〈NO MUSIC, NO LIFE.〉をテーマに、音楽のある日常の一コマのドキュメンタリーを毎回さまざまな書き手に綴ってもらう連載〈LIFE MUSIC. ~音は世につれ~〉。今回のライターはカルロス矢吹さんです。 *Mikiki編集部

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 YonYonと初めて会ったのは、2013年。その時点での彼女は、東京に数多いる「音楽が大好きでこれから自分をなんとかしていきたい若者」の一人だったと思う。とはいえ、この原稿は本人に特別相談なく書いているので、出会いの経緯やその時期にどんな話をしたのかはここでは触れない。人の記憶なんて曖昧なもので、こちらの一方的な思い違いもあるかもしれないので。

 ただ、それから一定の交流は続いた。DJとして、シンガーソングライターとして、そして時にはプロモーターとして。日韓を行き来しての音楽活動はネット上で追っていたし、折に触れて会場まで足を運んでいた。そういえば、ソウル滞在のタイミングが被った時に、ホンデでご飯を食べたこともあった。あの時は現地の案内ありがとうございました。

 今や「NO MUSIC, NO LIFE!」のポスターを彩り、ひとかどの人物になったけれど、いきなりエレベーターでヒュンと出世したわけじゃない。そもそも彼女はまだ韓国音楽がここまで注目を集めていない時期から、韓国アーティストとの交流やコラボを続けていたわけなので、一段一段地道に階段を登った結果だと思う。そしてその過程を(もちろん全てではないが)見られたことは、自分にとっても良い経験だった。

 話は変わるが、先のパリ五輪。スケボーや新競技として採用されたブレイキン(ブレイクダンス)で、日本人が上位に進出し、「ストリート発祥のスポーツで日本人が強いのはなんでなんでしょうか?」という意見をSNSに投稿している人が大勢いた。それは、そう書き込む人たちの目に入らないところで、昔から努力してきた日本人が大勢いただけだ。

 韓国音楽の隆盛というのも、突き詰めるとそういうことなんだと僕は思っている。BTSやBLACKPINKといったアーティストたちの海外での成功は唐突なものではなく、K-POP全体が絶え間ないトライ&エラーを繰り返した結果だ。メインストリームだけでなく、Kim OkiやKim Sawolなど、主にインディシーン、アンダーグラウンドでの活動を続けていた韓国人アーティストの来日公演も、今年は相次いで実現しているが、それだって地道に韓国と繋がりを作っていた人たちが日本にいたからできたことだ。なお、いずれも素晴らしいパフォーマンスだったことを付け加えて記しておく。

 今、名前を挙げたアーティスト全てに、YonYonが関わっているというわけじゃない。でも、彼女の様なクリエイターたちの頑張りが一つずつ織り合わさったお陰で、僕らは韓国発の良い音楽を享受出来ている。いわゆる“シーン”が産まれる理由って、結局はそういうことだよね。僕はそれをYonYonの姿から教わったつもりで、そのことにとても感謝している。ありがとね、YonYon。今更だけど、3月にリリースした「Make My Day」めっちゃ聴いてます。

 


PROFILE: カルロス矢吹
作家。1985年、宮崎県生まれ。世界60ヵ国以上を歴訪し、大学在学中より国内外の大衆文化を専門に執筆業を開始。著書に「北朝鮮ポップスの世界」「世界のスノードーム図鑑」「日本バッティングセンター考」など。展示会プロデュース、日本ボクシングコミッション試合役員なども務め、アーティストやアスリートのサポートも行う。上田航平、ラブレターズ、Saku Yanagawa、吉住、Gパンパンダ星野の6名によるコントユニットTokyo Sketchersの米国公演準備中。

 

〈LIFE MUSIC. ~音は世につれ~〉は「bounce」にて連載中。次回は2024年12月25日(水)から全国のタワーレコードで配布開始される「bounce vol.493」に掲載。