ハイブリッドな音楽性を磨き上げてフューチャー・ジャズを世界に提示した伝説的なユニットが19年ぶりのアルバムを完成! 『Message From A New Dawn』は新しい時代と新しいKJMの夜明けを告げる!

ブランクの理由

 日本のみならず、世界のクラブ・ジャズ・シーンを牽引してきた沖野修也と沖野好洋の兄弟から成るユニット、Kyoto Jazz Massiveが2002年の初作『Spirit Of The Sun』から実に19年ぶりとなるセカンド・アルバム『Message From A New Dawn』を完成した。今回はKyoto Jazz Sextetやソロ名義での音楽活動のほか、クリエイティヴ・ディレクター/ライター/The Roomオーナーなどなど多忙を極める沖野修也に話を訊いたのだが、まず本隊KJMとしてのリリースにこれほどまでブランクが空いてしまった理由とは?

 「前作をどう進化させるか、これが今作のコンセプトであり、それと同時に大きなネックにもなっていました。アシッド・ジャズのムーヴメントが沈静化した後にドラムンベースが出てきて、我々の音楽はそうした流れに乗って、ジャザノヴァやクープらと共に〈フューチャー・ジャズ〉と呼ばれ、2000年代初頭に音楽的な評価もセールス的にも大きな成功を収めることができました。2作目を制作するにあたって、あれを超えるものは作れないんじゃないか、むしろ、あの一枚で伝説になって終えてもいいという想いがあったのも事実です。ただ、僕個人としては表現者として続編を作りたかった。前作を受け継ぎつつ、さらに進化させたい、そう考えてデモを作り続けていました。一方で、弟はDJ/プロデューサーでありながらレコードショップを経営するバイヤーであり、レコード・コレクターでもありますから、作品を聴く耳がとにかく厳しい。インスタントに売れたとしても後世に残っていかない曲にはOKを出さないから、2018年の時点でKJMとしての新曲はたった2曲しかなかったんです(笑)。いまだから言えますけど、KJMのために作ったもののKJMで採用しなかった曲だけで作ったのが、実は僕の2006年のソロ・アルバム『United Legends』だったりします」。

 このペースでは流石に2作目を出すまでに何十年もかかってしまうと危機感を覚えたそうだが、そうしたなか、2018年9月に開催された〈東京JAZZ〉で全曲新曲、つまり当時まだデモ曲の段階だった楽曲のみでのライヴを敢行する。そこには一つの思惑があったという。

 「ライヴでオーディエンスの反応が良かったら弟を納得させられると思ったんですよね。結果的に大成功で、半ば強引ではありましたが、なんとか了解を取り付けました。そして、そのときのライヴ・メンバーが今回のレコーディング・メンバーです。翌年に改めて集まって、リハーサル3日、レコーディング2日の計5日間で一気に録音しました」。

Kyoto Jazz Massive 『Message From A New Dawn』 EXTRA FREEDOM/Village Again(2021)

 ヴァネッサ・フリーマン(ヴォーカル)、池田憲一(ベース:ROOT SOUL)、金子巧(キーボード:cro-magnon)、タケウチカズタケ(キーボード:A Hundred Birds)、中里たかし(パーカッション:JariBu Afrobeat Arkestra)、福森康(ドラムス)、タブ・ゾンビ(トランペット:SOIL& "PIMP" SESSIONS)といった面々と共に完成に漕ぎ着け、本来ならもっと早く世に出るはずだった『Message From A New Dawn』ではあるが、パンデミックの影響でリリースは大きくずれ込んだ。しかし、KJMの音楽は1年や2年で鮮度が落ちてしまうようなものではもちろんない。むしろ、次作までまた20年かかったとしても聴き続けることができそうな強度のあるアルバムに仕上がった。全10曲、収録時間は70分を超え、ぎっしりと詰め込まれた本作にはタイトル通りの〈夜明け〉を高らかに告げる、強い〈メッセージ〉が込められている。

 「ダンス・ミュージックって音像や音響に対する評価ばかりで、タイトルとか歌詞ってほとんど評価されないんですけど、マーヴィン・ゲイやアーチー・シェップ、ギル・スコット・ヘロンといった、僕らの好きなアーティストはしっかりとタイトルで姿勢を示しているんですよね。ですから、この〈Message From A New Dawn〉が意味するのはKJMとしての新しい時代の幕開けのことであり、コロナの後を見据えた新しい世界に対しての意味ももちろん込められています」。