Photo by Maria Jose Govea

ガービッジがデビューして四半世紀。同じく90年代の中頃にアメリカのメインストリームで頭角を現したロック・バンドたちのなかにあって、しかし、彼らのようにいまも第一線で活動を続けているケースとなると数が限られている。

途中一度の休止期間を挟みながらも、本格的に再始動した2010年代以降はコンスタントなペースでアルバムのリリースとワールド・ツアーを実施。2016年の6作目『Strange Little Birds』はビルボードのロック・アルバム・チャートで初登場一位を獲得、また3年前には代表作『Version 2.0』(98年)の20周年を記念したリマスター&アニヴァーサリー・ツアーが大きな話題を集めたことも記憶に新しい。商業的な成功と批評家の賞賛の両方を手にしてきたかれらは、今日の〈オルタナティヴ〉なアーティストに先例を示す理想的なキャリアを歩み続けていると言っていい。

そんな彼らをめぐる評価について近年顕著なのが、若い世代のミュージシャンたちが寄せる信頼の厚さだ。なかでもフロントウーマンのシャーリー・マンソンに向けられる視線は特別で、2018年のNMEアワードでマンソンが〈NME Icon Award〉を受賞した際、チャーチズのローレン・メイベリーは「なりたいものになり、言いたいことを言う勇気を与えてくれてありがとう」とメッセージを送り、プレゼンターを務めたサヴェージズのジェニー・ベスは「シャーリー・マンソンのことを考えると、人生やキャリアのあらゆる段階において、女性には優しさと強さがあることがわかります」と語るなどリスペクトの声は引きも切らない。また、オリヴィア・ロドリゴやリナ・サワヤマといった新世代のポップ・アイコンもマンソンからの影響を公言している。華々しく〈イット・ガール〉を演じる傍ら、自身の意見を持ち、率直で正直なパフォーマーとして音楽業界をタフに渡り歩いてきたマンソンの存在は、ガービッジのディスコグラフィーをリアルタイムで追いかけてきた世代はもちろん、さらに下の世代からも支持されるロール・モデルになっているのだ。

そして、先日リリースされたガービッジの7作目のニュー・アルバム『No Gods No Masters』は、そんなバンド並びにマンソンのアクチュアリティーを物語る作品となっている。

「私たちの人生がこんな状況にあるのに、ただのほほんと座って、楽しいパーティーみたいなアルバムを作ってはいられないもの」。マンソンがそう語る今作では、人種差別、性差別、ミソジニー、気候変動、資本主義の失敗、あるいはチリのサンティアゴで続く不平等に対する抗議活動など、今の世界を取り巻く様々な問題が楽曲のテーマに取り上げられている。なかでも、トレイボン・マーティン射殺事件に触発された“Waiting For God”、ジェンダーの二元論や家父長制の抑圧を糾弾する“Garbage”は今作のキーといえるナンバーだろう。

加えて、ロキシー・ミュージックやゲイリー・ニューマンにインスピレーションを得たというサウンドは、同時に、アイドルズやヴァイアグラ・ボーイズといった現行のポスト・パンク勢との繋がりを意識させるインダストリアルでゴシックな仕上がりとなっている。

バンド史上最もダークでエッジー、そしてラディカルなアルバムについてマンソンに語ってもらった。

GARBAGE 『No Gods No Masters』 Stun Volume/Infectious Music(2021)

 

『No Gods No Masters』は怒りのレコードではない

――『No Gods No Masters』は5年ぶりのニュー・アルバムになります。キャリアのあるバンドにとっては、5年というインターバルは決して長いものではありません。しかし5年という年月は、物事がいい方向にも悪い方向にも大きく変化するのに十分な時間でもあります。ご自身ではこの5年間をどう振り返りますか?

「良い5年間だったと思う。ここ数年はたくさんショーもやっていたから、活動していなかったわけではなくて。

2017年のライブ映像。演奏しているのは95年作『Garbage』収録曲“Only Happy When It Rains”

あと、5年かかった理由は、いまの音楽業界では定期的に、たとえば1年半おきにレコードをリリースする習慣のようなものができてしまっているけれど、私たちは自分たち自身がスペシャルだと思えるものが出来上がるまで待ちたかったから。内容を無理やり作り出そうとするのではなくて、何か必要不可欠な要素が降りて来るのを逃さず捉えたかったんですね」

――『No Gods No Masters』では、ジェンダーの不平等、ブラック・ライヴズ・マター、気候変動、人権、LGBTQIAの権利など、いまの社会を取り巻く様々な問題が描かれています。いわゆる〈政治的な〉アルバムということになるのかもしれませんが、私は今作を聴いて希望を感じたんですね。それは今作の目的が、ただ抗議の声を上げることに止まらず、議論を起こし、対話を呼びかけることに置かれていると感じられたからです。ご自身としては、今作を作った意義をどのように考えていますか?

「レコードからそれを感じてくれたのはすごくうれしい。私も本当にそう思う。このレコードは抗議や怒りのレコードではないんです。不安や戸惑いについて語ることが、必ずしも怒りに繋がるとはかぎらない。

私たちは、もちろんレコード内で触れている多くのテーマに関して憤慨してはいるけれど、最終的に私たちがバンドとして信じているのは、進化というものは絶えず起こり続け、新しい世代は私たちが成長してきた世界とは全く違うプリズムの世界で生まれ育っているということ。

私たちは、ジェンダー問題とは何かを実際に知るようになったし、気候変動への認知度の変化を目にしているし、ブラック・ライヴズ・マターの抗議からもわかるように、その状況に心地悪さと悲しみを感じている人々がいることをこの目で見るようになったわけですよね。国際社会に生きる私たちが、自分たちの周りで起こっているそれらの問題について語ることはとても重要だと思う。その一環として、レコードでそれに触れ、いままで語られてこなかったこれらの問題の認識を公開し広げることの重要性をバンドとして強く感じたんです」

『No Gods No Masters』収録曲“No Gods No Masters”