©KANA TARUMI

自身の音楽的な正解を追求すべく選ばれた堀込高樹の新たなチャレンジ——かつてないプロセスから生まれたニュー・シングルがKIRINJIの新章を開く!

 2013年夏から、メンバーを固定した〈バンド形態〉で活動を続けてきたKIRINJI。当初は、出来上がった楽曲をバンドのメンバーと練り上げていく――つまりはバンドの〈生〉のアンサンブルに重きを置いた制作のプロセスを経ていたが、2018年に発表した前々作『愛をあるだけ、すべて』あたりから、打ち込みでのサウンドメイクなど、志向が変わりはじめてもいた。それが、昨年初めの〈バンド体制卒業〉へと繋がっていったわけだが……。

 「自分の志向が生っぽいサウンドから打ち込みっぽいものに興味が移ってきて、バンドという枠組みをなくして自由にチャレンジしてみたいという気持ちが強くなりました。最善なものを求めるときにそこはないがしろにしたくないので、音楽的な正解にいちばん早く辿り着ける、音楽的な正解を追求したいという理由で〈ひとり〉になった感じです」。

 昨年は、予定していたバンドでのラスト・ツアーもコロナ禍で中止となり(年末の東京公演のみ開催)、7月にスタジオ・ライヴを録画配信(これは素晴らしかった!)。そんななか、堀込高樹を中心とする変動的な音楽集団となった〈新生KIRINJI〉もすでに動き出していた。それが、この夏に公開される映画「鳩の撃退法」の劇伴制作である(同時期には、昨秋に放送されたTVドラマ『共演NG』の劇伴も!)。そして、映画の主題歌となる“爆ぜる心臓”が、このたびニュー・シングルとしてリリースされることに。RHYMESTERやCharisma.com、鎮座DOPENESSなど、近作ではすっかりお馴染みとなったラッパーとのコラボレーションだが、この“爆ぜる心臓”でもAwichをフィーチャーしている。

KIRINJI 『爆ぜる心臓 feat. Awich』 ユニバーサル(2021)

 「今回の曲作りに関してはいろいろな条件がありました。まずは映画の主題歌、言ってみたらコマーシャルソングなわけですから、それなりのキャッチーさや派手さというのが必要だということ。映画の内容に則しているっていうことはもちろんあって、あとはその、映画の劇中ではこの曲の前にもう一曲流れるんです。それが16ビートのファンキーな曲なのですが、その後にくる曲のビートはどんなのがいいかなっていうのも考えました。前に流れる曲も自分が歌っているので、次の曲の歌い出しは別の人をフィーチャーしたほうがいいかな、曲調がこうだからいきなり歌メロを乗せるよりラップのほうがかっこいいんじゃないかとか……いままでにない制作プロセスでしたけど、そのなかでちゃんとできてよかったです」。

 リズム隊とサックスを除くすべての楽器とプログラミングを自身が担い、KIRINJIにしては珍しいヘヴィーなギター・サウンドを絡ませながら繰り出される逞しいビート──諸々の条件をクリアしていく制作プロセスを踏みながら編まれた“爆ぜる心臓”は、KIRINJIのめざす音楽からは少し逸脱しつつも、また新たな〈KIRINJIらしさ〉を感じさせる一曲となった。

 「さもすれば軽くなりがちなビートなので、シンベを重ねてボトムをかせいで、その上に千ヶ崎(学)くんと、ベースは3本でユニゾンしてて。バリトン・サックスもユニゾンさせてますし、ドラムのパターンとギター・リフとラップでさらにカッコイイって言ってもらえるようなものにしようと、いろいろトライしました。イメージは、実はレッド・ツェッペリンなんですよね。“Rock And Roll”のドラム・パターン、あれを基にしてリズムのパターンを組んで、八分の動きをするリフを作っていきました」。

 シングルのカップリングには、コロナ禍を背景としたハートフルなナンバーで、4月に配信リリースされていた“再会”と、2016年作『ネオ』収録時にはコトリンゴが歌っていた“恋の気配”のセルフ・カヴァーを収録。サウンドトラック、時世をまっすぐに表したポップソング、高樹ヴォーカルによる過去曲のモデファイ……といった楽曲たちを積み、新たなる船出を飾ったKIRINJI。この先に船長が思い巡らすのは、はて、どんな景色か!?

 「ヴォーカルのちょっとザラついた感じとか、コーラスの微妙なサイケ感みたいなところとか、“再会”のサウンド・プロダクションがけっこうイケるなっていう気がしていて。ビートはダンサブルでウワモノはちょっと空間的なサイケっぽい感じっていうのかな。そういうのをできないかなあと、頭の中でぼんやり考えています。でも、こういう話が載ると、やらなきゃいけないのかなあと思っちゃって、それもまたプレッシャーですけど(笑)。でも、そういったサウンドは自分のヴォーカルにも合ってる気がします。〈今〉の感じの音で自分の声が合うのってどういったものだろうって思うと、テーム・インパラみたいな、サイケっぽいふわーっとした感じとか合ってるんじゃないかなと思っているんですよね」。

 

関連作を紹介。
左から、KIRINJIのベスト盤『KIRINJI 20132020』、KIRINJIのライヴ映像作品『KIRINJI LIVE 2020』、Awichの2020年作『Partition』(すべてユニバーサル)、堀込高樹の手掛けた2020年のサントラ『共演NG』(バップ)