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僕たちのアルバムは〈ずっとピーク・タイム〉

――それでは、アルバムのお話に移りましょう。先ほどMELTENさんが〈アルバムを作ろうと思って作った感じではない〉とおっしゃいましたが、今回はコンセプトのようなものを設けず制作を進めていった感じなんですか?

TSUUJII「そうですね。前作の『debut』を出してからの3年間で、メンバーの紆余曲折があったりしながらもずっと止まらず動き続けていく中で、曲がどんどん自然に出来ていった。必要に迫られることもなく、作りたいから作っていたものが溜まってきたからパッケージしたという感じです」

YUKI「そろそろまとめるか、みたいな感じやね」

TSUUJII「でも実は僕はその作り方がいちばん好きなタイプで。アルバムには〈コンセプトを決めて作る〉とかいろんな作り方があると思うけど、僕的にはこういう風にセッションしていくうちに自然な形でアルバムが出来たというのは、気持ちいい流れやなって思います」

MELTEN「すごく分かる。他での活動においては無理矢理に絞り出して……みたいな経験もあるんですけど、POLYPLUSでは出してから悔いが残ったことがないですね。そもそも事前にライブで温めていたものを出すという感じですし。それはバンドとして理想的な出し方だよね」

YUKI「その証拠にと言うたら変やけど、バンドの曲って後々、大胆に作り替えてしまったりすることがあると思うんです。でも僕たちはセッション的にフレージングや尺が変わったりすることがあったとしても、基本的にアレンジを大きく変えることがないんです。〈やりたいことを詰めこんじゃえ〉という気持ちでやっているから、制作時間が短い中でやってるわりに心残りが少ないかもね」

――毎回、最善なものが出来上がっている。

YUKI「コンセプトに基づいてジャケットやアー写、曲の並び、曲のタイトル、とすべてが緻密に設計されるアルバムは、めちゃくちゃ好きだし、素晴らしいと思うんですけど、そういうものの中にはピーク・タイムやアイドル・タイムが出てくるわけで。でも僕たちはそういうことを考えずに曲を作っていくから〈ずっとピーク・タイム〉みたいな感じなんです」

 

攻めの姿勢から生まれた野心的すぎるコラボ曲

――今回は、バンド初のヴォイス・フィーチャー曲も収録されていますが、これがまた野心的な挑戦だと感じましたし、聴きどころのひとつだと思います。ミュージシャンではなく、芸人のせやろがいおじさんを招いた経緯について教えていただけますか。

『move』収録曲“update(feat. せやろがいおじさん)”
 

YUKI「これは問題作よな。もちろんいい意味で(笑)」

TSUUJII「あはは。これは僕が提案したんですけど、そもそも僕たちに流れている信念みたいなものに、〈攻めの姿勢であり続けたい〉ということがあって。メインのバンドも他の音楽の仕事もバリバリやっているメンバーなので、言い方は変なんですけど、POLYPLUSは大事なバンドではありながらも極論どうなってもいいと思える、だからこそ思い切り攻めた活動をできる場所なんですよね。

なので今回も〈攻めの姿勢〉が最初にあって、ヴォイス・フィーチャーをするにしてもいわゆるヴォーカリストやラッパーではない人がいいなと思っていたんです。そう思った時に僕の頭をよぎったのがあの〈赤ふんどし〉の男でした(※じつはTSUUJIIの中学高校の同級生)。そして早速本人に連絡をしたら、〈挑戦させてほしい〉って言ってくれました。彼はもともとPOLYPLUSを聴いてくれていて、YUKIさんが原案を作った“m‘n’dass”という曲が特に好きだったみたいなので、作曲はYUKIさんにお願いしました」

――YUKIさんが作られたということですが、初のヴォイス・フィーチャー曲の制作はいかがでしたか?

YUKI「曲自体はTSUUJIIを含め、メンバーと〈こういう風にしようか〉というやりとりをした後、わりとすぐ作ったんです。ただ尺のことや曲のスピード感に関しては、せやろがいおじさんのYouTubeをチェックして、〈ここならこのスピード感で収まるな〉とか、〈言葉数はこのくらいやな〉というリサーチをしましたね。歌のような節回しではないから、そこは手探りなところがあって」

TSUUJII「最初に聴かせてもらったデモは彼のYouTubeからいろんな声のパートを抜き出して、それを音源に当てているものだったんですけど、それがめちゃくちゃカッコよくて! もちろん内容はチグハグだったけど、それを聴いた時点でこの曲はイケるって思ったんですよ」

Gotti「僕もデモを聴いたとき、ものすごいパワーを感じたんですよね。デモの段階でこんな感情になることは今までに経験がなくて、せやろがいおじさんのテンションがこれに乗ったらすごいことになるやろなって思いました」

TSUUJII「分かる! 僕は楽屋で聴かせてもらって、すごくテンション上がった」

YUKI「ブレイクとかも(せやろがいおじさんの決めフレーズである)〈どない思う?〉とかのフレーズが入ることを想定して、元々作っておいたのがいくつかあって。レコーディングのとき本人がそこにボコッと完璧に入れてくれはったから、〈それそれ!〉みたいな感じではありました」

――もう1曲のコラボも、会社とのコラボでとても挑戦的な楽曲だと思います。

『move』収録曲“silhouette(feat. yucca)”
 

TSUUJII「僕が前々から、会社とのコラボをしてみたかったんです。今って会社やバンドを周知させるためには宣伝広告を流したりするのが一般的ですけど、それとは違って、しっかり一緒にモノづくりをして、それが結果、双方で広がるみたいな形が何かないかなと思っていて。そんな中で映像制作やクリエイティヴなことをしている〈株式会社yucca〉と出会って、ここと何かやれたら面白そうやなと思ったんです。

会社をフィーチャリングするのって、社歌みたいなものを作る感じじゃないですか。だから仮にその曲がiTunesで1位を獲れば誇らしいこととして会社側で話題にしてくれるやろうし、POLYPLUS側でも“silhouette(feat. yucca)”というタイトルを見たリスナーが〈yuccaって何だろう〉と気になって調べることで、会社の周知に繋がると思ったんです。それで僕たちが音を作って、yuccaが映像制作をするということを前提にやりとりを始めて、5つくらいのキーワードをもらって無の状態からセッションして曲を作りました」

――ちなみに、そのキーワードとは?

TSUUJII「えーとね、〈女子高生〉と……なんか女子高生のイメージが強く残ってるんですよね(笑)。あとは〈ダンス〉と……探せば出てくるんですけど」

YUKI「女子高生だけしか出なかったら、記事にならんで(笑)」

TSUUJII「ありました! テーマが〈ラスト・ダンス〉と〈孤独からの解放〉。シチュエーションが〈淡い夕焼けor朝焼け〉。その主人公が〈女子高生〉ですね」

MELTEN「多分ミュージック・ビデオの演出的なものを事前に教えてもらった感じだよね」

YUKI「そうやね。最初はどうしよう……って感じやったね」

MELTEN「2時間半くらいスタジオを押さえて制作をしていたけど、今日は無理かなと思ったんです。でも残り1時間を切ったときに急にパズルが組み合わさっていくみたいに出来た感じですね」

 

オール4番アルバムの聴きどころ

――今作にはコラボ曲の他にも、ヴァラエティーに富んだ楽曲が多く収録されていますね。

MELTEN「“quarter”と“rain”と“home”に関しては、前任のドラムスだったYOSHIAKIがいた頃の曲なんですけど、“quarter”はライブのリハの時間が余ったから曲を作ろうと、いつものノリで作った曲で。今までメジャー・キーでテンポ感がよくてという曲がそんなになかったから、そういう意味ではライブの起爆剤になるだろうし、いい感じに気持ちをニュートラルにしてくれる曲だと思いますね。ギター・ソロからサックス・ソロに入っていくところがあるんですけど、展開とかコード進行を変えずそのままの流れで行くみたいなところが、いい意味でこだわっていないようなセッション的な感じで、気に入っています」

『move』収録曲“quarter”
 

TSUUJII「“legal”は僕が原案を持っていったんですけど、ライブをイメージして、サビ的なところでわかりやすくみんなが手をあげて跳んでいるのをイメージして作ったんです。メンバーで音を出して、実際ライブでやってということを繰り返してレコーディングしたんですけど、すごい仕上がりになったと思っていて。曲を聴いて合法的にテンションを上げていただけたらなって思いますね」

『move』収録曲“legal”
 

Gotti「“legal”に関しては僕もちょっとありまして、もちろんサビで盛り上がるところもすごくいいんですけど、Aメロ部分、特に2番のAメロのドラムとベースのグルーヴ感がすごくカッコよくて、そういうサビ以外の部分でも上がるポイントがあるというのは聴きどころかなと思っています」

――Gottiさんが作曲された“starry”は、爽やかなメロディーがこのアルバムのギミックになっている印象です。

『move』収録曲“starry”
 

Gotti「イントロからこのアルバムで異色な雰囲気が出てまして、かなり爽やかな感じの曲調なので頭から〈おっ!〉って思っていただけるかと」

TSUUJII「一生流しておける感じがありますよね! 僕も完成してからずっと聴いてたもん。他の曲はエネルギーがすごいから、自分的には〈テンションを上げたいな〉というシチュエーションで聴く音楽だと思ってるけど。“starry”はPOLYPLUSの新しい一面が出せたと思う」

Gotti「そうやね。“starry”は星空という意味で。朝や昼は太陽で見えないですけど、星は常に輝いているということで……聴いてもらえたらなと思っているんですけどね」

TSUUJII「なんか頑張って上手く言おうとした感がすごい(笑)」

――アルバム全体には、どんな印象を持たれていますか?

TSUUJII「1曲1曲が独り立ちしていったアルバムなので、オール4番という印象ですかね。個人的には綺麗な曲順やと思うけど、サブスクでバラバラに聴かれても、全然いいというか」

MELTEN「僕もいい流れの面白いアルバムが出来たと思っていますし、それこそTSUUJIIが言ったようにサブスクで好きな曲だけ取り上げてそれだけ聴いてもらうという楽しみ方も全然OKだと思う。前作からアップデートされた作品だと思うし、コロナやバンドとしての紆余曲折がある中で完成したアルバムだから、バックグラウンドを含めて聴いていただけると面白いと思います」