関俊行が、台湾のさまざまな音楽カルチャーを紹介する連載〈台湾洋行〉。現在、コロナ禍における台湾音楽シーンの様相を全3回にわたって解説しています。台湾政府の対応などを紹介した第1回、ミュージシャンの〈音楽だけで生きないライフスタイル〉を考察した第2回に続き、最終回となる今回は音楽レーベルによる国際的かつ柔軟な展開に着目。いまの台湾の音楽家が日本をどう見ているかについても綴りました。 *Mikiki編集部

★連載〈台湾洋行〉の記事一覧

 


グローバルな交流を進める台湾の音楽レーベル

台湾では音楽レーベルも逞しくサヴァイヴしている。そのなかでもWWWWWtapes 烏太波寺はとりわけ興味深い活動をしている。代表のJohn Huangとは去年、台北で彼らが主宰しているライブで知り合ったので、僕はてっきりイベントのオーガナイザーかと思っていたのだが、実情は全く異なるようだ。彼に〈どんなことをしている会社なの?〉と尋ねたところ、〈とても新しいコンセプトの会社なので一言で言い表すのは難しいが、強いて言うのなら「solution agency」(課題解決代理店)かな〉と答えてくれた。このコンセプトは漫画「銀魂」の万屋から着想を得ているようで、プロモーションやツアー・マネージメント、マーケティング、コピーライティングなど幅広く業務を請け負う彼らにはぴったりの肩書きなのかもしれない。

いま、力を入れているのが東南アジアで、インディーズの音楽やカルチャーを掘り下げているのだという。特にタイとは繋がりが深いようで、Johnも(コロナ禍になる)前は仕事で足繁く通っていたそうだ。タイのアーティストの作品を台湾で販売したり、台湾のミュージシャンをタイでライブさせたり(去年は台湾の人気ミュージシャン、88 Balazをタイの音楽フェス〈Bangkok Music City〉に連れて行ったそうだ)など両国の文化交流にも積極的に関わっていた。

88 Balazの2016年の楽曲“追太陽的人”

 

売るのは音楽だけじゃない――コロナをものともしない柔軟性

コロナ禍で海外への渡航が困難となり、彼らの事業もその影響は不可避なはずだが、Johnは〈コロナはあらゆる物事について考え直し、捉え直す機会だ〉と前向きだし、〈ポスト・コロナ時代への準備もできている〉とも語っていた。それは彼らが元々、柔軟性の高い経営方針をとってきたからであり、〈どんな状況にも対応できる〉という自信の表れでもある。

台湾はこれまで海外アーティストの公演も多かったようだが、それもしばらくの間は期待できないとなると、国内のリソースで何が仕掛けられるのか考えているという。その他にもコンビニ専門のラジオで台湾のインディーズのアーティストの音楽をかけるプロジェクトも運営しており、こういった業務は影響を受けていないはずだ。そもそもJohnは音楽に特化したWWWWWtapes 烏太波寺の他にも、トラベルを専門とするマーケティング・チームも抱えているようで、そちらはそちらで今は地元の農家が卵やハチミツ、茶などを売る手伝いをしているという。

ちょっと視点を変えれば、商機はどこにでも眠っている、とでも言わんばかりのしなやかな対応力には感銘を受けた。一見、楽天的なようでいて、その実、ビジネスにはとことんリアリストなのは台湾人らしさだと思う。海邊的卡夫卡 Kafka by the Seaだけでなく、台南でバーLOLAも経営するアーカイも自身が持つこういった〈場〉をどう有効活用していくか考えをめぐらしているようだった。

WWWWWtapes 烏太波寺のJohn Huang(右)とその同僚、Zooey Hsieh(左)

 

台湾のライブハウスはどうなっている?

ここまで書いてきたように、台湾の音楽業界は、平静さを取り戻している。その背景には、まず台湾政府の徹底した防疫対策がある。「台湾政府の対応はベストではない。けれどベストは尽くした」とJohnも言っていた。先日、集会への人数制限もが撤廃されたようで、今後はライブやフェスの再開だって期待できるだろう。

大打撃を受けているはずのライブハウスも、そのいくつかは元から副収入や企業のスポンサリングを確保しているおかげで、大きな難を逃れているという。それでも、イベントのオーガナイザーやライブハウスのオーナーなどは居所的に大きな打撃を受けており、業界全体の傾向はマイナスであることに変わりはないのだろうが、台湾政府は文化芸術分野への緊急支援策を打ち出し、多くのアーティストに対して最低限の生活が維持できるほどの額の補助金が給付された。現在では既に第2回目の給付への申請が可能になっているという。

 

台湾から日本への眼差し

こう書くと〈台湾はなんて素晴らしい国なんだ!〉と思えてくる人もいるだろうし、実際素晴らしいと思うのだが、台湾人からしてみるとニッチなジャンルすらも支えるほどに成熟している日本のマーケットや、新型コロナウイルス感染拡大防止のため営業停止を行う文化施設に助成金交付を求める活動〈Save Our Space〉のような運動が民間レヴェルで発起され、多くの著名アーティストが賛同し、ジャンルや世代を超えた大きなうねりへと瞬く間に発展していった様には心が動かされたようだ。

コロナ禍に翻弄される日本を端から見ていて、台湾人も思うところはいろいろあるかと思うのだが、それでも、僕の知り合いたちはみな、日本の状況が良くなるのを心から願ってくれているし、「早く日本でライブを観たり、レコード屋に行ったりしたい」という声が多く聞かれた。

日本の音楽業界を気にかけているInfongも、日本全国のライブハウスを支援すべく立ち上がった〈MUSIC UNITES AGAINST COVID-19〉への参加を表明していたし、今年の〈フジロック〉への出演も決定していた人気マス・ロック・バンド、Elephant Gymとその所属レーベルWORDS Recordingsは日本の音楽業界を支援するプロジェクトを展開している。

事実として、台湾の音楽愛好家には日本好きが多い。このような動きを目の当たりにすると、もはや日本の音楽業界は日本人だけのものではないのかもしれない、とも思えてくるし、その気持ちに応えられるように、僕たちもこの国の文化芸術を守るべく、不断の努力を心がけていきたい。

台北のライブハウス、THE WALLで5月15日に開催された自主企画イベント〈扶土成牆〉の様子。もともと4月に予定されていたものの、コロナで中止となっていた。〈人数制限・実名入場検疫規制有り〉での開催。THE WALLとしては44日ぶりのイベントとなった

 


取材協力
陳瑞凱/陳延碩/林奕碩(百合花)/John Huang(WWWWWtapes)/Zooey Hsieh(WWWWWtapes)/林于農(仙樂隊 SEN)/Yu-Ping Lin(仙樂隊 SEN)/劉棕予/Janna/Spykee 

 


PROFILE: 関 俊行
ミュージシャン/プロデューサー/ライター。MIDI Creativeにて自身のアルバムをこれまでに2枚リリースする。近年は、「ミュージック・マガジン」2020年4月号の特集〈台湾音楽の30年〉への寄稿や、Taiwan Beatsへの参画など台湾の音楽を積極的に発信している。