生誕135年、不滅の大指揮者の正規録音が最新リマスターで初集成! 感動的な初出音源もありファン必携!

 ドイツの名指揮者フルトヴェングラー(1886~1954)は約70年前に亡くなったにも拘わらず、古いモノラル録音により、いまだに新しいファンを生み続けている稀有な存在である。「およそ芸術なるものは、限りなく奔騰する生命の象徴としてのみ、はじめてその意味を価値と持つ」「演奏家は、作曲家がその深層心理の混沌を形象化していく作曲の過程を追体験しなければならない」。彼の演奏は彼自身の言葉の具現だった。その迫真の再創造が時空を乗り越えて、われわれに熱く語り掛けてくる。

WILHELM FURTWÄNGLER 『フルトヴェングラー正規レコード用録音集大成<限定盤>』 Warner Classics(2021)

 今回のBOXは、彼のファンなら絶対に座右に備えるべき一組だ。その理由は(1)ワーナー音源だけでなくユニバーサル音源もライセンス収録、(2)ほぼ全ての音源をフランスのStudio Art & Sonにて192kHz/24bitリマスター。(3)CD1枚分の初出音源、(4)紙ジャケットにオリジナル・ジャケット・デザインを採用、(5)音源の調達やその問題等についての説明(英語、仏語、独語)、多くの珍しい写真を収録した160ページ解説書、の5点。

 最大の注目は(3)。解説書によると、本番前にバランスやテンポを確認するため、通し演奏をテスト録音していたそうで、シュトラウス:皇帝円舞曲、シューベルト:「ロザムンデ」間奏曲第3番、チャイコフスキー:「弦楽セレナード」~エレジーは、そのテスト録音が初公開されたものである。とくにチャイコフスキーは本番録音が行われなかったため、ファン垂涎のリリースとなった。リハーサルでも全力を尽くしたと伝わるフルトヴェングラーらしく全くの真剣勝負で、ウィーン・フィルのメンバーが次第に燃え上がり、遂にはアマチュアのように夢中になって演奏してゆくのが聴き取れ、実に感動的だ。

 もちろんLP時代から有名なベートーヴェンを中心とした名盤の数々も音質が驚くほどリフレッシュされ、力強さも増し、初めて聴いた日の感激が蘇ること請け合い。これからフルトヴェングラーを聴く方が思い切って購入しても、決して後悔することはないだろう。