て」
千葉「シンセ・ソロ終わりの悠生のギター、面白くないですか?」
――面白い! 〈あ、これでいいんだ〉っていう感じの(笑)。
長谷部「最初なかなかこうする勇気が出なくて。元々はリヴァーブとかをかけて録ろうとしていたんですけど、試しに1回何もかけずにやってみたら〈それで入れようか〉っていう話にありました」
内田「あれはいいよねえ。ドクター・ドレー感」
――(笑)。その次は3曲目の“selva”です。
千葉「“selva”も怜央からずっと〈いなたくしたい〉って言われてて。まあ毎回言われるんですけど(笑)、その中でも特に言われてて、僕はミックスするにあたって一番いなたくしています。他の曲よりもレンジが狭いししょぼいと思います」
内田「すごい大好きな音像です」
関「エレキ・ギターのチャカチャカ鳴ってる音から始まるんですけど、新しい試みとして、普通のエレキ・ギターをナマ音で録ってます。アンプとか何も使わずマイキングだけして」
長谷部「アンプを通さずに部屋で弾いてる感じね。最初はもっとリアルにしようと思って、ギターとiPhoneだけ持って、トイレとか、街の踏切の前で一人で録ってて(笑)」
――変なことやってますねえ(笑)。
長谷部「あと、プリプロでこの曲のギターのフレーズを弾く時に、怜央のデモのフレーズを聴き間違えて覚えてて(笑)」
内田「俺それ聴いて、思わず〈ダッサ!〉って言っちゃったんですよ。でもよくよく考えたら、最近の曲で〈ダッサ!〉って思えるギター・フレーズってなかったなと思って。それで〈これは天才的だ〉と思えてきて、そっちの方を採用しました」
――あ、使われてるのはそっちなんだ!
千葉「そういうのを活かすバンドなんですよ、Kroiは」
内田「すごく民族的というか、チャイニーズっぽさがあって。だからそのギター・フレーズが入ったことで、いなたいサウンドにめちゃめちゃ合う楽曲になったんですよ。それで改めて〈バンドって最高!〉と思いました」
関「ずっと言ってたよね、〈これがあるからバンドはやめられない〉って(笑)」
内田「本当にこれが一番気持ちいい瞬間なんですよ。だから“selva”のこのギター・フレーズが、俺の中での長谷部のベスト・パフォーマンスだとガチで思っています。“selva”っていう作品を作るうえで一番重要な役割を果たしたなって」
長谷部「ありがとう(笑)」
――次が先行リリースの時にお話を訊いた“shift command”で、その次が“sanso”ですか。個人的には今作の中で一番好きかもしれないです。この曲も途中までワン・コード感でジャムっぽくて。
内田「おおー、本当っすか! でも俺はまだまだアレンジいけたなと思ってます」
関「〈楽器頑張った!〉って感じだよね」
千葉「ここら辺から、ドラムの扱い方がすごく分かってきたんですよね。録りに関してもミックスに関しても、ドラムのサウンドメイクがやりたいようにやれたっていう手応えがあって。
あと、シーケンスをまったく使っていなくて、全員がその場で弾ける音で弾いたっていう曲ですね。全員分のオケを録った後で怜央が、真ん中のゆったりしたセクションにパーカッションを入れて。パーカスのセットを作ってステレオ・マイク2本で録ったら、一つの楽器を叩いた時の別の楽器の揺れとか、そういう細かいところまでリアルな音が録れて、信じられないくらいナマ感があって。そういう出したかったナマ感もありつつ、関さんのベースは普通出しちゃいけないようなところまでローを出したりして〈今っぽさ〉みたいなもの同時に出せていて、いろんなピースが上手くハマった楽曲ですね」
内田「この曲のサウンド感は素晴らしいよね」
――いや、この曲すごいですよ。サウンドもすごいし、このファンキーさこそKroiだと思います。
内田「“sanso”はデモが上がった時からアルバムに必要なピースという感じはしていて。でもやっぱり演奏の難易度は高そうだったし、レコーディングの後半に寄せていて。だから“sanso”はかなり意気込んでたんじゃないかなと思います」
千葉「あと俺は、この曲のドンケツのセクションが大好きなんです。これはゴスペルで言う、いわゆる〈プレイズ・ブレイク〉に当たると思うんだよね。全員で最後踊り狂ってバカ騒ぎするっていうアレ。“dart”(『STRUCTURE DECK』収録)も最後のセクションでやっぱり〈プレイズ・ブレイク〉を意識していて、そこは共通していますね」