類まれなる歌唱力とキャッチーなポップソングを得意とする作曲の才で、ここ日本でも人気の高いメーガン・トレイナー。彼女の2015年の楽曲“Title”がいまリバイバルヒットしている。軽快なクラップとスウィンギンなリズムが特徴のこの曲は確かに普遍的な魅力を持っているが、それにしてもリリースから7年を経て、なぜ再注目されているのだろうか? 今回はライターのセメントTHINGが、“Title”再燃の背景からメーガンの音楽特有の魅力を考察した。 *Mikiki編集部

 


“Title”、リリースから6年を経てTikTokで人気爆発

メーガン・トレイナーの勢いが止まらない。きっかけは“Title”のバイラルヒットだ。〈Kiss my a** goodbye〉という歌詞に合わせ投げキッスしお尻を振る、というダンスチャレンジが昨年12月から急速に人気上昇。その勢いは日本にも波及し、Billboard JapanのTikTokチャートでは4週連続“Title”が1位(2022年1月12日付)。メーガンもダンスチャレンジ動画をTikTokに投稿しただけでなく、長らく本国では未公開だった“Title“のMVを公開。すでに3,000万回以上再生されている。

※『Title』の日本盤スペシャルエディションの特典DVDのみに収録されていた
2015年作『Title』表題曲
 

フリートウッド・マックの“Dreams“(77年)やAly & AJの“Potential Breakup Song”(2007年)、倖田來未の“め組のひと”カバー(2010年)や少女時代“Gee”(2009年)。TikTok経由でリバイバルヒットする曲は増え続けている。“Title”のヒットもそのような現象といえるだろう。一方で見逃せないのは、ヒットをきっかけにメーガンの他の曲も注目を集めはじめていることだ。いま、彼女の音楽のなにがリスナーを惹きつけているのか。その魅力に迫りたい。

 

レトロでカラフルなメーガン・トレイナーの音楽

メーガン・トレイナーの音楽を特徴づけているのは、レトロなポップカルチャーの引用だ。2014年、弱冠20歳で発表したデビュー曲“All About That Bass”にはそれがはっきり表れている。明るく耳馴染みのいいメロディー、シンプルなビート、〈ウーワッ〉というスキャットを披露するコーラス。ラップを交えるなど現代的な工夫はなされているが、1950年代に流行ったR&Bのジャンル〈ドゥーワップ〉の影響が非常に色濃い。MVのテーマも〈1950年代〉だ。

2015年作『Title』収録曲“All About That Bass”
 

過去のポップ/ソウルミュージックを援用しつつ、レトロな美学に貫徹されたスウィートでカラフルな世界観を作り出す。EDM全盛期にリリースされたこのほとんど反時代的なコンセプトをもった曲は、その新鮮さで世界中のヒットチャートを瞬く間に席巻した。

※プロデューサーであるケビン・カディッシュは、EDMには乗らないと決めていたと明言している

 

ブルーノ・マーズから学んだ〈懐かしい〉という魅力

なぜメーガンは流行から距離を取り、過去のポップカルチャーを引用するという手法を選んだのだろう。その理由を紐解くヒントは、彼女が度々リスペクトを公言するスター、ブルーノ・マーズの存在にある。

現代ポップ界のメガスター、ブルーノ・マーズ。彼の音楽は、大和田俊之の言を借りれば〈絶妙な「懐かしさ」の感覚〉に特徴づけられている。過去のブラックミュージックのサウンド、カセットテープやジュークボックスなどのレトロなイメージ。これらをキャッチーな楽曲と絡め巧みに引用することで、彼はリスナーの〈懐かしい〉〈親しみやすい〉という感覚に直感的に訴えかける。そうすることで、彼は強烈に甘美な〈ノスタルジア〉の世界へ人々を引き込むことができるのだ。

※大和田俊之「アメリカ音楽の新しい地図」(筑摩書房)〈ブルーノ・マーズとポストコロニアル・ノスタルジア〉より
 

私はずっと自分がレトロなサウンドを書くのが上手いとわかっていた」。そう語るメーガンが自分のやりたい音楽をやると決めたとき、ノスタルジックな曲を次々ヒットチャートへ送り込むブルーノの方法論に影響を受けたことは想像に難くない。巧みな引用とキャッチーな楽曲でリスナーの〈懐かしい〉という感覚に訴えかけることができれば、世界は耳を傾けるはず。彼女はその難題に挑戦し、成功した。メーガンをよく知らない人でも、曲を聴けばどこか〈懐かしい〉〈親しみやすい〉と感じずにはいられない。それは彼女の音楽が我々リスナーの〈ノスタルジア〉に強く訴えかけるよう、巧妙に作られているからなのだ。