CHARLIE PUTH
ハンサムな歌声とレトロな曲作りのセンスから生まれた、時代を超える粒揃いのポップスたち

 ポップス古典の滋養を折り目正しく吸収した音楽性、あえて〈ハンサム〉と呼びたい歌唱、そしてカレッジ・ボーイのような風貌……。昨年を代表する世界的ヒットのひとつ、ウィズ・カリファの“See You Again”でフックを歌って脚光を浴び、メーガン・トレイナーとデュエットした自身の“Marvin Gaye”を全英チャート1位に送り込んだチャーリー・プースが、いよいよ初めてのフル・アルバム『Nine Track Mind』を完成させた。表舞台に現れた当初はブルーノ・マーズの次を狙うニューカマーのようにも思えたものだが、ブルーノのようなショウマンシップよりも裏方気質の強いオーセンティックな曲作りの技量こそが彼の資質であることは、アルバムの端正な仕上がりからも明白だ。また、飛躍への発端になったのがYouTubeにアップしたアデルのカヴァー音源だったと知れば、ソウルフルでレトロ・モダンなここ数年のUKポップに通じる味わいにも納得だろう。

CHARLIE PUTH Nine Track Mind Atlantic(2016)

 もともと91年にニュージャージーで生まれ、教会で歌いながらやがてジャズ・ピアノに傾倒していったチャーリーは、バークリー音楽院に在籍中の2010年にEP『The Otto Tunes』を自主リリース。その後は大物司会者のエレン・デジェネレスにフックアップされ、2014年頃からピットブルジェイソン・デルーロらへの楽曲提供をスタートする。特に共同プロデュースも手掛けたトレイ・ソングズの“Slow Motion”(2015年)はその年のR&Bを象徴するビッグ・チューンとなり、先述の“See You Again”や“Marvin Gaye”との相乗効果で、この多才な有望新人の名を一気に高めたのだった。

 そして、シーロー・グリーンへの曲提供も経て届いた今回の『Nine Track Mind』は、典型的なドゥワップ・マナーを下敷きにしたアレンジ/メロディーメイクの“Marvin Gaye”が象徴するように、モダンなメインストリーム寄りの要素はスパイス程度に止められている(歌詞はアレだが……)。真摯に熱唱するセカンド・シングル“One Call Away”はいつの時代の曲ともわからないドラマティックな出来映えだし、ヴェラ・ホールフォーク~ブルース古典“The Wild Ox Moan”をアトモスフェリックにネタ使いした“Losing My Mind”のようなナンバーでも主役のオーソドキシーを弁えた振る舞いはマイペースだ。いわゆるレトロ系の流れに乗りつつ、アレンジを選ばない楽曲の良さが間口の広さを引き寄せた佳曲集と言えるだろう。

 すでに各賞へのノミネートという勲章は獲たものの、この後にはアリアナ・グランデの新作にも名を連ねているそうで、彼の真価が発揮されるのはこれからかもしれない。