関俊行が、台湾のさまざまな音楽カルチャーを紹介する連載〈台湾洋行〉。今回は〈台湾のグラミー〉と言われる音楽賞、金曲奨が2020年10月3日(土)に開催されることを受け、同セレモニーを紹介。この度、その〈Best Musical Group部門〉にノミネートされたバンド、イルカポリス 海豚刑警のMarkoへのインタビューを交え、金曲奨がなぜ台湾で大きな権威となっているか、その意義を考察しました。 *Mikiki編集部

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号泣写真をアップしたイルカポリス

先日いつものようにFacebookのニュースフィードをスクロールしていたら、突如、号泣する女の子の顔がアップで写された画像に出くわし、ギョっとした。よくみると台湾のインディーズ・バンド、イルカポリス 海豚刑警のアカウントで、顔の主はヴォーカルのMarkoだった。

大報社 謝謝所有的愛

イルカポリス 海豚刑警さんの投稿 2020年7月15日水曜日

まず、イルカポリスの紹介をすると、台北を拠点に活動するインディーズ・バンドで、メンバーはMarko(林寶珠、ヴォーカル/ギター)、Bubble(泡泡、ギター/コーラス)、Andy(陳金發、ベース)、Avery(林寶珠、ドラムス)の4人。

(左下より時計回りで)Marko、Andy、Avery、Bubble

イルカポリス 海豚刑警の2019年作『豚愛特攻隊♡ Call me when Night go Blue』収録曲“安平之光” 

キャッチーでひねりの効いたメロディー、タイトなバンド・アンサンブル、そしてヴォーカリストMarkoの少し拗ねているかのようにも聴こえる、キュートな歌声が魅力だ。音楽性としてはロックを基本としつつも電子音やヴォイス・パフォーマンス、ノイジーなギターを取り入れた冒険心溢れるサウンドメイクを特徴としている。

彼らは大きな影響を受けたアーティストとして透明雑誌や雀斑樂團 Frecklesといった台湾インディーズのレジェンドたちの名前を挙げている。彼らのデビュー・アルバム『豚愛特攻隊♡ Call me when Night go Blue』は日本のSFテレビ番組にインスパイアされ、若者の魂を救う4人のヒーローという架空のコンセプトのもと、制作されたという。

彼らのことは前から知っていたし、去年台南で行われた音楽フェス、〈LUCfest〉でMarkoとも実際に会っていた。だが、この写真は、いつもカラフルな服装を身に纏い、垢抜けたメイクをしていて、力強いステージ・パフォーマンスを繰り広げる彼女のパブリック・イメージからかけ離れていて、一瞬誰なのかわからなかったほどだ。

しかし、悲しい顔ではない。口角もしっかり上がっているし、まごうことなき〈うれし泣き〉だ。何事かと思い、投稿内容をチェックしてみると、どうやらバンドが第31回金曲奨の〈Best Musical Group部門〉にノミネートされたようだ。

早速、バンドの関係者にメッセンジャーで〈ノミネートおめでとう! Markoも感極まったみたいだね〉と伝えたところ、〈そりゃそうだよ! グラミーだぜ?〉(というようなニュアンスの)返事があった。そうだ、〈台湾のグラミー〉なのだ。言葉ではずっと理解はしていたつもりでも、今回の件でそれを〈体感〉した心持ちだった。そして、台湾のミュージシャンにとってこの金曲奨がどれほど大きな意味を持つのか、改めて考えさせられた。

 

台湾で最も名誉ある音楽賞、金曲奨とは

台湾の音楽を海外へ発信するメディア、Taiwan Beatsの記事〈A Brief Introduction to Taiwan’s Music Awards: The Moment of Glory for Musicians〉(台湾の音楽賞への簡易的手引き:ミュージシャンが栄光をつかむ瞬間)を読むと、金曲奨についてまず以下のような記述がある。

マンダリンのポピュラー・ミュージック界において金曲獎を受賞することは、ファンを増やすことや大きなステージで演奏することと同様に、ほぼ全てのミュージシャンの夢であり、スポットライトを浴びている人のみならず、舞台の裏で働く人も例外ではない。

ここで気になるのが〈マンダリン(Mandarin)〉という言葉だ。〈なんで台湾じゃないの?〉と思う人も多いかと思う。実のところ〈マンダリン〉の定義については漠然としたところも多く、台湾人でさえ理解出来ていないこともあるというので、いわんや日本人をや、である。

周りの台湾人たちによる説明に基づいた僕なりの理解をシンプルにまとめてみると、マンダリンは台湾では〈國語〉(台湾の公用語)を意味する。台湾語(中国福建省をルーツに持つ台湾独自の方言)とは違うので注意が必要だ。中華圏ではMandarinとPopを掛け合わせた〈マンドポップ(Mandopop)〉という言葉があり、台湾のマンドポップは自国のみならず中華圏のポピュラー・ミュージック・シーンを牽引してきた歴史がある。これは僕の推測だが、〈マンダリン〉いう言葉を使っているのはその自負があるからではないだろうか。

実際、金曲奨は台湾のみならず他の国のアーティストであっても応募が可能だ。Taiwan Beatsの編集長Brien Johnによると、〈応募資格を満せば、人種や国籍、使用言語すらも不問で参加が可能〉とのことで、音源が台湾で最初にリリースされ、台湾で登録された企業によって申請されさえすれば、例えシンガポール人やアメリカ人のアーティストであったとしても参加可能だという。

第30回金曲奨授賞式の模様。昨年、Leo王がラッパーとして史上初の〈最優秀男性歌手〉を受賞した

 

金曲奨の仕組み、選考方法

Taiwan Beatsの記事によると、金曲奨とグラミー賞の大きな違いはそのカテゴリーなのだという。グラミー賞が〈ジャンル〉と〈技術〉なのに対して、金曲奨は〈ヴォーカルもの〉 〈インストゥルメンタルもの〉〈技術部門〉の3つに分けられる。これら各カテゴリーがさらに細分化され、例えば〈ヴォーカルもの〉は作詞、作曲、プロデュースと枝分かれしていく。

今年開催される第31回金曲奨の特設サイトのノミネート一覧を見てみたところ、21部門もあった。マンダリン 、台湾語、客家語、原住民言語と、言語ごとに部門が設けられているのも多民族・多文化国家、台湾らしい。

選考過程はおおまかに以下のような流れとなる。

第一選考
・主催者である中華民国/台湾の行政院・文化部(日本の文部科学省相当)が各分野ごとの専門家を50人ほど選出し審査員に任命、応募作品への採点がなされる

第二選考
・第一選考で審査員から与えられた点数の合計点に基づいてランク付けがなされ、上位に残った作品が第二選考の対象となる
・50人から絞り込まれた21人の審査員によるさらなる審査がなされ、ノミネート作品が決定←今ここ

最終選考
・表彰式の朝、第二選考の審査員が再び集まり、詳細な議論をした上で最終的な受賞者の投票を行う

審査員が誰なのかは式典の日まで明かれないという。専門家ファーストで多様な視点を取り入れているところも今どきの台湾らしい。こうみると手間を惜しまず、厳正な審査が行われているということが分かる。

 

イルカポリスのMarko、ノミネートについて語る

Markoに今回のノミネートについてビデオ通話で簡単なインタビューを行った。時折コミカルなリアクションを交え、はしゃぎながら話すさまはイメージ通りで、その飾らなさも彼女の魅力であろう。

Marko

――金曲奨ノミネートおめでとうございます。どんな気持ちですか?

「自分たちがノミネートされるなんて思ってもみなかったので驚きました」

――泣いている顔をFacebookにアップされていましたがどんな心境だったんですか?

「ノミネートが嬉しかったというより、ここまでみんなで頑張ってきて本当に良かったと思ったんです。いろいろな壁を乗り越え、続けてきたから」

――イルカポリスがノミネートされたのは〈Best Musical Group部門〉ですが、ほかのノミネート者の顔ぶれはどうでしょう?

「EggPlantEgg 茄子蛋などどれも素晴らしいバンドばかりです。 Wayne’s So Sad 傷心欲絕がノミネートされているのも嬉しい」

EggPlantEgg 茄子蛋の2019年作『我們以後要結婚』収録曲“窒息 Can’t Breathe”

傷心欲絕 Wayne’s So Sadの2019年作『遜到簡直是個藝術品』収録曲“台北流浪指南 Wanderer Guide In Taipei”

――10月3日にいよいよ受賞者が発表されますね。どんな気持ちですか?

「レッドカーペットを歩くので、みんながあっと驚くような衣装を準備したいです」

――日本の音楽ファンに一言。

「日本には好きなアーティストがたくさんいます。いつかライブしたいです!」

 

僕としては正直、よく知っている彼らを応援したいし、最終的に受賞して欲しいと思っている。だが、ノミネート者全員にここに至るまでの濃密な人間ドラマがあるはずだし、自分の音楽を信じて活動を続けてきたアーティストであれば、誰が受賞しても拍手喝采に値する。そして、そのような場があることにこそ意味があるのではないか。今後も金曲奨から目が離せない。

 


PROFILE: 関 俊行
ミュージシャン/プロデューサー/ライター。MIDI Creativeにて自身のアルバムをこれまでに2枚リリースする。近年は、「ミュージック・マガジン」2020年4月号の特集〈台湾音楽の30年〉への寄稿や、Taiwan Beatsへの参画など台湾の音楽を積極的に発信している。