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ティーケイ・マイザ
Photo by Mathias Alexandrou

現在の4ADを象徴するティーケイ・マイザが歌うピクシーズ

――結果的には4ADレーベルのカタログを代表する曲も、幾つか含まれていますね。例えばソンがカヴァーしているディス・モータル・コイルの“Song To The Siren”は、そもそもティム・バックリィのカヴァー曲ですが、ディス・モータル・コイルは80年代当時の4ADのスーパー・グループであり、広く愛されています。

「“Song To The Siren”は、実は、僕が唯一カヴァーには向いていないと思った曲なんだ。その理由は、ディス・モータル・コイルのヴァージョンが触れてはならないくらい素晴らしいものだから。でも確かにあれ自体がカヴァーだし(笑)、僕の心配をよそにソンが挑戦してくれて、本当に良かった。

『Bills & Aches & Blues』収録曲ソン“Song To The Siren”。ディス・モータル・コイルのカヴァー

ディス・モータル・コイルの84年作『It’ll End In Tears』収録曲“Song To The Siren”。ティム・バックリィのカヴァー

ほかにも、有名な曲のカヴァーにはいい意味で驚かされたんだ。チューン・ヤーズがカヴァーしたブリーダーズの“Cannonball”や、ティーケイ・マイザ(Tkay Maidza)によるピクシーズの“Where Is My Mind?”のカヴァーも素晴らしかったよ」 

『Bills & Aches & Blues』収録曲チューン・ヤーズ“Cannonball”。ブリーダーズのカヴァー

ブリーダーズの93年作『Last Splash』収録曲“Cannonball”

――アルバムの冒頭を飾るのは、そのティーケイです。現在の4ADを象徴するような彼女は、どんな魅力を持ったアーティストであると考えていますか?

「彼女はまだ成長期にいると思う。今まさに自分の強みを探求しているところで、色々なスタイルをすぐに吸収出来る人だから、どんなアーティストに成長していくかすごく楽しみだよ。

“Where Is My Mind?”をカヴァーしたけど、実はティーケイはピクシーズの存在を知らなかった。彼女はあの曲をランダムに選び、素晴らしいヴァージョンを作り上げたことで、特別な領域に可能性を広げることができると証明したんだ。それがどの領域なのかは、僕たちにも本人にもまだ分からないけどね」

『Bills & Aches & Blues』収録曲ティーケイ・マイザ“Where Is My Mind?”。ピクシーズのカヴァー

ピクシーズの88年作『Surfer Rosa』収録曲“Where Is My Mind?”

――そもそも、ティーケイのどこが気に入って契約に至ったのですか?

「彼女が持つ国際性だね。アフリカ系でありながらオーストラリアの文化の中で育ち、そして幅広い音楽のセンスを持っている。オーストラリアで育ったことを活かしながら、アメリカやイギリスの音楽を始めとする世界各地の音楽に触れ、全てを吸収しているのがティーケイなんだ。だから僕は、彼女のことをある意味ハイブリッドだと思っている。

あと、ある国に住みながら他の音楽を吸収するというのはすごくいいことだとも思う。例えば、ティーケイはリアーナのようなアーティストが好きだけど、彼女がそれを表現しようとすると自分のフィルターを通して表現されて、何か新しいものに変化するんだ。

イギリスのヴァイブを捉えるのも上手い。でもティーケイがそれを表現すると、いい意味で完全にブリティッシュではないんだよ。彼女が持つあの国際性が、様々な文化や音楽に触れさせ、それを基にしながらも特別なものを生み出しているんだ。すごく流動的なアーティストだと思う」

※ティーケイはジンバブウェ生まれで5歳の時にオーストラリアに移り住んだ