4ADは、80年にベガーズ・バンケットの姉妹レーベルとして創立され、40年以上にわたって時代を代表するアクトを輩出しながらインディ・シーンを牽引してきた、英ロンドンの名門だ。ゴス、ポスト・パンク、シューゲイズから出発し、現在はスタイルやジャンルに囚われない独自の音楽コミュニティになっている。そんな4ADの膨大なアーカイヴからレーベルとタワーレコードのスタッフが楽曲を厳選した合同企画のコンピレーションアルバム『Pleasures & Treasures』がリリースされた。タワーレコード渋谷店でポスターの展示販売が行われるなど話題になった本作について、レーベルの過去と現在をよく知る音楽評論家・大鷹俊一が綴った。 *Mikiki編集部

4ADとインディの時代
音楽の歴史において重要な出来事が次々と起こったのが70年代後半のパンク・ムーヴメントだが、その中でも最大の成果がインディ(インディペンデント・レーベル)の活躍/確立だ。いまではネットを中心にBandcampを始め、さまざまな形で作った音の発信は簡単だし、自室で作った音源が世界中でヒットなんて成功話も無数に散らばっているが、そんなことが夢にも考えられない時代、自分の音を少しでも多くの人に聞いてほしい、好きなバンドを知ってほしい、そんな思いを実現していったのがインディだった。
先頭に立ったのはイギリスの連中で、当然ながら資金もコネもないのが普通だったから最初は細々とした活動ながらラフ・トレード、ファクトリー、ベガーズ・バンケットといったレーベルが送り出すメジャー作品とは違った、個性的なアーティストたちは、同世代の熱烈な支持を広げていった。80年代前半の話だ。中でも、ダークなサウンドに包まれながら繊細な心の声を音化したコクトー・ツィンズのヒットで注目される存在となった4ADは、どんどんと存在感を強めていく。
ただし日本では殆どそういう状況やレーベルが知られることはなく、何とかしたいと僕がレコード会社に働きかけ、企画、編集したオムニバス・アルバムが『ネイチャー・モルテス・ライヴス~闇黒の舞踏会』(82年)で、海外でも話題となった。

聞き手の音楽観を静かに広げる〈美学の連鎖〉
そして今回新たに4ADとタワーレコード・スタッフとの合同企画で生まれたのが2枚組『Pleasures & Treasures』で、アルバム・タイトルはコクトー・ツィンズの傑作サード・アルバム『Treasures』(84年)にちなんでのもの。FKAツイッグス等も認めるサウス・ロンドンの注目株ルシンダ・チュアに始まり80年代から活躍するオーストラリア出身のデッド・カン・ダンスにつながるオープニングの流れが象徴的、かつ素晴らしい。
こうした〈美学の連鎖〉が現在も流れ続けているのが4ADならではで、アンビエントもゴスもシューゲイズも大きな括りの中で収められ、発信するアーティストと、音を求める人をつないでいく。10年代から4ADで活躍する米、アトランタ出身のディアハンターと新世代バンド、ドライ・クリーニングとがつながるところを聞くと、サウンドの表面だけじゃない受け継がれるものが、確実に感じられる。そんな思いがけないつながりや流れの発見が随所にあるのが『Pleasures & Treasures』の魅力で、それは自分の音楽観を静かに押し広げてくれるはずだ。
冒険心を持った理想的なインディ
僕もかつていろいろな形で4ADには驚かせてもらった。中でも印象深いのは80年代半ば、スローイング・ミュージズ、ピクシーズといった米、ボストンのグループが相次いで紹介されたことで、情報や音源が地上の距離感を簡単に無にする現在と違い、イギリスのインディがアメリカのバンドをピックアップなど、まず考えられなかったのだが、実際に聴いた彼女、彼らの音は、ポスト・パンク/ニュー・ウェイヴのサウンド・パターンが出来つつあったイギリスのバンドに比べとても挑戦的であり、新鮮だった。形骸化したイメージにこだわることなくダイナミックに進む冒険心は、まさに理想的なインディにも思えたものだ。
それは今でも明確にこのレーベルの中に存在することは、ザ・ナショナルやドライ・クリーニング、ビッグ・シーフ、ホリー・ハーンダンといった現代のアーティストたちの聞き手には感じられるはずだ。またラッシュやブロンド・レッドヘッドなど、90~00年代に活躍した人たちを聴いていた人には前後の、通じ合う仲間たちの存在を改めて意識させるきっかけになるのかもしれないし、僕のように古くから聴いてきた人間にはレマ・レマやカラーボックス、ザ・ザ、そして初期4ADの名前を決定的に広げたプロジェクト、ディス・モータル・コイルのような、魅力的、しかし今では忘れられた存在に耳を傾けられるチャンスがこうして生まれるのは何より嬉しい。ぜひ、時代、世代を超える美学を浴びてほしい。
RELEASE INFORMATION


リリース日:2022年6月24日
品番:4AD0487CDJP
フォーマット:国内盤2CD
価格:2,860円(税込)
解説付/タワーレコード限定商品/完全生産限定盤
TRACKLIST
DISC 1
1. Lucinda Chua - Another Day
2. Dead Can Dance - Windfall
3. Grimes - Know The Way
4. Pieter Nooten & Michael Brooke - Searching
5. Cocteau Twins & Harold Budd - She Will Destroy You
6. Clan Of Xymox - Masquerade
7. Deerhunter - Helicopter
8. Dry Cleaning - Leafy (NPR Tiny Desk Version)
9. Colourbox - Tarantula 7” Version 2
10. This Mortal Coil - Loose Joints
11. Erika De Casier - Acceptance - Intermezzo
DSIC 2
1. Holly Herndon - Fear, Uncertainty, Doubt
2. Lush - Sweetness And Light
3. Pixies - Waves Of Mutilation - Peel Session
4. Big Thief - Forgotten Eyes - Live At The Bunker Studio
5. Ultra Vivid Scene - Special One
6. The National - The System Only Dreams In Total Darkness
7. Sort Sol - Marble Station
8. Blonde Redhead - Not Getting There
9. Rema-Rema - Fond Affections - Remastered
10. Throwing Muses - Fish
11. The Wolfgang Press - Respect
12. The The - Another Boy Drowning



