CalmeraのTSUUJII(サックス)、JABBERLOOP/fox capture planのMELTEN(キーボード)、同じくJABBERLOOPのYUKI(ベース)、そしてNeighbors ComplainのGotti(ギター)の4人からなるPOLYPLUSが2021年9月1日に2枚目のフル・アルバム『move』をリリースした。

前作『debut』から3年ぶりとなる今作は、バンド初のヴォイス・フィーチャー曲である“update(feat. せやろがいおじさん)”、〈株式会社yucca〉をフィーチャーした“silhouette(feat. yucca)”など2曲のコラボ楽曲のほか、ヴァラエティーに富んだ全9曲が収録されている。

常識や通例に捉われず、常に縦横無尽なサウンドを体現し続けているPOLYPLUSの4人は今、何を語るのか。今回は彼らの音楽ルーツやバンドの変化、そして『move』についてたっぷりと話を訊いた。

 

POLYPLUSを形成する多様な音楽

――Mikikiのオリジナル記事に初登場ということで、まずは皆さんの音楽ルーツについてお訊きしたいと思います。

YUKI「僕は実はメタル少年だったんです。音楽を好きになったスタートは、完全にメタルやラウド・ロックでしたね。代表的なバンドだと、メタリカやメガデス、パンテラが好きで聴いてました。あとは少しマニアックなデス・メタルのバンドも聴いたりしてたかな。だから、今回僕が作曲した“update(feat. せやろがいおじさん)”はそういう音楽の影響も少しあって。POLYPLUSって最初はダンサブルな曲だったり、いわゆるファンク寄り、ジャム寄りの曲が多かったんですけど、徐々にメタル的なエッセンスを入れていっても面白いかなと最近は思ったりしてますね」

メタリカの86年作『Master Of Puppets』収録曲“Master Of Puppets”
 

MELTEN「僕は無数にあるんですけど、POLYPLUSをやる上では90年代後半から2000年代にかけて流行した、クラブ・ジャズやジャズ・ファンクから大いに影響を受けていると思います。例えば、サックス奏者のケニー・ギャレットとか。あとは現行の日本の音楽から影響されることも多くて、それこそサポート・ドラムでthe telephonesの松本誠治くんに声をかけているのも、POLYPLUSには四つ打ちが肝の曲があるからですし。今回のアルバムでいえば、“rain”はレゲエやダブっぽかったりするけど、それは10年以上前の〈nbsa+×÷〉というイベントで犬式などのアーティストを観ていたという原体験が少なからず影響していると思います」

犬式の2009年作『犬式紀 2002-2008』収録曲“手芽口土(てめくちつち)”
 

TSUUJII「今の話の流れからいうと、僕は大学時代、音楽を聴いて〈これになりたい〉と思ったのがSOIL&“PIMP”SESSIONSだったんです。そこから派生して、下の世代のJABBERLOOPとかを聴き始めた感じですね。SOIL&“PIMP”SESSIONSやPE'Zとか、その世代への憧れはすごくありました。音楽に対してはもちろん、活動の仕方に対しても。僕はクラブ・ジャズ全盛期をリアルタイムでは感じられていなくて、この世界に入りたいと思った頃には風営法が厳しくなっていたりして、イベントが萎んじゃっていた感じだったので。だからこそ、自分でそういう盛り上がるイベントをやってみたいという気持ちが根底にありますね」

SOIL&“PIMP”SESSIONSの2009年作『6』収録曲“POP KORN”
 

Gotti「自分は最初、B’zが大好きでした。あとはハード・ロックがめっちゃ好きだったんです。だから当然メタリカも聴いていたし、特に好きだったのはガンズ・アンド・ローゼズかな。その後エクストリームというバンドを好きになったことをきっかけに、自分は8ビートよりも16ビートが好きでファンキーな要素があるビートが好きだと気づいたんですよね。そこからいろいろと調べる中で、スムース・ジャズにたどり着いて、ジョージ・ベンソンというギタリストを好きになっていくんです。今回、“starry”という曲を作曲しましたけど、この曲はジョージ・ベンソンの“Breezin’”の影響を受けているなと思いますね。“Breezin’”の爽やかさにダンサブルさを足した感じです」

ジョージ・ベンソンの76年作『Breezin’』収録曲“Breezin’”

 

3年間で変わったこと、ブレずにいたこと

――今回のアルバムは3年ぶりのリリースとなりますが、この3年間でバンドとしての在り方に変化のようなものはありましたか?

TSUUJII「いちばん大きいのは、メンバーがひとり去り、ひとり帰ってきたということですかね。オリジナル・メンバーだった175RのYOSHIAKIさんがやむを得ず脱退して、しばらく3人体制が続いていて。その後2/5がサポート・メンバーだった時期が長く続いたんですが、この度晴れてギターのGottiが帰ってきてくれました」

――Gottiさんは戻ってきての心境はいかがですか?

Gotti「まさに僕が3年前に脱退して、1年前に帰ってきた感じなんです。だからメンバーにものすごく迷惑をかけたなと思いますし、複雑な思いもあります。ただ、辞めるときも帰ってくるときも、温かく見送ってくれ、迎えてくれたメンバーに感謝していますね。3年前と現在を比べるとバンドの芯の部分は全く一緒なんですけど、また違った新しいものがすごく見えていて。メンバーのみんなが違うステップに行っていたからということもあるでしょうし、僕も違うところで何かをやっていたから、今回新しいものが生まれたのかなと思います」

YUKI「Gottiが言ったみたいに、音楽性みたいなものはこの3年で何も変わっていないんですよね。作っている楽曲は違ったりはするんですけど、目的は一緒みたいなところがあって。根本的にライブでセッションをして騒ぎたいということがバンドを作った動機だし、そこは変わってない」

MELTEN「音楽性に関して言うと、ライブをやって手応えを掴む中で、〈こういう曲が欲しい〉〈こういう曲調もあるよね〉とメンバー全員でアップデートする期間になったなと思います。『move』はファースト・アルバム(2018年作『debut』)よりさらに踏み込んでいろいろと表現したアルバムだけど、アルバムを作ろうと思って作った感じじゃない。そもそもライブの当日に曲を作ろうとするみたいな無茶なことをやるバンドなので、そういう中で曲が集まった結果すごく面白いアルバムが出来たと思います。……すみません、前のめりにアルバムのこと話しちゃいました(笑)」

YUKI「絶対、後で訊かれることやで、それ(笑)」

――(笑)。アルバムの話の前に、TSUUJIIさんにお訊きしたいことがあります。過去のインタビューで〈自分自身でライバルを作って盛り上げる〉と発言されていたのが印象的で、現在のライバルについてもお訊きしたいと思っていて。

TSUUJII「あっ、〈Playwrightからのリリースなので、レーベルの筆頭であるfox capture planをライバルにして頑張りたい〉みたいなことを言ってたやつですよね?」

――そうです、そうです。

TSUUJII「あの時のは単純にCDのセールスやライブの動員とか数字のことを意識した発言やったんですけど、今は外にライバルを作るとか目標を作って活動する感じではなくなっていますね。バンドとして独自の進化を遂げられているのがいいなと思っていて。昨年12月にやったZepp Tokyoでのワンマン・ライブで個人的にはひとつ抜けたというか、原点に帰れた気がしたんです。このメンバーで集まってお酒を飲んで好きな音を出して、それを〈面白い〉〈好きだ〉と言ってくれる人がファンでいてくれる。10万人規模とかじゃないかもしれないけど、それで十分バンドの活動として楽しくやれる体制が出来上がっているというか、面白い形として機能していると思ったんですよ。足るを知る精神というか、それってめちゃくちゃ幸せな状態やんって」

2020年に行われたZepp Tokyoでのライブ映像。曲は『move』収録曲“legal”
 

――いろんな活動を経て、マインドが変わった。

TSUUJII「そうですね。もちろんいっぱい売りたいですけどね(笑)。だからそこに対する努力もしようと思ってますけど、根底の部分は変わったかもしれないですね」