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現代的な音作りでポップやハウスに挑戦、驚きの変化を遂げた新作

ジェイク・バグにとって4年ぶり、5作目となるニュー・アルバム『Saturday Night, Sunday Morning』。レコード会社をソニーへと移籍して、心機一転。本人曰く〈セカンド・チャプター〉との位置付けだが、現在27歳。以前の彼を知らない人にとっては〈これがデビュー作だよ〉と言っても通るのではないかと思う。いい意味で予想を裏切り、これまでのヴィンテージ系とは異なる、現代的なプロダクションへと移行した。ポップ・ロックやギター・ロックはもちろんのこと、ハウス系のダンス・ミュージックにも挑戦する。ジェイクは言う。

「驚く人は多いだろうね。モダンなプロダクションに挑戦したかったんだ。でも僕らしさや、僕のDNAは変わってなくて、しっかり聴こえてくると思うんだ」。

現代的なプロダクションの制作にあたっては、いまをときめく名だたるプロデューサーたちが起用されている。

アルバムのオープニングを飾る“All I Need”を含む3曲を手掛けるのは、エド・シーランの“Shape Of You”(2017年)などのヒットでお馴染みのスティーヴ・マック。思わず踊り出したくなるダンサブルなロック・チューンは、「世界の現状を考えながらスタジオに入ったとき、アップ・ビートでフィール・グッドな曲を作りたいと感じていたからさ」と、ジェイクは語る。

『Saturday Night, Sunday Morning』収録曲“All I Need”
 

“Kiss Like The Sun”などには、ジャスティン・ビーバーやマイリー・サイラス、ファイヴ・セカンズ・オブ・サマーを手掛けるアンドリュー・ワットを起用。ギターをメインにしたブルージーなサウンドは、ノスタルジックにも成り得るが、現代的かつフレッシュに聴かせている。

『Saturday Night, Sunday Morning』収録曲“Kiss Like The Sun”
 

ピアノ・バラード“Downtown”を担当するのは、ルイス・キャパルディやセレステなどと共作するジェイミー・ハートマン。「いろんなパートやコード進行が変化していく曲だから、パズルのようだった。こんなふうに曲を作るのは初めてのことだった」とジェイク。

“Rabbit Hole”や“Lonely Hours”などのロック・チューンには、ジェイソン・ムラーズ、ベン・プラットなどを手掛けるアンドリュー・ウェルズが参戦。腕をふるっている。リード・ソングとして発表された“Rabbit Hole”では、ザラついたギター・リフに乗せてファルセットを披露。裏声による唱法は、新たに彼が夢中になっているビージーズに影響されたものだとか。驚きついでに付け加えておくと、アルバムはアバやビーチ・ボーイズからもメロディー面で影響を受けているそうだ。

『Saturday Night, Sunday Morning』収録曲“Rabbit Hole”
 

そんななか、いちばんのサプライズといえば、やはり前述したダンス・ナンバーではないだろうか。“Lost”と題されたこの曲も、スティーヴ・マックが共作/プロデュースを担当。エレクトロニックなハウス・ビートに乗せて、ジェイクが独特の歌い回しでドリーミーに酔わせてくれる。

『Saturday Night, Sunday Morning』収録曲“Lost”
 

彼は2019年にも、英国リヴァプール出身のDJ /プロデューサー・デュオのキャメルファットとコラボ。“Be Someone”というハウス・チューンを発表していたが(ノエル・ギャラガーも参加のキャメルファットのアルバム『Dark Matter』に収録)、そのときにもかなり驚かされたが、密かに新しい展開を目論んでいたってことだろう。クラブ・シーンを中心にヒットしたその曲への参加や動向を知っていた人には、それほど意外ではないかもしれないが、やはりこの“Lost”での斬新な変身ぶりには目を見張らずにいられない。

 

英国ルーツに立ち戻った27歳の新たな門出

一時期はアメリカに住みたいとも語っていた彼だが、現在はロンドンに在住。故郷ノッティンガムをはじめ、自身のルーツを大切したいという思いが高まっているようで、アルバム・タイトルに掲げられた『Saturday Night, Sunday Morning』も、アラン・シリトーの同名小説(1958年、邦題は「土曜の夜と日曜の朝」)から取られている。「長距離走者の孤独」などで知られるアランも、同郷ノッティンガムの出身。どちらも労働者階級の若者の声を代弁した作品という共通点を持つ。「土曜の夜みたいにエネルギッシュな曲もあれば、日曜の朝の二日酔いにピッタリなバラードもあるしね。相応しいタイトルじゃないかと思ったんだ」とジェイクは説明する。

彼の生き様が手に取るように窺えるソングライティングは、この新作においても同様だ。気取らない歌詞や、セレブ・ライフとは無縁なテーマを取り上げ、ロックスターになっても労働者階級の日常を歌い上げる。彼の変わらぬ視点や立ち位置というのが見えてくる。唯一変化があったとすれば、人々を励ますかのような楽曲が増えていることだろう。コロナ禍で苦しむ人々に希望を与えたいという思いも透けて見えるし、純粋に彼の成長の痕と言えるだろうか。

地元のサッカー・チーム、ノッツ・カウンティFCの大ファンで、スポンサーを務める彼は、そのサッカー好きが高じてか、元ブラジル代表のロナウジーニョのドキュメンタリー映画「Ronaldinho: The Happiest Man In The World」(2020年)のスコアを担当。ヴァンゲリスやジャン・ミッシェル・ジャールの大ファンという彼が、シンセによる映画音楽を提供している。そちらのあまり知られぬ彼の一面も気になるところだが、このニュー・アルバム『Saturday Night, Sunday Morning』にもチャレンジ精神が溢れている。27歳の新たな門出。ルーツに立ち返った若きロック・スターがここにいる。

 


RELEASE INFORMATION

JAKE BUGG 『Saturday Night, Sunday Morning』 RCA(2021)

リリース日:2021年8月20日
配信リンク:https://SonyMusicJapan.lnk.to/JakeBugg_SNSMMK

TRACKLIST
1. All I Need
2. Kiss Like the Sun
3. About Last Night
4. Downtown
5. Rabbit Hole
6. Lost
7. Scene
8. Lonely Hours
9. Maybe It's Today
10. Screaming
11. Hold Tight