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台湾電子音楽の歴史はまだ浅い

――ソニアさんの最近のインタビューなどを読むと、以前に組んでいたバンド、ゴー・シックについてはあまり触れていない気がします。そこには意図があるんですか?

「特にはないですね。喜んで話したいとも思います。ただ、私の今の音楽を聴いている人たちのほとんどがゴー・シックについて知りません。〈ゴー・シックのソニア〉として認識されなくなったことに、ソロのプロデューサーとしての達成感は感じます。けど、バンドを恋しく思いますし、今でも自分の一部です」

ゴー・シックの2013年作『We Ain’t Home』ティーザー

――僕はこれまで多くの台湾人アーティストに会いましたが、エレクトロニック・ミュージックを作っている人たちは少なく、シーンとしても小さいのではないかと感じています。そんな中、ソニアさんはどのようなきっかけでエレクトロニック・ミュージックに出会い、台湾でキャリアを築き上げてきたんですか?

「まず、アーティストの少なさについて思うのは、例えば日本はテクノの歴史も長いですよね。台湾でも90年代は大きなレイヴやパーティーが開催されていましたが、出演していたのは全てDJであり、プロデューサーではなかった。私の世代になってようやく本格的なダンス・ミュージックを作る人たちが出てきたのだと思います。

エレクトロニック・ミュージックを作るようになったきっかけは高校生の頃。ニュー・オーダーやストーン・ローゼズ、プライマル・スクリームといったUKのバンドが好きで、彼らの音楽にはシンセやサンプラーといった電子楽器も使用されていたので自然な流れだったと思います。その後、私が大学生だった2007~2008年頃にニューレイヴが大きな潮流となり、ジャスティスやフランスのレーベル、エド・バンガーが話題を呼んでいました。同時期にバンドを組んでいた私は、そういったアーティストたちの音楽をたくさん聴いていたので、自分でも創作を試みるようになりました。

ゴー・シックを始めた頃はギターを弾いていましたが、electribeというKORGのシーケンサー・ドラム・マシーンも使っていました。それから同社のR3シンセサイザーも入手し、私たちのバンド・サウンドのなかで電子楽器の存在感が高まっていきました。並行して、ニューレイヴのパーティーにも出入りするようになり、DJも始めたんです。私とVeeekyはこの頃からの盟友で、周りから〈そんなにパーティーが好きなら自分たちで主催したらいいんじゃないか〉と言われ、〈よし、やってみよう〉とパーティーをホストするようにもなりました。これらをバンドと並行してやっていたので、バンドのライブ後のアフター・パーティーではよくDJもしていました。バンドが活動停止し、今度は音楽を自分で全て作れるようになりたいと思いはじめたんです」

Sonia(右)とVeeeky(左)
提供: CJ Lee

――昨年のGIMAの授賞式でソニアさんは「台北でエレクトロニック・ダンス・ミュージックを作るのは本当に大変」と発言されてます。受賞後、現在も変わらずそう感じてますか?

「作ること自体は大変なことではありません。一般のリスナーたちに注意を向けてもらうことが大変なんです。このジャンルの音楽はファンベースも小さいですし、みんなが熱心に聴いているもののほとんどが西洋のアーティストです。なので、知り合いの多くがエレクトロニック・ミュージックのプロデューサーとしてのキャリアを追求するためにベルリンや上海といった海外の都市に移り住みました。

台北はそれらの都市に比べると小さいですし、クラブ・カルチャーも根付いていません。先程、日本のテクノの歴史について触れたのもそこなんです。東京にはEDMだけを流す商業的なクラブのみならず、アンダーグラウンドな音楽の発信地になっているようなクラブもたくさんありますよね。とはいえ、今はオンラインの時代なので、自国のフォロワーにそれほどこだわる必要も無くなってくるかもしれませんけどね」

――コロナ禍によって海外アーティストたちの公演が困難となり、台湾のアーティストたちが取って代わる好機と捉えることはできますか?

「台湾での感染が拡大する前、クラブは通常営業していました。しかしどこも苦戦していましたね。ラインナップはいつも地元のDJなので、魅力に欠けるのでしょう。実際、私はこれを台湾のアーティストたちをショーケースする絶好のタイミングと捉え、6か月以上も費やし、エレクトロニック・ミュージックとニュー・メディア・アートのフェスを企画していました。小さなイベントは注目度が低いですが、規模を大きくし、アートまで組み込めば受け止められ方も違ってくるのではないかと考えたんです。しかしコロナの状況が悪化してしまった今、実現するかどうかわかりません

※台湾におけるコロナの状況が改善しているため、2021年8月18日時点ではフェスを開催予定とのこと