結成40周年を迎えたリヴィング・レジェンドな2人組が通算19作目のアルバムを完成!! 円熟を見せつつ、どこまでも自由な音楽に想う――あぁ、この物語はきっとまだ続く……

 〈物語はもう終わるけれど その先をぼくは見ていたいんだ〉(“Sunlight”)――結成40周年、通算19作目のオリジナル・アルバム。直枝政広(ヴォーカル/ギター)も大田譲(ベース)も60代半ばに差しかかっている。どこから見ても大ヴェテランの領域なのに、この新作『Carousel Circle』の瑞々しいかっこよさは何なんだろう。確かに、ここに円熟はある。「ある人に〈渋い〉と言われたんです」と直枝は語った。だが、その渋さは悪くないものだとも感じる。渋いけれど変だし、渋さのなかですごく遊んでいる。無理した若作りでもないし、達観した老成でもない。キャリアを経てきたからこそできる自由さをメロディー、サウンド、言葉のあらゆる面で感じるのだ。2人に、手応えを訊いた。

カーネーション 『Carousel Circle』 PANAM(2023)

 「老成してたという点では、ひとつ前の『Turntable Overture』(2021年)のほうがそうだったかもしれない。実際、レコーディング中にコロナで倒れたりしたし、気持ちの暗さが作品に出てしまっていたかも。特に歌詞の面で全然違っていて、今回は物語を作っている感覚があった。そのうえで、ありきたりな言葉をできるだけ減らしていきたかったし、ポップスにちょっと意味を乗せてゆくというやり方を意識しました。特に鈴木さえ子さんと共同プロデュースになった“Sunlight”の歌詞世界は、僕にとってとても勇気のいる仕事だったし、やりたかったことでした。最後の1行〈ああ こんなことだといつかほら木になってしまうんだから〉はよく書けたと思います」(直枝政広)。

 「今回、ベースとしては8ビートが多くて、これはカーネーションとしては相当に珍しい。でも、それがすごくいいんですよ。“ダイアローグ”ではさえ子さんにドラムをドカドカ叩いてもらいつつ、ベースは8というおもしろさ。いままでのアルバムとはちょっと違うリズムの感じ方ですね。複雑な構成の“カルーセル”も基本はハチロクだけど、自分ではある部分は7拍子、ある部分は5拍子だと勝手に思って弾いてます。歌を聴いてれば変に凝って作ったようには聴こえないんじゃないかな」(大田譲)。

 ところで、今回は大田にとって初のカーネーションへの提供曲となる“深ミドリ”も収録されている。

 「切り貼りするパーツをたくさん送りつけて、(直枝に)まとめてもらって、何なら歌詞も書いてもらうつもりでいたんですよ。でも、なんか曲が出来ちゃった。仕方ないから自分でもMTRを買い、歌にしてみたものを送ったんです」(大田)。

 「大田くんの初めての作品なので楽しみに待ちました。案の定、すごくイノセントな世界の曲が届いた。そこから僕がアレンジを膨らませていって」(直枝)。

 “深ミドリ”で大田が書いたサビのリフレイン〈ランダン ルドゥウ ランダン〉と、そこに連なる〈遊ぶ子供はわかっているのさ 誰も知らない不思議な声を〉という歌詞は、直枝が「これからもっと(歌詞を)書けるなと思った」と感じた手応えに、無意識に呼応しているとも思える。

 2人の関係性の良さは40年目のカーネーションの好調を象徴しているものだ。ライヴでも欠かせないサポート・メンバーたち、レコーディングに参加したゲスト・プレイヤーの鈴木さえ子、北山ゆう子、田中ヤコブ、橋本歩、谷口雄らも、今回の新作ではそれぞれの個性が自然と引き出されている。つまりそれって、過去の作品やキャリアをリファレンスにしているのではなく、現在の自分自身を掘り下げながら音楽を作っているという、カーネーションの自覚が他のミュージシャンにも伝わっていることから起こるのだと思う。〈いまの自分たちがやりたいおもしろさ〉にフォーカスしながら新しい物語を紡ぎ出す。その理想的なサイクルをカーネーションは続けることができていると、この新作で実感した。

 「作った曲を、密室で蓄えてきた秘蔵の酒を振る舞うみたいな感じで大田くんに差し出す感じなんですけど、そこで彼は〈えー?〉って言いながらもわかってくれる。だから、いっそう自由にやらせてもらってます。今回のアルバムで、これからもっと曲が書けると思いました。歌詞に関しても手掛かりを掴んだし、この先もまだまだ続けられるんじゃないかな」(直枝)。

カーネーションの近作。
左から、2016年作『Multimodal Sentiment』2017年作『Suburban Baroque』(共にクラウン)、2021年作『Turntable Overture』(PANAM)