タワーレコードのフリーマガジン「bounce」から、〈NO MUSIC, NO LIFE.〉をテーマに、音楽のある日常の一コマのドキュメンタリーを毎回さまざまな書き手に綴っていただきます。今回のライターは渡辺祐さんです。 *Mikiki編集部

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Official髭男dismがすんなり読める時代の宿命。

 名は体を表すという言葉は、仏教由来のようであります。名体不二(みょうたいふに)。「ふに」の響きに癒されますね。何かの功績を成した人(または集団)の名前が成果と整合性が高いと「ふに」落ちる、ということです。藤川球児さんとか。がしかし、バンド名だけはどうにも名は体を表さない。現代バンド社会においては、すでに表さないことが美学のような潮流であります。

 まず、表している(というか表したいと思っている)派閥の例としてはブルース畑の「ローリング・ストーンズ」、西海岸の「ビーチ・ボーイズ(初期の)」、少し後だと「ブルース・ブラザーズ」あたりがわかりやすい。バンドがもてはやされるようになった60年代頃は、日本でも(まあまあ)名体不二派が主流でした。テンプターズとかブルージーンズとかクールファイヴとかジャイアント馬場とか(バンドじゃないけど)。当時はガイコクに憧れてたバンドが多いのでカッコよさの基準がそこにあるのはいたしかたない。

 70年代が始まった頃にだいぶ変化が起きております。「はっぴいえんど」「はちみつぱい」「頭脳警察」から「RCサクセション」あたりで「おやおや?」という感じになります。誰も書かないので書いておくと「はっぴいえんど」がカッコいいのかどうか、よくわからないじゃないですか。「サザンオールスターズ」も「いいのかそんなテキトーな感じで?」と大学生の筆者は思ったものです。そしてパンクの洗礼を受けた80年代には「スターリン」「ゼルダ」「ゲルニカ」ときて「あぶらだこ」とか「スペルマ」とか(笑)、思わず「売れる気ないんかーい」とツッコミたくなるアク強めのネーミングも発生。この頃だと「なぞなぞ商会」とか好きですね。その後、「エレファントカシマシ」や「Mr.Children」「勝手にしやがれ」を経て「ヤバイTシャツ屋さん」に至ると(猛スピードで省略)。

 思うに「名は体を表してないけど、このバンド名面白いよね?」という派閥はずっとあると思うんですね。ちょっとした若気の至りも含めて。しかも当代ではもうガイコクへの憧れもへったくれもないので、ガラパゴス的面白派が増えました。このコラムは「音は世につれ」ですが、バンド名も「世につれ」ている。

 Official髭男dismというバンドのネーミングの凄いところは、名体不二派ではなく、ガラパゴス的面白派としても「過ぎない」ところではなかろうか、と。まあ、漢字交じりだし、特に「ダン」のところはドメスティックですが、とにかくいろんな思惑みたいなものから軌道を離れているというか。サザンやミスチルに当初感じた「それでいいのか?」感もこうなるとございません。2010年代に登場したネーミング無手勝流。意味なさ過ぎのフィーリング勝負。そんなあなたがプリテンダー。あ、ファンの方は怒っちゃいけませんよ、お爺さんの戯言ですから。

 戯言にも五分の魂を入れておくと、際立ったサウンド&ポップセンスのよさで、バンド名は当たり前のように親しまれております。誰でも読めます。岸田首相の下の名前より有名です(たぶん)。つまり、ヘンな名の前に「体」あり。そう思えば、ワン&オンリーになれるかどうかというのは、名の前にあった何かで決まる宿命ですから、名前だけで判断してちゃダメですよね。でしたよね、サザンもミスチルも。

 今さらですが「そもそもOfficial髭男dismってどういう意味?」と思った方はぜひ検索してみてください。私が使っているパソコンでは「おふぃ」ぐらいまで打ったところで検索候補に「Official髭男dism」が表示されます。すげーなヒゲダン。

 


著者プロフィール

渡辺祐(わたなべたすく)
1959年神奈川県出身。編集プロダクション、ドゥ・ザ・モンキーの代表も務めるエディター。自称「街の陽気な編集者」。1980年代に雑誌「宝島」編集部を経て独立。以来、音楽、カルチャー全般を中心に守備範囲の広い編集・執筆を続けている。現在はFM局J-WAVEの土曜午前の番組「Radio DONUTS」でナヴィゲーターも担当中。

 

〈LIFE MUSIC. ~音は世につれ~〉は「bounce」にて連載中。次回は現在タワーレコード店頭で配布中の「bounce vol.458」に掲載中。