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Photo by Joseph Cultice

自分の見解を語るのは簡単、反対意見と戦うのは苦ではない

――今作の資料のなかでギタリストのデューク・エリクソンは〈僕らはこれまでの音楽のキャリアの中で、ほんの少しでも政治的なバンドだったことは一度もない。でも、この4年間で、もっと状況が、強烈に破壊的になってきて、無視できなくなったんだ〉と語っています。実際、今作の制作にあたって、バンド内ではどんな話し合いが持たれたのでしょうか?

「私たちは、話し合いというものを一切しないんです(笑)。正直、メンバー同士でコミュニケーションをとるということがほとんどなくて。私は話すのが好きだから何についても話すんだけど、他のメンバーはあまり心の内を表に出さないタイプ。私がまず一人で曲を作ったんだけど、その後みんなで一緒に作り始めてからもこのテーマが自然と残って、その流れでこのレコードが出来上がったんです(笑)。

でも私たちは、同じ観点をシェアしている。人権、ジェンダー問題、性差別、気候変動、全てに関して同じ意見を持っているし、その全てが私たちにとってとても重要なテーマだから、彼らとそれらの主題について話をすることは自然なことだったんですね。例え彼らが私の意見を気にかけなかったとしても、私が自分の意見をどちらにせよ主張していたと思う。でも、バンドと一緒に意見をシェアして自分の見解を語ることができて、そしてみんながお互いを理解しあう環境があることはすごく喜ばしいことだと思う」

――今作の制作は、これまでとは異なる体験、またタフな作業だったのではないかと想像します。

「意見を持ち、それを述べることがタフだとは思わなかった。自分の見解やモラルについて語るというのは、実はむしろ簡単なことだと私は思う。真実を話すのって簡単なことだから。真実を曖昧にするほうが難しいし、私はあまりそれをやりたいとは思わない。

でも、ここまで大きなトピックに触れることで、何か言われるであろうこともわかっていた。女性が自分の意見を主張することに不快感を持つ人々も未だに存在するでしょ? だから、反対意見のようなものが出て来るだろうなとはわかっていたんです。でも、アルバムで表現していることが、私が心から感じていることであるのには変わりない。だから、それを主張したうえで反対意見が上がってくるなら、それと戦うことは苦ではないんですね」

 

経済格差、人種差別、性差別……全地球がインスピレーション

――そうしたなかで、今回の制作にあたってエンパワーメントしてくれたもの、インスピレーションとなったのはどんなことでしたか?

「地球全体の環境そのもの。全地球がストレスを抱えていると感じたし、多くの人々が独断的になって自分以外の人たちのことを気にかけなくなっていると思った。同じ地球には、まだまだ貧しくて帰る家のない人々がたくさんいるのに。その状況が私を震えあがらせたんです。

私が住んでいるLAでは、ホームレス問題はすごく大きな課題。彼らの状況には本当に驚かされる。アメリカは世界でもっとも裕福な国のひとつなのに、あんなにホームレスの人たちがいるなんて。私は、それがすごく変な感じがしてならないんですよね。すごく矛盾していると思う」

――LAについての複雑な思いは“This City Will Kill You”でも歌われていますね。ところで、今作は2019年末までにほとんどの歌詞が書き上げられていたと知り驚きました。例えば“Waiting For God”の〈She’s choking on sadness with no hope for justice〉というラインは、白人警察官に殺されたジョージ・フロイドの死を連想させます。

「あの曲は、(2012年に自警団員に射殺された)トレイボン・マーティンについて書かれた曲。でも彼にかぎらず、警察官から十分な理由なく殺害されたすべての人々に関係する曲なんです。私自身がこの問題にもっと関心を持つようになって、蓋を開けてみると多くの人々が被害にあっていることがわかった。殺された理由は驚くほどゼロ。この状況は本当に驚異的だと思ったし、その無法状態に思うことがあって曲にしたんです。

曲を書いた後ではあったけど、ジョージ・フロイドの死には本当に吐き気がして。自分がこれまでの人生で見た中でも最悪な映像だったし、世の中が怖くなった。こんなことが実際に起こりうるんだというのを突きつけられた事件でしたね」

『No Gods No Masters』収録曲“This City Will Kill You”“Waiting For God”

――“Godhead”は、ジェンダーの二元論や家父長制の傘の下にある価値観に異議申し立てをする痛烈なナンバーです。この曲へのアプローチや、あなたの考えを教えてください。

「この曲は、歴史的に、いかに男性がすべてをコントロールすることに集中してきたかについて歌った曲。歴史の始まりからずっと、男性という特権がない人は誰でも男性の下で苦しんできた。家父長制というものが何なのか、そしてそれがどんなに愚かなことであるかを表現しているんです。

『No Gods No Masters』収録曲“Godhead”

誰もが知っているように、男性による支配階級が女性やその他の性別の人たちが抱える問題をどんどん大きくしている。私は、どうしてそれがもっと描写されないのかを疑問に思うんです。女性や黒人、そしてずっと前から存在しているLGBTQの人々を含む私たち全員がこの社会構造の一部なのだから、私たちはみんな同じ価値と決定権を持っているはず。

女性である私は、男性社会のなかで女性が弱体化していくことにうんざりしているし、現時点でもまだそれが残っているという事実は本当に馬鹿げていると思っている」

――ちなみに、今作の収録曲のなかで、もっともパーソナルなナンバーはどの曲になりますか?

「多分“Waiting For God”ですね。私を本当に悩ませることについての曲だし、私はそれついて語りたいと思っているし、社会にもそれについて考えてほしいと思っているから。すごく脆い曲だし、いちばんパーソナルな作品だと思う」