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Photo by Matt Cronin

〈喪失〉は変化と刷新と再生の前兆

――ここにきてあちこちでロックダウンも終わって、世界は動き始めていますよね。まだ〈ポストパンデミック〉とまでは言えないですが……。

「そういう方向に向かってはいるよね」

――あなたも、多少なりとも楽観的な心持ちでいるんでしょうか?

「う~ん、僕は昔からずっと、楽観主義者だったことはない。努力をして楽観志向を維持しなければならないと考えてはいるけど、かといって、実際に物事を楽観視しているわけじゃないんだ。ただ、基本的にポジティブな人間だから、ハードワークを厭わず、曇りのない心を持っていれば、自分の気持ちを浮き立たせることが可能だと信じている。暗い考えに捉われることを自分に許してしまったら、いとも簡単にそこで溺れてしまうんじゃないかな」

――実際アルバムも、“Particles(粒子)”という曲で非常にポジティブなエンディングを迎えますよね。

「粒子ってものは、例えば絶望などといった感情に現れる、人間の弱さとは無縁な存在なのだという考えに基づいた曲だからね。つまり、粒子はニュートラルな存在であって、そういう意味で、あらゆる粒子は楽しげなんだ。そして粒子は、この宇宙を喜びに満ちた場所にしてくれている。なぜって宇宙は常に進化をし、変化をし続けていて、何かが失われるということを我々人間とは異なる次元で受け止めている。〈喪失〉は、変化と刷新と再生の前兆と見做されているんだよ」

『The Nearer The Fountain, More Pure The Stream Flows』収録曲“”

――どんな形であれ、変化はポジティヴなものなのだ、と?

「その通りだよ。かつてジョージ・ハリソンが歌ったようにね。〈Everything must change〉……〈All things must change〉だったかな? いや、〈All things must pass(万物は流転する)〉だね。そんなわけで、ここで歌っていることはそれに近い感情なんだよ」

ジョージ・ハリスンの70年作『All Things Must Pass』収録曲“All Things Must Pass”

――この曲をインスパイアしたというラビのエピソードは非常に興味深いのですが、彼女とはその後も連絡を取り合っているんですか?

※“Particles”はアイスランドに向かう飛行機の中で出会ったラビとの会話がきっかけで生まれた

「いいや、残念ながら彼女の名前を思い出せなくて、何度も探そうと試みたんだけどね。カナダの西岸に住んでいることは分かっていて、本当に困ってるんだ。いつかコンタクトを取れたらと願っているよ」

 

人間はみんな島であって、無力で哀れな存在なんだよ

――そういえばあなたは、2曲目の“The Cormorant”について「これまでに書いた曲の中で一番気に入っている」という発言をしていましたよね。

「うん。もしこれからもあんな曲を書き続けることができたら、僕はすごくハッピーだよ。“The Cormorant”は、僕にとってポジティブだと感じられることを表現しているから」

――この曲は〈Am I imprisoned on this island?(僕はこの島に囚われているのだろうか?)〉という自問から始まります。色んな解釈ができるフレーズだと思うんですが、あなたとしてはどんな想いを込めたんですか?

「僕は自分を解放できるほど泳ぎが得意じゃないってことに端を発していて、そういう意味で、僕は囚われている。でも考えてみると、僕らはみんな囚われているんだよね。

つまり、大小の違いはあってもみんな島で暮らしていて……僕が常々世界の大国について憤りを感じていることがあって、パワフルな国って自国民を欺いて妄想を抱かせるんだよ。自分たちの国は島なんかじゃないっていう。でも実際は、みんな島で暮らしている。人間はみんな島であって、無力で哀れな存在なんだよ」

――では、本作を作り上げる過程で、何か自分自身について発見はありましたか?

「自分が思っていたより泳ぎは巧かったってことかな」

――すでに何本かソロでライブパフォーマンスを行なっていますが、毎回ブラーの“This Is A Low”でセットを締め括っていますね。恐らくあなたが最も長く歌ってきた曲だと思うんですが、なぜ今回のツアーのフィナーレに選んだんですか?

「それはやっぱり、このアルバムの曲を聴かせるにあたって、非常にナチュラルに関連付けられるからだよ。“This Is A Low”も海に関する曲だからね。ぴったり合うんだ」

2021年のライブ動画。演奏しているのはブラーの94年作『Parklife』収録曲“This Is A Low”

――海を渡ってあなたを故郷へと導いているようなところがあります。

「本当にそうだよね」

 

僕らの人生に日本のカルチャーは多大な影響を及ぼした

――余談になりますが、東京の駅のプラットフォームでマスクをして立っている若い頃のあなたの写真が、パンデミック下とあって、昨年大きな注目を浴びましたよね

※ブリットポップをテーマにしたケヴィン・カミンズの写真集「While We Were Getting High」より

「ああ、92年の写真だっけ?」

――そうです。初来日の時ですが、いったいなぜマスクをしてみたいと思ったんですか?

「多分僕は、日本の人たちがマスクをしているっていうことに、ひどく興味をひかれたんだと思う。それまであんなマスクはしたことがなくて、マスクをしたらどんな気分になるのか、自分でも試してみたかったんだよ。

あの時の僕はほかにも色々なことに初挑戦した。例えばカプセルホテルにも泊まりたかったのに、なぜか断られちゃったんだよね。だから、カプセルホテルに泊まるという野望はまだ叶えていないんだ(笑)」

――あの来日の時の体験は、今でも覚えていますか?

「ああ。鮮明な記憶がある。昔は頻繁に日本を訪れたものだし、その後、娘も何度か連れて行ったよ。彼女のファッションにもその影響は表れている。僕らの人生に、日本のカルチャーは多大な影響を及ぼしたんだよ」

――さて、今年の8月は、ブラーのデビュー・アルバム『Leisure』(91年)のリリース30周年でした。あなたたち4人でお祝いをするとか、何かアニバーサリー企画を考えたりはしていますか?

「いや、僕は後ろを振り返ることはあまりしたくないからね。常に前を見ていたいんだ」

――分かりました。これで終わりますが、ぜひまた日本に来て下さいね。

「うん、行けるようになったら、すぐにでもそっちに行くよ」

 


RELEASE INFORMATION

DAMON ALBARN 『The Nearer The Fountain, More Pure The Stream Flows』 Transgressive/BIG NOTHING(2021)

リリース日:2021年11月12日(金)
品番:TRANS551CDJ
価格:2,750円(税込)
世界同時発売/解説・歌詞・対訳付/アーティスト本人による楽曲解説付/日本盤ボーナストラック収録

TRACKLIST
1. The Nearer The Fountain, More Pure The Stream Flows
2. The Cormorant
3. Royal Morning Blue
4. Combustion
5. Daft Wader
6. Darkness To Light
7. Esja
8. The Tower Of Montevideo
9. Giraffe Trumpet Sea
10. Polaris
11. Particles
12. The Bollocked Man *日本盤ボーナストラック