©️2021「空白」製作委員会

古田新太 × 松坂桃李! 不寛容な世界の片隅で見せた吉田恵輔の成熟!

 白昼の小さな漁港の町。中学生の少女が走る。その走る少女をスーパーの店長が追いかける。逃げる少女は車道を横切った際に自動車事故に遭い、亡くなってしまう。直接的な描写は控え目だが異様にリアルな感触がショッキングなこの事故をめぐって映画は動き始める。

吉田恵輔, 古田新太 『空白』 VAP(2022)

 主要な登場人物は二人だ。一人は、古田新太演じる今まで娘には無関心だった少女の父親。すぐ「ぶっ殺すぞ」などと言う言葉が口に出る威圧的な男だ。もう一人は、松坂桃李演じる万引きの疑いで少女を追いかけたスーパーの店長。女子中学生の父親とは対照的な温和な男である。お話は、父親が事故死の間接的な原因となったスーパーの店長を追及し続けるのが主軸となる。父親の店長への高圧的な追及がエスカレートする中、ワイドショーやインターネットでは双方への誹謗中傷が拡散されていく……。

 「さんかく」「ヒメアノ~ル」の監督・吉田恵輔が、自身の知人の死になかなか折り合いをつけられなかった経験を基にオリジナル脚本を書きおろした。父親は他者へ、店長は自己へと少女の死との折り合いの糸口を見つけようとするが、見つけられずに魂が傷ついていく〈地獄〉を、観客はそれぞれの立場に立って登場人物に寄り添い見つめ続けるのみだ。人と人は分かり合えないという結論にしか至らないかのようにみえる。

 確かに安易な赦しや救済は訪れない。しかし変化もある。父親は、娘の好きだった油絵を自身も描くなどして娘を理解しようとするのだ。結果として、娘のことを分かり合えなかった事実だけが浮き彫りにされるだろう。そんな後悔の念と共にいる父親に、映画は一つの〈ギフト〉をもたらす。人と人は分かり合えないかもしれないが、分かり合おうとする過程の中で〈希望〉とすら呼べぬような微かな、しかし確かな光のようなものを観客も目撃するはずだ。

 それは、観客と映画との関係にも言えることかもしれない。各々で映画「空白」との折り合いをつけていただけたらと思う。