1989年発表の2枚組アルバム『PRIDE』よりタイトル曲“PRIDE”が新しいバージョンでシングルとしてリリース。ASKA自身に当時の作詞作曲を振り返ってもらいながら、楽曲の魅力を紐解きつつ、楽曲名にちなんで、自身の〈PRIDE〉についても語ってもらった。
ASKAから『笑って歩こうよ』に続く、2021年2作目となるシングルが届けられた。表題曲のタイトルは『PRIDE』。そう、42年に及ぶASKAの音楽活動において、圧倒的な支持と人気を得ている名曲“PRIDE”の新録バージョンだ。
原曲は1989年発表の2枚組アルバム『PRIDE』のタイトル曲。制作当時、この楽曲に彼が込めた思い、作曲やメロディーメイクに関して意識していたことは、どんなものだったのだろうか?
「メロディーができた時点で大曲になるという予測はつきました。ちょうど僕の歌詞が〈散文詩〉または〈散文学〉と語られることが多くなっていた頃。当時、読み漁った本がそういう世界でしたので、自ら歌詞と散文詩(現代詩)の融合を目指していたのです。
ただこの曲に関しては、日常的な感情を重ね合わせながら、今の自分の〈根〉となるものを歌いたいと思っていました。〈プライド〉……確かに僕にもある。海外のアーティストはこの言葉をよく使います。ただ日本において〈プライド〉は、口にすると相手が距離を置いてしまう、自分自身への肯定を否定されがちな言葉でした。しかし、どんな場面においても、ひとつの判断をするときには(たとえ口にしないとしても)〈プライド〉は必ず作用しているはず。つまり、この曲を作るにあたっては、日常の一コマを書き出せばよかったのです。テーマを〈プライド〉とし、タイトルに“PRIDE”と書いた時、不思議と〈どう思われようと構わない〉と感じました。そして、これまで何度となく経験してきた、自分自身を打ち砕かれるような出来事を乗り越えることできたのは、やはり自分の〈プライド〉があったから。この曲の発表後、リスナーはもちろんのこと、多くのアスリートたちがいろんなところで紹介してくれました。
メロディーに関しては、作為的に計算したメロディー作りを始めた頃ですね。それが今の自分の楽曲作りの手法となっていることは隠しません。作品とするからには計算されたメロディーは必要だと思っているし、それがあれば、対極にある〈自然なメロディ〉も活きる。“PRIDE”はバリエーションを持つことの分岐点になった曲であったと、今振り返ってそう感じています」
2018年に行われた全国ツアーのタイトルは〈THE PRIDE〉。5年ぶりのツアータイトルに『PRIDE』を冠した理由についてASKAは、「上手く言い表せません。あの時の自分ほど〈プライド〉を必要とした時期はなかった。それだけです」と、率直に語ってくれた。そして今回、“PRIDE”を再録し、シングルとしてリリースすることに。リアレンジにあたって意識したことは、「オリジナルを壊してはならない」のみ。また「今の自分が歌うことによって楽曲の成熟を表現できるのではないか」という思いもあったという。
前述した通り、“PRIDE”はリリース当時から現在に至るまで、ファンの間で絶大な支持得ている楽曲。思い入れが強い分、今回のシングル化に対して、いろいろな思いが渦巻いていることだろう。
「(“PRIDE”は)シングルではなく、アルバムの曲だったからこそ、長い間支持されてきたと思っています。(シングルとしてリリースすることを決めたのは)友人が、自分のドキュメントにテーマ曲として“PRIDE”を使わせて欲しいと連絡をしてきたことがきっかけでした。断る理由など何もありません。
しかし、自分の曲でありながら、それを快諾できる権利を持っていなかった。オリジナルの“PRIDE”を使用するとなると、人気曲でもありますし、かなりの使用料が発生するだろうと。そんなことはさせられないし、どうすれば友人の願いに応えることができるのかと考え、再録音をして原盤権を自分のものにすれば、それに応えられることに気がつきました。作品には権利というものがあります。今後、少しずつ時間をかけ、このような形で自分のものにしていきたいと考えています」
この秋から予定されていたツアーは、新型コロナウイルスの影響により、残念ながら中止に。しかしASKAは、この状況を受け止め、前を向いて進んでいるようだ。
「物事には〈歩み〉というものがあり、それを妨げられる〈不可抗力〉もあります。課せられたものは仕方がない。後は課せられたものを受け入れながら、自分のやり方で、〈歩み〉を貫くことが大切だと思っています。それを〈プライド〉と言うのなら、そうなのかもしれません」
このコメントからもわかるように、“PRIDE”はASKAというアーティストを象徴する楽曲であり、言葉として存在している。最後に改めて、「ASKAさんにとって〈プライド〉とは?」という質問をぶつけると、こんな答えが戻ってきた。
「きっと〈僕にとって〉ではないです。〈誰にとっても〉だと思いますが、それを失っては前に進むことができないものでしょうね」