台湾最大の野外ワールドミュージックイベント〈World Music Festival @ Taiwan〉(以下 WMF)が10月29日から10月31日にかけて開催された。〈台湾のユニークな音楽・パフォーマーを世界にプレゼンテーションしつつ、世界のユニークな音楽を台湾に紹介する〉というコンセプトの下、台湾のレーベルWind Music(風潮音樂)がオーガナイズを務めるWMF。今回は、コロナ禍により未だ観光に制限がかかる状況を考慮し、初めて世界に向けてのライブ配信が行われた。
そんな注目の祭典を振り返るため、Mikikiでは台湾の音楽に精通する識者たちによる座談会を実施。語り手は、ワールドミュージック全般に造詣が深く、音楽サイト〈北中研究所〉を運営する音楽評論家の北中正和とライターの北中理咲、そしてMikikiの連載〈台湾洋行〉で台湾のさまざまな音楽カルチャーを紹介している関俊行の3名。WMFを起点として、台湾でいま注目度の高まっている原住民音楽をめぐる状況なども照らし出す内容になってることだろう。
都市の人々が考えるエコロジーのあり方
関俊行「WMFに対して、どんな印象をお持ちですか?」
北中理咲 「2017年のWMFに北中研究所は初めて取材でうかがいました。〈intoxicate〉で琵琶奏者の連珮如(Peiju Lien)にインタビューした後、連絡を取り合っていたところ、〈WMFに彼女のロック・バンドSweep Musicで出演する〉という話題が出たので行ってみたんです。ドラムは日本人のDafu(根石大輔)でした」
北中正和「その年のWMFには陳明章(Chen Ming-chang)も出演していました。90年代、陳さんにインタビューしていたんですよ。それで再会して……」
理咲「実際にWMFに行ってみたら、とても楽しい3日間でした。みんなのびのびとやっている印象でした。Peiju Lienのおかけで桑布伊(Sangpuy)や林生祥(Lin Sheng Xiang)とも知り合えてインタビューできました。いろんな方といい出会いができたのが、2017年なんです」
関「そうだったんですね。WMFのオーガナイズをしているレーベル、Wind Musicについてはもともとご存じでしたか?」
正和「原住民音楽のフィールドレコーディング作品などを通じて知っていました。2017年には創業者の楊錦聰(Ken Yang)さんにインタビューしました。他にもニューエイジ系の音楽をリリースしていたり、オルタナティブな形でさまざまな台湾の文化を発信している、という印象を受けました」
理咲「2017年のWMFの会場では、アロマやコーヒーをはじめ、オーガニックなものも出店されていて、音楽のみならず衣食住の環境を大切にする意識が感じられて、それがWind Musicの制作のコンセプトなのかなと思いました。有機的な台湾の良さを都市の人が洗練されたものにして、海外にも発信していきたいのかなと」
正和「豊かになった台湾の、都市の人が考えるエコロジーという気もしますね。一歩間違えるとコマーシャルなものになってしまいかねないですが、バランスの取り方が絶妙ですよね」
オープンでリラックスしたムードが魅力の都市型フェス
関「今回のWMFはリモートでの実施となりましたが、ご覧になっていかがでしたか?」
理咲「少しこじんまりした気はしましたけど、一方でどこか〈こなれた感〉があった気がします。司会進行の人も、ほかの国からリモートで見られることを意識している感じがして、頑張ってるなと思いました」
正和「他の台湾の大きなフェスティバルって行ったことがないんですけれど、たぶんもっとロック~ポップス寄りだから、お客さんも若い人たちが中心ですよね。その点WMFは、幅広い年齢層の人が来てゆったりと楽しんでいるなというのは、前に行ったときも思いました。
港区の中心部からお台場に行ってフェスティバルを観るみたいな、それぐらいの距離感ですよね。都市型のフェスティバルとしては便利で、気軽に行ける。そういうリラックスした感じは、今回画面からも伝わってきました」
関「僕も2018年に行ったんですけど、そのときは家族連れも来ていて、ごはんを食べたり、シャボン玉して遊んでたり、思い思いに楽しんでいるようでした。音楽好きでなくても気軽に遊びに来れて、〈いま聞こえてるこの音楽いいね〉みたいな、そういうセレンディピティが生まれるオープンさが魅力だと思います。
あとは結構出店があって、ハンドメイド系のおしゃれな原住民グッズを売ってるお店とかがあったのも印象的でしたね。台湾のデザインには魅力的なものが多いですよね」
理咲「そうですね。原住民のアート性の高さの影響もあるのかなと思います」