リアルなジャズへと導く仕掛人

 DJとして、クラブ音楽のプロデューサーとして世界に名を馳せる沖野修也に、また新たな動きがあった。

 「DJというのは、知られざる過去の音源を回収し紹介する伝道者ですよね。でも、時代も地理もスタイルも異なるアーティストの作品を列べ換えることによって別世界を創り出す、クリエイターでもあるんです」

KYOTO JAZZ SEXTET MISSION ユニバーサル(2015)

 曲を横へパズリングすることで思わぬ物語を表出し、縦にミックスすることで未知の幽韻を響かせる。また現場の反応次第でメニューを変えられる即興家であり、音楽のこれからあるべき姿を模索する探求者でもある。何度か過去の音源で必要なメニューが見当たらない事があり、沖野は次にその音を自ら制作してしまおうとKyoto Jazz Massiveを立ちあげていた。ファースト・アルバムを発表したのがちょうど20年前のこと。そしてその20周年を節目に自身もメンバーに加わった初の完全生演奏バンドを始動させたというわけだ。ただし、沖野が作ったからと食ってかかれば痛い目に遭う。まずもって〈踊れるジャズ〉の発想がここには一切ないし、全編を通じて、演奏のクォリティにこだわり抜いたストイックなジャズ演奏ばかりなのだ。

 「じつはDJの素材となりうる演奏を、今のジャズ・ ミュージシャンはやれているのかなと感じてきたんです。 多くはトレンドの部分で、最先端じゃないんですね。つまり何が僕をこの録音に向かわせたかと言うと、そういうジャズの伝統的形態とスタイルに則っていながら、若い世代のアーティストの、最新録音による、僕が思うところの最新のジャズを提案したかった。ひとつのジャズ本道への殴り込みってことかな(笑)」

 テーマは、60年代新主流派ジャズ。リー・モーガン、ハービー・ハンコック、アート・ブレイキー、ジョー・ヘンダーソンらのブルーノート音源をモチーフに、セオ・パリッシュのデトロイト・テクノやフライング・ロータスのヒップホップの感覚がサンプリングされ、機械の手を借りずマッシュアップされる。

 「DJは新主流派をずっと敬遠してきたんです。そもそも踊れないし、そうした鑑賞芸術としての音楽を僕らは否定し、それをアイデンティティとしてきた。でもそのタブーを破ってジャズ評論家やジャズ喫茶の方々のお城へ足を踏み入れることで、断絶されていたジャズとクラブのボーダーを取り払えるのじゃないか。そんな幽かな期待もここにはこめています。もしそうなれば、これは事件ですよ。そして最終的にこの音楽で踊ってもらえるなら、それが僕の理想ですね」

 ブルーノート音源のジャケットに使用されたフランシス・ウルフの写真を、KYOTOGRAPHIE(4/18~5/10開催)は展示する。そこでこの演奏も流される予定。

 


LIVE INFORMATION

Kyoto Jazz Sextet『Mission』Special Live 2015 Guest 菊地成孔

○5/25(月) ビルボードライブ東京 
www.billboard-live.com