
パンクでロックで、というのは同じ
――そして今回、BiSとZOCががっぷり四つでコラボすることになりました。7月に合同インストアがあって、大森さんが「BiSに曲を書きたい」と言ったという経緯がありますが、おふたりはこの企画をどんなふうに捉えているのでしょうか。
大森「ZOCもWACKも孤軍奮闘し続けているじゃないですか。アイドルのなかでカウンター同士であると思っていて。ここ(BiSとZOC)自体もそうだけど、どことも一緒にやろう、みたいな空気でやってきてないから、閉鎖的と言えば閉鎖的だったと思うんですね。ZOCは特に女性ファンが多かったりで、ほかのアイドルの現場にそこまで馴染みがなかったりするなかで、でもどこかとは絡んで広がっていきたいみたいな気持ちがあって。それはお互いにあったはず」
松隈「たしかに」
大森「自分は初期のBiSのときから同じようなライブハウスカルチャーにいたので、実際の距離的にも精神的なものもあまり遠からずだったし、細かく分類すると違うかもしれないけど、大きくパンクでロックで、というのは同じかなと」
松隈「大森さんが仰ったようにハートの部分は同じ系統ですよね。アイドル界に指立ててるような部分が少なからずあると思うので、ハマりはすごくよかったのかなと思います。そこに違和感もなく」
――ハマってますよね。今回のシングルがどれもすごくよくて。
大森「ああ、それは嬉しい。よかった」
松隈「よかった……。むちゃくちゃ不安で(笑)。どう受け取られるかわからないので」
大森「お互いのボーカルを詳しくは知らないですもんね。ZOCは今回BiSの“STUPiD”(2019年)をカバーしたんですけど、これはヒダカ(トオル)さんにアレンジしてもらって、ピエール中野とえらめぐみとカメダタクという、私がいつも一緒にやってるメンバーでバンドを組んでレコーディングしたんです。前にZOCで“DON’T TRUST TEENAGER”(2021年)を録ったときと同じように、ちゃんとバンド組んで生音でやろうってことで録ったんですけど、カメダタクがオワリカラというバンドをやってるんですよ。で、“STUPiD”の頭の〈歯切れの悪いオワリカラ〉というところでいつもシンセの演奏を間違うんです」
松隈「いきなり頭から動揺が(笑)」
大森「〈歯切れが悪いって言われてる気がして間違えちゃうんだよ〉って。〈おれのこと書いてんのかな。オワリカラってわざわざカタカナで書いてるくらいだし〉って言ってました(笑)」
松隈「そんなたまたまがあるんですね。すげー。オリジナルはもちろん、カバーもそれぞれのやりかたでアレンジしないとおもしろくないかなということで進めていきました。うちもそうですしZOCもそうですけど、音にこだわっているので、企画的にはおもしろくなりましたよね」
松隈さんの曲は普通の女の子をロックスターにする
――話が出たので先にカバーについてうかがっていきますね。BiSは今回ZOCの“family name”(2019年)をカバー。過去にもDorothy Little Happyやでんぱ組.incとコラボをしてきましたが、BiSが相手の曲をカバーするとテンポが速くなるという。
松隈「速くなり、重くなり。こっちの曲はでんぱ組.incさんとかに渡るとかわいくなるんですよ。そっちのほうがすごそうに見えるんですよね」
大森「すごそうって、なんですかそれ(笑)」
松隈「BiSは損しかしないんですよ(笑)。おれたちの音はわかられきってるんですよね。多分こうなるだろうな、たしかにBiSっぽいサウンドだなって。でも、BiSの曲を向こうに渡すと、かわいいアレンジにするとかわいい曲になるじゃん、みたいな発見があるんですよ」
――ただ今回の作品に関しては、そういうギャップのおもしろさではなく、すごく相性がいい印象があります。
松隈「そうですね。今回はそこまでジャンルを変えることなくできたというか。“family name”はもともとロックなサウンドだったので、僕なりに原曲へのリスペクトを残しつつ好きにやらせてもらいました」
大森「私はアイドル楽曲が好きなので、松隈さんの曲の分析みたいなことは前々からしていて。やっぱり普通の女の子をロックスターにしやすいメロディーの運びかたをされるなと。よく聴こえるというか、エモく聴こえる。あとは松隈さんが出したい音に合わせてボーカルをディレクションしてるなっていうのがよく伝わってくるんですよね。それが明確だから、一定のクォリティーのものをずっと出し続けられてるんだなと思います。自分でBiSをカバーするとなったときに、そこは崩したくないというのと、バンドをしっかりやってる人だということを大切に、なおかつその熱量を大事にやりたいなということで、バンドで録ろうということになりました」

――〈普通の女の子をロックスターにするメロディー〉との指摘がありましたが、ZOCの鎮目のどかさんのボーカルを聴くと、松隈さんの曲を歌う若者感がすごくあるというか。若者が松隈さんの曲を歌ってるのでそのままなんですけど(笑)。
大森「でもわかります。それっぽいんですよね」
――こういうクセのある発声の人はWACKのグループにひとりはいるな、という。
松隈「彼女はその役割でしたね。のどかさんでピースがハマったと思いました」
――ボーカルディレクションはおふたりでやったんですか?
大森「私がBiSの“割礼GIRL”とZOCの“STUPiD”をやって」
松隈「僕がBiSの“family name”とZOCの……(資料を見ながら)“BEGGiNG”?」
大森「曲名が“BEGGiNG”に変わったの知らなかったでしょ?」
松隈「最初は“嫁がケツ噛まれた”って曲名にしてたんですよ」
大森「メンバーも“嫁がケツ噛まれた”だと思ってます(笑)。〈『割礼GIRL/嫁がケツ噛まれた』が発売になります〉って言おうとしてましたし」
松隈「さすがにその曲名で出したらZOCに失礼ですよ!」
――松隈さんは“family name”のアレンジをしてみてどう感じましたか。
松隈「炎上したらイヤなんですけど、僕はほかの人の曲を聴いてあまりいいなと思わないんです。特にメロディーの置きかたですよね。僕のなかではプロのメロディーとアマチュアのメロディーというのが明確にあって。多分、料理人もプロが作った料理とアマチュアの料理とでは見りゃわかると思うんですよね。で、この曲はプロのメロディーだと思ったんです」
大森「やったー」
松隈「僕がそう思うことは珍しいんです。毎週のオリコンチャート見てても、10位までに1曲あるかないかくらいの感覚で。メロディーがいいのでアレンジもすんなりできたと言いますか。ふわっとしたメロディーだとアレンジでどうにか引っ張ってあげないと曲がかっこよくならない。“family name”はなにをやってもいいところに音符がきてるので、ボーカルディレクションもそこをそのまま生かしたり、おれなりにちょっと崩したりがしやすかったです。作った人のことが明確にわかるメロディーと言えばいいんですかね」