カントリー・フレイヴァー溢れるポップ・ソングで、東京インディー・シーンで異彩を放つ前田卓朗のソロ・ユニット、ポニーのヒサミツが、セカンド・アルバム『The Peanuts Venders』をリリースした。雷音レコードからの先行シングル“そらまめのうた”と、カクバリズムから2016年にリリースされた“羊を盗め”の2枚の7インチ・シングルが収録された本作は、シャムキャッツの大塚智之やyumboの芦田勇人らここ数年活動を共にしてきたバンド・メンバーや、ゲストのザ・なつやすみバンドの中川理沙らに支えられて完成。そこに前田が細野晴臣と並べて敬愛するポール・マッカートニーの遺伝子を受け継いだポップ・センスがキラリと光る、胸躍るカントリー&ポップな作品に仕上がった。
そこで今回は、アルバムのリリースを記念して、森は生きているの頃から交流がある岡田拓郎との対談が実現。昨年、岡田は初のソロ・アルバム『ノスタルジア』をリリースしたが、そこにはポニーのヒサミツと同じようにアメリカーナな匂いが漂っていた。アメリカのルーツ・ミュージックの影響を受けながら独自の世界を生み出してきた二人は、果たしてどんなふうに過去の音楽に向き合い、それを作品に昇華させていったのか。いつも会う時は呑んでいるという二人が、今回も吉祥寺の酒場でビール片手にそれぞれの作品について語ってくれた。
この時代に〈カントリー色を出さないと!〉って焦るなんて珍しいですよね(笑)(岡田)
――初めて二人が会ったのはいつ頃ですか。
前田卓朗(ポニーのヒサミツ)「森は生きているのファースト(2013年)が出た頃ですね。その頃、増村くん(森は生きているのドラマー、増村和彦)と出会って、レコ発ライヴを観に行ったときに初めて岡田くんに会って。後日、増村くんを交えて一緒に呑みに行ったんだよね」
岡田拓郎「そうでしたね。その後も会った時はだいたい呑みに行ってますね」
前田「(会うときに)シラフのときってあまりないかも」
岡田「いちばんひどかったのは、正月にノアルイ※に行ったときですよ」
※東京・下北沢のレコード・ショップ、ノアルイズ・レコード
前田「ああ、行ったね! ビールを持ち込んで、ずっとレコードを掘ってた」
岡田「昼間から夕方まで粘ってましたよね。途中でビールが足りなくなって、店長の阿部さんがビールを買いに行ってる間、僕らが店番してた(笑)」
前田「誰も来なかったけどね(笑)」
――前田さんは、増村くんに会う前から森は生きているのことは知ってました?
前田「会う直前に音源を聴いたんじゃないかな。どんな人達が作ってるのか見当がつかなくて、僕と同い年くらいか、上なんじゃないかと思ってたんです。でも、実際会ってみたら、岡田くんは僕より10くらい年下でびっくりした」
岡田「そんな離れてないですよ。ポニーちゃんは増村と同い年だから6つ上です。当時、増村の家に泊まりに行くと、朝は必ず『休日のレコード』(ポニーのヒサミツのファースト・アルバム、2013年)がかかっていて。〈ああ、いい朝だな〉って思ってました(笑)。でも、増村はポニーちゃんのこと、どこで知ったんだろう」
前田「謎なんだよ。『休日のレコード』のトレーラー映像を気に入ってくれたみたいで、Twitterで呟いてくれたんだよね。それで〈誰だろう?〉と思って調べたら、森は生きているの人だとわかった。もう、4年前だよ。懐かしいなあ」
――その後、二人が共演したことはありますか?
前田「『休日のレコード』のレコ発のときに森は生きているを呼んだんですけど、共演はそのときだけですね」
――じゃあ、もっぱらお酒とレコードの付き合い?
岡田「完全にそうですね」
――そんななか、早速ですが、岡田さんは『The Peanut Venders』を聴いてみていかがでしたか?
岡田「そうだなあ、これまでよりカントリー寄りになった気がしました。バックのメンバーも、みんなカントリーっぽくなってる。アルバムのなかで1曲カントリーならわかるんですけど、全曲それで揃えてきたっていうのが新鮮でした。芦田さん(ギターの芦田勇人)、カントリー・リックが巧くなってるし、サボテン楽団さんが弾いてる曲でもすごいのがありましたね」
前田「サボテン楽団の服部くんはもともとカントリー的なフレーズが得意な人だったからね。例えば“夜の飴玉”は、彼が好きなジェリー・リードみたいな曲を作ってジェリー・リードみたいに弾いてもらおうと思った」
――今回はカントリー色より強く出すことが目標としてあったんですか?
前田「実は、アルバムを作り始めた頃、録音初日に録った曲は総じてあんまりカントリーっぽくはなかったんです。でも、ここ数年〈カントリーやってます〉っていうのを前に出してきたんで、〈もっとカントリーに寄せていかないとダメだな〉と思って(笑)、急遽カントリーっぽい曲を足したりして、結果的にこうなったというか」
岡田「あ、逆なんだ。でも、この時代に〈カントリー色を出さないと!〉と焦るなんて珍しいですよね(笑)」
前田「もちろん、無理矢理カントリーをやったわけじゃなくて、〈カントリーをやりたい!〉というのは、ずっと前から思ってたんだけど、いざ曲を並べたら意外とそうでもなかったんだよね。実は1枚目もそんなにカントリーっぽくないし」
岡田「(ポニーのファーストは)カントリーというより、ポール(・マッカートニー)の一枚目みたいな雰囲気でしたね」
前田「うん。ちょっと変なアルバム。それは時間や予算に制限があったっていうこともあるんだけど。だから今回は自分がやりたいことを、もっと前に出したいと思って。それがカントリーだった」