★連載〈台湾洋行/台南洋行〉記事一覧

ミュージシャンの世木トシユキ/Gongdoraこと関俊行が、台湾南部の都市・台南の音楽シーンを紹介してきた連載〈台南洋行〉。スタートから1年が過ぎ、この度〈台湾洋行〉としてリニューアルします。文字通り、台南から台湾全体に焦点を拡大し、かの地のさまざまな音楽カルチャーをピックアップ。今回はコロナ禍における台湾音楽シーンの様相を解説してくれました。全3回にわたってお届けします。まずは台湾政府の対応と、すでに日常を取り戻しつつあるミュージシャンの動きについて。 *Mikiki編集部

 


〈台湾洋行〉への改名にあたって

これまで〈台南洋行〉という連載名で、台湾南部の都市、台南に的を絞ってその音楽やカルチャーを発信してきたが、本記事より、〈台湾洋行〉に変えたいと思う。今年からより一層、アクティヴに台湾カルチャーを発信していきたいと考えているのだが、そうなると、台北はもちろん、他のエリアもカヴァーせざるを得ないからだ。
もっと知られるべき音楽や、興味深い物語が台湾の至る所にある。そして、台湾は僕の音楽との向き合い方まで変えてしまった。僕のなかで台湾の存在がみるみる大きくなり、辻褄を合わせたいという気持ちもある。その辺りについてはnoteに詳しく書いたので、ご一読いただければ幸いだ。

 

台湾政府の見事なコロナ対応

コロナ禍で世界各国が未曾有の混乱に陥っているなか、台湾は4月末に早くも新規感染者ゼロを達成し、その健闘ぶりがニュースを賑わした。それは徹底的かつ迅速な水際対策や、デジタル技術の導入(デジタル大臣、オードリー・タン氏の活躍ぶりは日本でも盛んに報道された)など、台湾政府の優れた危機管理能力と先進性を実証する結果となり、台湾の国際的な存在感も高まっている。蔡英文総統の支持率も急上昇したという。

中国での感染拡大を察知し、WHOに警鐘を鳴らしたのが昨年末。年が明け、今度は中央感染症指揮センターの設置、国内医療用マスクの政府による買い取り、各種入境制限、小中高校・大学の始業式の延期など次々と対策を打ち出し実行に移していった(フォーカス台湾、2020年4月28日)。台湾は2003年に起こったSARSで辛酸を舐めているし、その教訓を生かしているのは確かだ。台湾政府の言動すべてから〈国民の健康をなんとしてでも守り抜く〉という強い決意と覚悟が感じられたし、目的がとてもシンプルだったのではないかとも思った。ドカンと圧倒的最優先事項を掲げれば、意思決定のスピードだっておのずと上がる。

加えて、内閣の構成員も専門性と能力重視で選定されている(話題の 〈鉄人大臣〉 陳時中氏は歯科医免許を取得している)ので、個の力によるところも大きいのかもしれないが、台湾を見ていて感じるのは〈仕組み〉の大切さだ。最適な人材配置、目的の明確化、透明性の高い情報開示、デジタル技術の導入、そこに忖度のない実行力が加わり、大きな成果につながったのではないかと思う。僕は専門家ではないので、実情はより複雑なのかもしれない。それでも、今回のコロナ禍は世界のありとあらゆる国・地域に等しく降りかかって来たし、各国政府の対応力やスタンスが浮き彫りとなったので、これを機に(自国も含めて)その成果を比較し、今後の身の振り方を考えるうえでのヒントにしていくべきだと思った。

中国湖北省武漢からチャーター機で帰国した台湾人のうち、1人の感染が確認され、涙を流す鉄人大臣。感染者数を数ではなく1人の人間として見ているからではないか。
 

世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が先月上旬、台湾から人種差別的な中傷を受けたと記者会見で発言したのに対して、蔡英文総統は強い抗議の意を表明し(フォーカス台湾、2020年5月11日)、〈台湾は長年国際社会から排除され、孤立する意味をよく知っている。台湾はいかなる差別にも反対する。台湾の持つ価値観は自由、民主、多様性、寛容である。テドロス事務局長を台湾へ招待したい。そうすれば我々の努力が分かるだろう〉と述べた(nippon.com、4月30日)が、これは文化芸術を決して蔑ろにしない現在の台湾の気風を理解する上でとても示唆的な発言だ。

このような台湾のマイノリティーやジェンダーへの意識の高さや、そこに至るまでの経緯、そしてそれらが今回の防疫対策でどのように活かされているのかについては、上でも参照元した下記の記事を是非とも読んでいただきたい。

栖来ひかり「新型コロナ問題で台湾が教えてくれたこと―マイノリティーへの向き合い方でその国が真の「先進国」かどうかが決まる」nippon.com

 

いち早く戻りつつある日常

このような台湾政府の〈神対応〉のおかげで、台湾はすでに日常を取り戻しつつある。これは報道のみならず、台湾の音楽関係者たちとやりとりしていてもリアルに感じることだ。こんなご時世なので、安否確認も兼ねて、互いに連絡を取り合っているのだが、開口一番で聞こえてくるのは〈I’m fine〉だ。そしてこれは健康状態のみならず、仕事や、食事など日々の営みすべてひっくるめてのことだ。

もちろん外出時のマスク着用や、ソーシャル・ディスタンスといった日本でのお馴染みの防疫対策はとられている。しかし、政府は緊急事態宣言や外出自粛要請には踏み切っていないし、4月の半ばに台湾の知人に連絡をとった際はすでに多くのビジネスマンが出社し、台北の街は賑わっていると聞いた。この世界的コロナ禍において、台湾はいち早く平静さを取り戻していた。

そして、台湾の音楽業界もライブハウスの閉鎖や、フェスの中止・延期といった打撃は受けながらも、いまできることに前向きに取り組み、息を吹き返していた。多少の制限はあっても、社会が崩壊するような事態には陥らず、台湾の知人たちは皆、家族や友人たちと思い思いの時間を過ごし、外へ食事に行ったり(夜市もやっているようだ)、時間があれば風光明媚な地方に足を伸ばしてみたり、アートを生み出すために必要最低限の人間らしい生活を送っている。

 

創作、発信に専念する台湾のアーティストたち

ミュージシャンの知人たちに連絡を入れると、その多くが創作に専念していた。良質なインディー・バンドを何組も送り出している黑市音樂(Black Market Music)のディレクター、葉小文(Kate)も「アーティストたちには作曲に専念するよう伝えている」と話していたし、ここのところは毎週、レーベルの所属アーティストによるオンライン・ライブも行っている。

黑市音樂に所属するポップ・ロック・バンド、東波 EastWaveによるオンライン・ライブの様子(5月21日配信)。レーベルの所属アーティストたちが週替わりで出演しているので、台湾インディー好きは是非ともチェックしてみてほしい。配信リンクはこちら
 

R&Bバンド、問題總部 It's Your Faultのヴォーカリスト、丁佳慧(Nanako)も、ここ数か月、新譜の制作を進めており、スタジオに入っていたという。昨年の金音創作獎で最優秀新人賞を含む二冠に輝いた百合花のリーダー、林奕碩(リン・イーシュオ)も同様に新作の制作準備に入っているという。「先週、作ったばかりなんだ」と、新しいミュージック・ビデオまで見せてくれた。

4月の下旬に制作された百合花のMV。昨年リリースしたデビュー・アルバム『燒金蕉』より。コロナ禍で世界の文化活動が停滞するなか、このようなユーモアの効いた作品を届けてくれるのはとても嬉しい
 

台湾インディー黎明期を代表するバンド、1976のフロントマンであり、現在は台北で人気のカフェ/ライブハウス、海邊的卡夫卡 Kafka by the Seaを経営する陳瑞凱(アーカイ)は現在、若手アーティストのプロデュースに取り組んでいるようで、契約したばかりというロック・バンドのレコーディングを行うつもりだという。「彼らの使っているギターがフェンダーのジャガーですごく90sを感じさせるんだ」と嬉しそうに語るアーカイからは前向きさが感じられた。さらには自身のスタジオやカフェを他のアーティストたちにも開放し、ライブ録音し、アーカイヴしたり作品化したりといったアイディアも温めているという。

いまこの原稿を書いている5月9日の時点で新規感染者はゼロ※であり、統計からも台湾が日常を取り戻していることがわかる。政府が掲げる防疫対策を遵守しさえすれば、集まりも許可されているので、スタジオでのリハーサルやレコーディングなど、プロダクションに関わる部分は大きな制限を受けていない。台湾の音楽業界はこの利点をフルに生かし、いち早く作品の制作、発信に乗り出している。

※6月9日現在、海外渡航歴がない人の感染は51日連続で確認されていない(台湾フォーカス、2020年6月2日)
 

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