関俊行が、台湾のさまざまな音楽カルチャーを紹介する連載〈台湾洋行〉。今回は、台湾で人気の高い日本人ミュージシャンによるジャズトリオ、東京中央線にインタビューしました。メンバーの3人は、客家フォークの大御所シンガー、林生祥のバンドへの参加でも知られています。もはや台湾が主たる拠点と言えそうな彼らに音楽家としての歩み、そして林生祥の何がすごいかを語ってもらいました。 *Mikiki編集部

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林生祥の車に同乗して

2019年の11月、僕は台北から南西80kmほどの位置にある都市、新竹へ向かっていた。バンにはフォークシンガーの林生祥(Lin Sheng Xiang)氏と、そのマネージャーのトーマス氏、林氏率いる〈生祥樂隊〉のメンバーとして活動する日本人ギタリストの大竹研氏が乗り合わせていた。生祥樂隊には大竹氏以外にも、ベースの早川徹氏、ドラムの福島紀明氏と、日本人メンバーが3人所属しており、彼ら3人はインストバンド〈東京中央線〉としても活動中だ。

林氏は台湾における客家フォークの巨匠とみなされており、金曲奨(台湾のグラミー賞)でのノミネート/受賞も多数。泰然として構えた、目力のある人で、初対面時はピリッと緊張感が走ったが、威圧感のようなものはなく、よく知らない日本人の存在に、単にそれほど気を取られていないという印象だった。その日は林氏と大竹氏のデュオで、新竹の音楽フェスに出演することになっており、林氏は集中力を高めていたのか、道中、言葉を発することはあまりなかった。

僕は、ひょんなことから林氏のマネージャーと繋がり、〈台湾への滞在期間中にライブがあればぜひ、観に行きたい〉と伝えたところ、この新竹のフェスをすすめられたのだ。だが、電車だけでは到底たどり着けない、山地のようなエリアで行われていることがわかり、ご厚意に甘えて同乗させていただいた。高速で1時間以上の道のりだったが、大竹氏と台湾の音楽についてあれこれと雑談を交わしているうちに、気づけば新竹に入っていた。

ちなみに〈客家〉とは多民族社会、台湾におけるエスニック集団の1つで、明朝末期から清朝初期にかけて台湾に渡ってきた韓民族の一種。新竹は県の人口の80%以上が客家民族とされており、客家文化の総本山と言ってもいいエリアだ。会場は活気に溢れ、林氏は多くの人から声をかけられていて、その人気のほどが窺い知れた。

その日のステージは、遠くの山並みまで一望できる、見晴らしのいいテラスのような場所で、演奏前からすでに多くの観客が集まっていた。遠くの空が赤く染まり、辺りが暗くなる頃、演奏が始まる。僕は林氏のアルバムをすでに何枚か愛聴していたものの、ライブを観るのは初めてだった。そして、その演奏力の高さや安定感、抑制のきいたソウルフルな歌唱にグッと引き込まれた。そして聴けば聴くほど、大竹氏による〈サポートギターの妙〉にも気づかされたのだ。デュオとは思えないような音の密度と豊かなアンサンブル――贅沢なライブだった。

 林生祥と大竹研による新竹でのパフォーマンスの様子
 

帰りの車内で、大竹氏から林氏と出会った経緯や、台湾での音楽活動についてなど、ギタリストとしてのこれまでのキャリアについて話をお伺いし、それがとてもおもしろく、印象深かった。そこで、今回は大竹氏に加えて、同じく東京中央線と生祥樂隊のメンバーである早川徹氏、福島紀明氏も招いて、インタビューを行った。