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DOOMなやつらに音楽を届けるDOOMなバンド

──ここからはセカンドアルバム『DOOM』について、いろいろ訊かせてください。そもそもアルバムの全体像はどう考えてましたか?

ヤコブ「アルバムの全体像を共有するというよりは、各曲ごとのアレンジを固めてレコーディングに入るという感じでした」

岡本「アルバムタイトルが決まったのも、いちばん最後だった」

ヤコブ「悩みまくってたんですよね。ピンとくるワードがなくて。最終的にアルバムのミックスが終わって打ち合わせをしていたときに、ポロッと出てきた感じでした」

悠平「〈いいじゃん、それ〉みたいな(笑)」

ヤコブ「それまでは漢字一文字で『蟹』とか言ってましたから(笑)。結局、蟹はアー写になりました」

岡本「『遠投』もあったよね」

ヤコブ「『遠投』は田中さんの案でしたね。釣りの遠投。それはわりといい線まで行きました。でも、なんかもっとハマるのがあるんじゃないかとずっと思ってましたね」

──『遠投』も家主っぽいかも。『DOOM』ってワードでパッと思いつくのは、いわゆるドゥームメタルだし、1曲目の“近づく”はラウドでヘビーな音像だったりしますが。

『DOOM』収録曲“近づく”。作詞作曲は田中ヤコブ

ヤコブ「じつは、僕が大学の音楽サークルに入ったとき、先輩方が〈DOOM〉って言葉を日常的に使っていたんですよ。入った年の新歓を兼ねた花見で、確か谷江さんに高校時代のことを訊かれて〈友達いないんで、ブラック・サバスばっかり聴いてました〉って答えたら、〈君はDOOMなやつだな、ロッ研に入りたまえ〉って言われたんです」

谷江「そんなことあったかな」

悠平「DOOMな人を探す会だったんです(笑)」

ヤコブ「先輩やOBにも〈お前はもうDOOMだよ〉ってすごい歓迎されたんです。それって〈お前は他に行くところねえよ、うちのサークルしかない〉ってことなんですけど、DOOM界の期待のサラブレッドみたいに言われてました」

岡本「〈DOOM〉本来の意味(破滅)とかじゃなくてね」

谷江「自虐的な皮肉みたいな言葉だよね」

ヤコブ「ガチでいうと〈ダメなやつ〉なんですけど、それを〈DOOM〉と表現することでちょっと救われる、みたいな(笑)。こっちもそう言われて〈わかるわ〉って思ったし、わりとそういう人ばっかりがいるサークルだったんです」

──なるほど(笑)。

ヤコブ「なので、今回のアルバムの〈DOOM〉は、完全にそっちのほうの〈DOOM〉です」

岡本「たとえば田中がちょっと落ち込んでるときに〈あいつ今日DOOMだから〉みたいな使い方です(笑)」

ヤコブ「完全にうちのサークル内だけで流行ってた、他の人に言ってもわからない独自の言語だと思います」

──それが家主の共通認識としてのDOOM感になっていった。

ヤコブ「そうです。DOOMじゃなかったら、このバンドにはいられないです」

谷江「別に音楽の趣味でそんなにつながってるわけじゃないし」

悠平「世の中にいる僕らと同じような人たちが家主を聴いて〈あ、これってDOOMだったんだ〉と思ってほしい」

ヤコブ「家主を聴いて〈いいな〉と思ってる人はもうわりとDOOMな感覚を持ってる人が多い。そういう意味では、聴く人が多くなるより、DOOMな人に届けばいい、みたいな気持ちはあります。そもそも僕らは閉じてるんで、それを無理してこちらから広げるのは不自然な話なので」

──メンバーからあがってくる新曲もDOOM的にジャッジする?

ヤコブ「いや、あくまで人間性を指す指標としてのDOOMなので(笑)。

細かい趣味は違えど、いい曲と思うラインは似たり寄ったりなので、曲としての良さはある程度担保されてるんです。なので、そこからはこういうアレンジにしたらいいんじゃないか、みたいに進みます」

 

腕利きアレンジャーとしての田中ヤコブ

──自分が書いた曲は自分で歌う、というバンドっぽさはいいですよね。

悠平「厳密な決まりがあるわけではないですね」

ヤコブ「そうですね。でも、今回“めざめ”は、僕の曲ですけど田中さんに歌ってもらいました。自分で歌ってもしっくりこなかったけど、田中さんが歌えばいけそう、とは思ったので。

僕は昔から他のバンドでサポートギターをすることが多かったし、自分で歌うより人の後ろで弾いて曲を支えるほうが気が楽なんです。家主はみんなの曲がいいので、バックに回るときは自分のスキルを生かせるお仕事でいいなと思ってます」

『DOOM』収録曲“めざめ”。作詞は田中悠平、作曲は田中ヤコブ

──そのヤコブくんのあり方は、ソングライター的なエゴをメンバーの誰からも感じないこととも関係がありそうですね。

ヤコブ「僕自身もぜんぜんないですね。できれば自分の曲も他の人に歌ってもらいたいけど、やむなく自分で歌ってるんです」

悠平「この人(ヤコブ)に(エゴが)ないから、みんなもそうなるんじゃないですかね」

──ヤコブくんはものすごいギターを弾くから、どうしてもライブでそっちに目が行くんだけど、カラッとしてもいるというか、自分の役割が終わったら音楽の主役はパッとみんなに渡しちゃうところがありますよね。曲がアレンジされて戻ってきたとして、すべてヤコブ曲になってしまってる、というわけではないことにも通じているのかな。

谷江「そこがすごいんです、この人は(笑)。大枠を作ってデモを渡しておけば、僕がイメージしてたやつの延長でさらによくなって曲が返ってくる。ヤコブ色になるとかではないんです。たぶん、そういう腕利きのデザイナーみたいなことができる稀有な人です」

ヤコブ「なんとなくこうしたらいいんだろうなというのと、こういう音楽が好きでこう作ってきたんだろうなというのを、自分なりに解釈しつつアレンジはします。人の曲をアレンジするのってめちゃくちゃ楽しくて、いい食材をもらったから料理できるぜって感じなんです。しかもそれを料理して返すと、すごく喜んでくれる」

悠平「本当に。こんないい曲作った覚えないぞ、くらいのができてくる」

ヤコブ「いや、元がよくないと何をしてもダメなんで」

──岡本さんは唯一曲を書かないメンバーで、バンドの要であるドラマーとして、3人の個性をどう見ているんですか?

岡本「僕は3人ひとりひとりのファンなので、いちばん早く新曲が聴けるというめちゃくちゃいいポジションにいるんです。なんていいところにいるんだろうと思いますね。この2年くらいは特に〈どの曲もいいね!〉ってずっと言い続けてます」

ヤコブ「岡本さんのドラムのテンションが高いときはいつもいいライブになるんですよ。バンドをやってる人が家主を見ると、岡本さんのドラムが評価されることが多い気がしますね」

──というか、みんな家主みたいなバンドがやりたくなるんですよ。サウンド的にというより、メンバーの関係性もいいし、ある程度歳は食ってるけど老けてないし、内向きにじゃれあってるだけでもない。そういう関係って、だんだん持ちにくくなるじゃないですか。それこそ4人で一緒に川に行ったりするような。

岡本「他にやることがそんなにないんですよ」

ヤコブ「こないだも一緒に海行って釣りしたし(笑)」

悠平「楽しかったな」

岡本「ウィンナー焼いて食べたし」