若いアーティストの台頭が著しい現在の音楽シーン。あらゆるジャンルをクロスオーバーさせたグッド・ミュージックの数々は、どれも独自のサウンドスケープを描いており、聴いていて非常に興味深い。そんな潮流の中でひときわ異彩を放つアーティストがいることをご存知だろうか。弱冠21歳ながら、さまざまなアーティストへの楽曲提供をはじめ、他アーティストのライヴを多くサポートしている気鋭のコンポーザー、ニューリー。ジャズやニューウェイヴといったジャンルを独自の解釈でヒップホップに昇華する彼の音楽ルーツは、多岐にわたっている。
「小学4年生のときにギターを始めて、中学ではエレキ・ギターでブルースやジャズを弾いていましたね。ギタリストとしては長岡亮介さんを特に尊敬していて、他にもジョン・メイヤーの音色が好きです。その後、高校の頃からDTMでヒップホップのビートを作るようになりました。それには、〈ソウルクエリアンズ〉の存在が大きかったです。コモンやエリカ・バドゥ、ザ・ルーツといったアーティストの〈生楽器を使っているけど、あくまでもトラック〉というサウンドの質感が好きで、そういうものを自分なりに作りたいと思っています」。
〈誰かが作れそうなサウンドは求めない〉という考えのもと、いつもとは異なる挑戦をしたと話すのが今回リリースの新作EP『NEUE』。楽曲ごとにJIVA Nel MONDO、NF Zessho、鎮座DOPENESS、チプルソという4人のラッパーを招き、オンタイムに感じられるドラムのビートやチルな心地の良いウワモノで独立した音楽像を提示している。
「今回参加していただいた皆さんに共通して言えるのは、現場で会った人たちで、俺が純粋にファンな人、好きな人だということです。客演を迎えた4曲はいずれも、デモ音源の段階からけっこう変化しています。ラップを乗せて返してもらったものを踏まえて、グルーヴ感や音の質感を試行錯誤しながら完成させた感じです。特に今作は音の足し算・引き算にかなりこだわって制作しました」。
独特の浮遊感とグルーヴ感が特徴的なニューリーのサウンド。なかでも今作の3曲目に収録された“Cogara”は彼の名刺代わりの一曲と言えるだろう。メロウなピアノ・フレーズからスタートするこの曲は、ニューリーの音楽的才能が遺憾なく発揮されているように思える。
「コード1つ1つに個人的なイメージがあって。作曲するときには、まずギターやピアノでコードを弾いて、そこから思い浮かぶ景色や情景、感情などに合うフレーズをつけていくことが多いんです。ただ“Cogara”に関して言えば、昨年の夏以降に制作でいろんな場所に行ってたんで、そこで見た景色や食べたもの、みんなで遊んだ雰囲気をそのままコードにするっていう、いままでとは逆のやり方で作っていた気がします」。
彼のスタイルは、ただのビートメイカー、コンポーザーとは形容し難い。その所以はギターやベース、ピアノなどさまざまな楽器をみずからの手で奏でることができる点にもある。現にライヴでは、楽器を演奏しライヴ・ショウケースとして〈魅せる〉パフォーマンスを展開している。
「ビートメイカーやDJ、ラッパー。みんな尊敬しているけど、どれになりたいわけでも誰かになりたいわけでもなかった。そんな中で自分にフィットするスタイルを見つけました。自分が作るものはわかりやすすぎず、でも複雑すぎない形で伝えたい。〈わかるやつにはわかる〉みたいなスタイルは違うかなと思うから、〈みんなでこのグルーヴ感じられたらいいよね〉っていう気持ちが強いんです。その思いを楽曲やライヴで感じてもらいたいです」。
ニューリーが生み出す世界観から今後も目が離せない。
ニューリー
2000年生まれ、横浜を拠点とするビートメイカー/プロデューサー。クリエイティヴ・チームのChillySourceやPLANET TOKYOとの活動を通じて注目を集め、2019年にkojikojiとAkusaをフィーチャーした“せもたれ”で脚光を浴びる。前後してBASIの『切愛』にて2曲のビートを担当。2020年にはkojikojiを迎えた“Settie”に続き、初のビートテープ『MMM』をリリース。自身名義の作品と並行して、Rin音や空音、kojikoji、TOSHIKI HAYASHI(%C)、クボタカイ、pinoko、NeVGrN、鈴木真海子らの楽曲制作や演奏に参加していく。2021年にはOILWORKSよりビートテープ『GOLFF』を発表。さらなる話題を集めるなか、このたびニューEP『NEUE』(Broth Works)をリリースしたばかり。