関俊行が、台湾のさまざまな音楽カルチャーを紹介する連載〈台湾洋行〉。今回は台南で毎年開催されている音楽フェス〈LUCfest〉を採り上げました。ライブハウスのみならず多様な場所で演奏が繰り広げられ、まさに〈台南が音楽の街になる〉同イベント。 その成り立ちやこだわりを、主宰のひとりである葉宛青に尋ねました。 *Mikiki編集部

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2020年の11月27日から29日にかけての3日間、台南で〈LUCfest(貴人散步音樂節)〉が開催された。これは台北の老舗インディー・レーベル、White Wabbit Records(小白兎唱片、以下WWR)が台南市政も巻き込んで主催している音楽フェスで、コンセプトがとてもユニークなのだ。

映画館やギャラリー、公共施設などがステージに様変わりし、街の至る所でライブが楽しめる。台南のライブハウスの数はとても限られており、規模もそれほど大きくない。であればライブハウスではない場所もステージとして使ってしまおう、という発想の転換なのだ。

僕自身、昨年は断念したが、2018年と2019年は連続で参加した。普段バンドのライブなんて行われていないような場所に、突如アンプやらドラム・セットやらが現れ、ヒップな装いの若い観客が詰めかけている様子がとにかく新鮮だった。そして、そのようなイレギュラーな状況で聴く音にもどことなく瑞々しさを感じたのだ。

台湾のインディー・シーンでもえり抜きの若手アーティストを揃えてくる審美眼、それを実現するネットワークも流石のものだ。2019年までは海外からの参加者も多く、日本や韓国、タイなどアジア各国のみならず、ヨーロッパ、北米、南米など文字通り全世界からアーティストや音楽関係者が集い、非常にインターナショナルな様相を呈していた。各国の業界エキスパートが登壇するカンファレンスもイベントの目玉の一つだ。

台湾の音楽を台湾の中に留めておくのではなく、海外の目(耳)に晒すことでアーティストたちにとっては大きな刺激にもなる。フェスで得た交友関係が今後のキャリア形成において役立つ可能性も十分にある。現に僕は以前の記事でピックアップしたBanyan Gang(榕幫)It’s Your Fault(問題總部)とは〈LUCfest〉で知り合った。そう考えると海外からの参加者である僕もしっかりその恩恵にあずかっていると思う。

その魅力は音楽だけではない。ステージ間には程よく距離があり、移動の合間に台南市の観光もできる。〈台南小吃〉で知られる台南は美食の街なので、ローカルの名店も多く、食事には事欠かない。歩き疲れたら古民家リノベ系のおしゃれなカフェに立ち寄って一休みしたり、観客が台南で思い思いの時間を過ごしながら音楽も楽しめる、その余白がいい。

音楽フェスに観光、地域活性化まで盛り込んだいいこと尽くしのフェスで、参加者はまさしく〈LUCK(幸運)〉に満ちた3日間が過ごせるというコンセプトなのだ。

コロナ禍で世界が翻弄されるなか、優れた対応力で感染者を最小限に留めた台湾。台湾人の知人たちはほぼ〈Back To Normal〉と言えるくらい、以前の生活を取り戻している。ライブやレコーディングなども盛んに行われており、音楽シーンもしっかりと動いているようだ。そんな中、〈LUCfest 2020〉も無事開催された。

海外からの参加が困難となったため、出演アーティストもオーディエンスもほとんどが台湾人。〈LUCfest〉が設立時からコンセプトとして掲げている〈インターナショナル〉とは大きく乖離した、異例の事態だった。にもかかわらず昨年はこれまでで最大の動員数を記録したようだ。

改めてこのユニークなフェスのコンセプトやコロナ禍での開催、今後の展開を知るべく、WWRのオーナーであり、〈LUCfest〉の創設者でもある葉宛青(KK)にオンラインでインタビューを行った。