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dj hondaの簡単には振り返れないプロフィール

 世代によっては彼が“Good Times”の2枚使いで会場を熱狂させる痛快な映像を観たことがあるかもしれないし、そうでなくても〈h〉のロゴを目にしたことはあるだろう。そうした表層的なイメージの流布に対して実像はどの程度の認識があるのか。そのあたりはILL-BOSSTINOがドラマティックに語る『KINGS CROSS』を聴いていただくのが早いが、ここではdj hondaの足取りを簡単に紹介しておこう。

 もともとロック・バンド志向だったdj hondaは静岡のクラブでDJのキャリアを開始し、そのなかでヒップホップに出会っている。80年代半ばにはThe JG’sというユニットで活動(久保田利伸の初期シングルなどにリミックスで参加)もしていたが、独自にターンテーブル技術の研究を進め、90年にNYのニュー・ミュージック・セミナーにおけるDJバトル〈Battle Dor World Supremacy〉に出演。再出場した92年に準優勝を果たして一躍シーンに勇名を轟かせることになった。

 が、多くのバトルDJがターンテーブリズム探求の道に進んでいくなか、彼にとってバトルDJとしての名声は本場へのエントリー手段だったようで、94年に渡米してからはトラックメイカーとしての活動に専念していく。95年にはレッドマンやギャング・スター、コモン、ファット・ジョー、ビートナッツら多彩なMCを迎えて初のアルバム『dj honda』をリリース。同作はエピック系列のレラティヴィティからUSリリースされ、続く97年のセカンド・アルバム『h II』はビルボードにランクイン。デ・ラ・ソウルやKRS・ワン、キャンプ・ローら当時の旬なメンツを迎えた同作は、翌98年のUS版では脚光を浴びはじめた頃のモス・デフとの“Travellin’ Man”も収録している。とんでもない次元で浸透~流行した自身のファッション・ブランド〈h〉が大きく広がったのもこの頃だ。

 その後に自身のdj honda recordingsをレーベルとして日米で本格始動した彼は、2001年のサード・アルバム『h III』から現在に至るまでインディペンデントなスタンスで活動を続けていくことになる。2002年にPMDとのタッグ作『Underground Connection』を発表したのも驚かされたものだ。2009年にはプロブレムズとの『All Killa No Filla』、そしてモス・デフやEPMD、クールGラップ、ショーン・プライス、ラス・カスらを迎えた4作目『dj honda IV』を発表し、同年には北海道に帰還してスタジオを構えるに至った。

 そんな彼が日本のアーティストも手掛けるようになったのは般若にビートを提供した2005年頃からで、帰国後はB.I.G.JOEやHOKT、Blahrmy、MC TYSON、Lisky.S、GADORO、阿修羅MICらにコンスタントにビートを提供したほか、KOJOEやZEUSらを迎えた自身名義のトラックもマイペースに発表。一方では日野皓正とのチャレンジングなコラボでも注目を集めるが、90年代の活躍を肌身で知らない層のリスナーにも彼の凄味をわかりやすく知らしめた最大の成果といえば、B.I.G.JOEとのタッグ作『Unfinished Connection』(2015年)、そして紅桜との『DARK SIDE』(2019年)というハードコアなアルバム2枚だろう。単曲でいえばTV番組「フリースタイルダンジョン」きっかけで生まれた輪入道 × DOTAMA × mu-tonの“TAG S**T”(2018年)や、SIMON JAPの人気曲“くそったれ For Life”(2018年)もdj honda印のビートだ。近年も輪入道やUZI、阿修羅MICの楽曲を手掛けているが、ヴォリュームのある濃厚な作品集としては今回の『KINGS CROSS』が3年ぶり。彼ならではの骨太なビートのタイムレスな魅力はどこからでも味わうことができる。 *轟ひろみ

左から、般若の2005年作『根こそぎ』(FUTURE SHOCK)、EPMDの2008年作『We Mean Business』(EP)、B.I.G.JOEの2010年作『RIZE AGAIN』(TRIUMPH)、日野皓正の2011年作『AFTERSHOCK』(ソニー)、日野皓正の2013年作『unity h factor』(J LAND)、阿修羅MICの2016年作『CHAIN GANG』(KITCHEN HOUSE)、MC TYSONの2016年作『The Message』(CHECKMATE)、GADOROの2017年作『花水木』(SUNART)、Lisky.Sの2017年作『Represent』(CHECKMATE)、SIMON JAPの2019年作『くそったれ For Life』(J.ACE LAVEL)、輪入道の2020年作『光』(GARAGE MUSIC JAPAN)