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Jeremy Ivey feat. Margo Price “All Kinds Of Blue”


天野「4曲目はジェレミー・アイヴィーがマーゴ・プライスをフィーチャーした“All Kinds Of Blue”。ジェレミー・アイヴィーはナッシュヴィルのギタリスト/シンガー・ソングライターで、名門アンタイ所属。いまどき〈遅咲き〉なんて形容は時代遅れで差別的な表現かもしれませんが、彼は2019年、40歳でソロ・デビュー・アルバム『The Dream And The Dreamer』をリリースしているんです。そして去年、セカンド・アルバム『Waiting Out The Storm』を発表しました。いずれもマーゴ・プライスがプロデュースしています」

田中「カントリー・シンガーのマーゴは、ジェレミーの奥さんなんですよね。2人は元々、シークレット・ハンドシェイク(Secret Handshake)、バッファロー・クローヴァー(Buffalo Clover)というバンドで活動していて、そこからマーゴのバック・バンド、プライスタグズ(The Pricetags)に発展していきます。そしてジェレミーは現在、エクストラテレストリアルズ(The Extraterrestrials)というバンドを率いています」

天野「古くからの音楽仲間であり夫婦の共演曲である“All Kinds Of Blue”は、めちゃくちゃストレートなサザン・ロック/フォーク・ロックで清々しいですよね。2人の歌のハーモニーも気持ちいい。ジェレミーが〈愛を伝える歌〉と言っているように、彼の思いと2人の関係性も伝わってきます。ちなみに、この曲のジャケットではジェレミーの右眼の周りに青あざが出来ていて、これはバスケット・ボールの試合で出来たものなんだとか。〈Blue〉にもかかっているし、微笑ましいですね(笑)」

 

Zeal & Ardor “Bow”

天野「ジール&アーダーの新曲“Bow”。これはめちゃくちゃかっこいい曲!」

田中「ジール&アーダーはNYで活動するマニュエル・ギャノー(Manuel Gagneux)によるソロ・プロジェクトで、メタルの世界でもかなりの異端として知られているそうですね。ギャノーは父親がスイス人で母親がアフリカ系アメリカ人のスイス生まれなのですが、ジール&アーダーの音楽性はそのルーツを活かして黒人霊歌、いわゆるスピリチュアルとブラック・メタルを融合させたもの。セカンド・アルバム『Devil Is Fine』(2017年)サード・アルバム『Stranger Fruit』(2018年)で注目を集め、いまに至っています」

天野「『Stranger Fruit』は傑作でしたね。アメリカでもヨーロッパでもメタルの世界は白人が圧倒的多数なので、こういうバンドはなかなかいないわけです。そのなかには、もちろんごく一部ですが、メタルのアーティストには白人至上主義を掲げる人種差別的な人も少なからずいて、ギャノーはアンチ・レイシストとしてのメッセージも常に打ち出しています。なので、すごく強烈な存在感を放っているんですね」

田中「バンドは昨年のEP『Wake Of The Nation』に続いて、セルフ・タイトル作『Zeal & Ardor』を2022年2月11日(金)にリリース。この“Bow”は、同作からの3曲目のシングルです。クィーンの“We Will Rock You”を思わせるプリミティヴなストンプから始まり、楽曲を盛り上げる霊歌的なコーラスが印象的。インダストリアルで分厚いノイズとユニゾンするギター&ベースがめちゃくちゃヘヴィーで、ギャノーのシャウトもかなりパワフルです

天野「これまでの2つのシングル“Run”“Erase”はもっとブラック・メタルっぽかったのですが、“Bow”はけっこう実験的。ナイン・インチ・ネイルズのファンにもおすすめしたい曲ですね!」

 

Matilda Mann “Stranger (for now)”

天野「今週最後の曲は、マチルダ・マンの“Stranger (for now)”。彼女は西ロンドンを拠点に活動しているシンガー・ソングライターで、UKフォークの注目新人です。先日はホリー・ハンバーストーンがロンドンで行ったライブにサポート・アクトとして出演していました」

田中「この曲は、全編に漂っているメロウネスが心地よいですね。キーボードのフレーズとコーラスのハーモニーが効いていて、ドリーミーでサイケデリックな感触もあります。あと、歌詞もいいんです。特別な結びつきを持ちつつも、まだロマンティックな関係になっていない2人を描いたもので、彼女自身は〈自分に合った人を知るためには、まちがった人と過ごす時間も必要なんです〉と説明しています」

天野「クレジットを見ると、作曲とプロデュースにオスカー・シェラー(Oscar Scheller)の名前が。ベッドルーム・ポップ系のアーティストであり、最近はプロデューサーとしてリナ・サワヤマやシャイガールの作品に関与している売れっ子です。先週リリースされたばかりのレディー・ガガのリミックス盤『Dawn Of Chromatica』でもアシュニコによる“Plastic Doll”のリミックスに参加していました。マチルダ・マンはもちろん、シェラーにも注目ですね」